Phalenopsis amboinensis

1.生息分布

インドネシア(マルク諸島、スラウエシ島、アンボン島)
パプアニューギニア


2.生息環境

 低地(80m) 。年間23-33C、湿度70-85%の高温多湿の熱帯雨林帯で、直射光が当たらない樹幹に着生する。開花は通年見られる。

3.形状

3-1 花



1.花被片
 花名はアンボン島産という意味。花の直径は4.5-5cm。それぞれの被花弁は丸味のある楕円形(ノーマルタイプの花弁は長楕円)。野生種の大半(普通種)は下写真最上段に示す白色あるいはクリーム色をベースに茶褐色の太い棒状斑点が同心円状に入るフォームである。中心は白色。それぞれの花被片の先端部は薄緑あるいは薄黄緑色となる。花茎3-4本にそれぞれ3‐4個の花をほぼ同時に着ける。本種は胡蝶蘭原種の中で最も花フォームの多様な種の一つである。2段目の写真は花被片先端の黄色の割合がノーマルタイプに比べ増している。3段中央から5段のフォームはPhal. amboinensis v. yellowとされるフォームで花被片のベース色が黄色となる。これら yellowフォームは自然界ではめったいに見ることはできない。他種との交配で、この黄色はよく遺伝すると言われる。このため黄色の胡蝶蘭を作出するための品種として重要とされている。最下段左と中央はaureaフォームで右はアルバである。本種は強い香りを放つ。

 しばしばPhal. amboinensis v. yellowあるいはflavaと呼ばれる変種のなかにベースが黄色、斑点が黄緑色の花柄がある。これに加え花弁が抱え咲き(前屈みに花弁が湾曲する)しているものはPhal. venosaとの交雑種とする見解がある。30年程前に最初に発見された野生の、ほぼ全体が薄黄色のflava タイプ(最下段左参照)からの継代種は現在入手が極めて難しい。またベースが茶色のbrown タイプと呼ばれるものは野生変種である確証がなく(誰が、いつ、何処で発見したか)、これもdark系Phal. venosaとの人工的な交雑種の可能性もある。開花時期は不定期だが、温室では年2回程の開化が見られ、早春と晩夏に多い。


2. リップおよびカルス
 下にリップ拡大写真を示す。リップ中央弁は白色をベースに中央部と先端部それぞれに、高く盛り上がった2つの竜骨突起があり、その側面を一本の赤褐色のストライプが走り、また突起頂上には鋸波状の凹凸がある。先端部は赤褐色の棒状斑点が左右面にほぼ2列に入る。蕊柱は通常青紫が混じった白色である。リップ中央弁の外形は長楕円形でエッジはなめらかな曲線である。一方、Phal. venosaは先端半分が細かい鋸状のエッジとなっている点で異なる。右端はリップの側弁を取り除いたカルスを示す。カルスは2組の、先端が2つに分岐した歯状突起がそれぞれあり、腺状突起はない。

Lip and Callus

 かってPhal. amboinensisはしばしばPhal. sumatranaと混同されたようである。下写真にPhal. sumatranaの花弁とリップを示す。写真左端に示すようにPhal. sumatranaは花柄は黄白色をベースにした花被片に、同心円状の棒状斑点が入る点でPhal. amboinensisに似ているが、リップ先端部には繊毛(写真中央)がある。さらにリップ基部に近いカルスの形状(posterior callus)はPhal. amboinensisと異なり複数の腺状小突起がある点で異なる。

Phal. sumatrana
Phal. sumatrana lip
Phal. sumatrana Callus

 現在市場に出回っているPhal. amboinensisと呼ばれる品種の中に、全体が黄色あるいは茶色で同心円状の斑点が黄白色(あるいは黄緑色)で入るyellowやflavaタイプがありPhal. venosaとの交雑種ではないかと言う見解がある。これはPhal. venosaと類似している点と、この品種の自家交配を行うと、自家交配では考えにくい多様なパターンの実生が出現するからと言われる。下写真にPhal. venosaを示す。Phal. venosaは黄色あるいは茶褐色が花被片全体に広がり、また中心部が白色で花被弁形状とサイズが3.1項のPhal. amboinensisと極めて類似している。このためPhal. amboinensisPhal. venosaを交配しても、カルス形状(右端)や、その配色もほぼ同じであり、また中央弁の先端突起も類似することから、実生の花被弁の外形やカルスからはこれらの交雑種か変種かの判断が難しい。さらに生息地(スラウエシ島)の点でも同一である。

Phal. venosa
Phal. venosa
Phal. venosa lip

 下にPhal. amboinensis、右にPhal. venosaのリップ拡大写真をそれぞれ示す。異なる点は、Phal. venosaには中央弁の先端下部から中央までの外周に、細かな鋸状の凹凸があるのに対してPhal. amboinensisは滑らかである点と、Phal. amboinensisでは中心に走る2つの竜骨突起の頂上が、キザミのある基部側と、滑らかな先端側それぞれに2:1の長さで分かれているのに対し、Phal. venosaはほぼ中央に溝があり分かれている点、さらに、上から見たリップ中央弁外形はPhal. amboinensisは長楕円形であるのに対し、Phal. venosaのリップ先端は上部から見るとV字で楔型である(上画像中央)。

Phal. amboinensis midlobe
Phal. venosa midlobe

3-2 さく果

 写真左は受粉後2ヶ月の状態である。さく果は6筋の溝をもち、花被片部分はやがて緑色に硬化する。縮れて落下することはない。子房の長さは7.0 - 8.5cm。採り播きは4ヵ月後で可能となる。 写真中央および右はそれぞれPhal.amboinensis f. flava自家交配の約4か月と1年経過したフラスコ培養で、右端は3回目の移植後の写真である。培地成分によるものか、プロトコームからの発芽が遅く、他のフラスコでは1年経過後もプロトコームを増殖中のものが多く見られる。

さく果
フラスコ苗(4か月)
フラスコ苗(1年)

3-3 変種および地域変異

  1. amboinensis v. yellow
    鮮明な黄色に赤褐色のストライプが入る(3.1項(1)花被片を参照)。

  2. amboinensis f. flava
     ベース色は花被片、リップ共に薄黄色。花被片の先端部は薄緑色がかかる。黄緑色からオレンジ色のストライプ模様が同心円状に入る。下写真はSian Lim氏が所蔵していたPhal. amboinensis f. flavaである。Phal. amboinensisの形状をすべて包含しており、またPhal .venosa固有の形質は見当たらないことから純正のPhal. amboinensis f. flavaであろう。匂いはノーマルタイプに比べてやや弱い。このタイプを黄色作出の交配親にした情報は不明であるが交配種を試みる人にとっては興味のある種となろう。


  3. amboinensis f. alba
    リップ側弁の薄黄色を除き花被弁が白色あるいは薄いクリーム色で、バーは入らない。

    Phal. amboinensis v. alba

  4. amboinensis 4N
    一般種の1.5倍程のセパル・ペタルサイズ(右手前。左の2輪は一般サイズ)をもつ。栽培を通し、このサイズは環境に影響されないことから4N体の可能性が推測される

    Phal. amboinensis 4N (right)

3-4 葉および花茎 

 葉は長楕円で長さ22-25cm、幅7-8cm。厚みはPhal. amabilisPhal. bellinaと比較してやや薄い。写真は右がyellow、左がnormalタイプ。葉は右写真のように、新葉も下垂する性質があり、茎が垂直となるポット植えは適さない。コルクあるいは写真の斜め吊りのバスケットが成長が良く、適している。

 一方、花茎長は15-20cmで2-3本の花茎を発生し、それぞれに2-3輪の花を着ける。写真右のように花茎が分岐することも特に野生種にはしばしば見られる。またPhal. amboinensisには高芽がでることがある。写真の花茎は1年経過したものに新しく蕾が花茎当たり2個ほど着いたものである。花が終了した場合、花茎を基部からカットするか、そのまま放置し翌年の再びその花茎に花を咲かせる方が輪花数が増えるかは、環境や種によって異なる。Phal. equestrisなどの徐々に花数が減っていくものはカットして新しい花茎を出させる方が花着きはよいが、Phal. amboinensisではそのままの方が全体として花数が増えるように思われる。

入荷直後の植付け様態 花茎

3-5 根

  根は太く旺盛に成長する。1年で10cm角バスケットは満杯になり、はみ出してしまう。大株になればヘゴチップ・プラスチック鉢か、ヘゴチップ+ミズゴケ素焼き鉢に植えつける方法も考えられるが葉が下垂するタイプであり斜め吊り以外は基本的に適さない。下写真は杉皮板付けである。


4 育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット      
    ミズゴケ 素焼き   斜め吊り

  2. 難易度
    容易

  3. 温度照明
    高輝度は好まない。新葉や花茎の発生時期と環境から考えると高温を好む。栽培は容易である。

  4. 開花
    温室栽培では夏咲きである。早くて6-7月に開花。flavaタイプは少し遅れて8月頃となる傾向がある。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    葉: 湿度が高く通風が悪いと、葉に水侵状の淡褐色腐敗病を発生しやすい。細菌性病害であるため抗生物質薬剤(ストレプトマイシン系)の散布が必要。頂芽の生え際が犯されると回復は困難となる。梅雨期は葉に一晩中水が溜まらないように潅水し、通気を高めなければならない。病気が発生した場合は薬剤での部位の復元は不可能と見なし、部位とその周辺を切り取り、切り口に直接薬剤(原液)を塗る方法が確実である。

    葉内に小さな円状褐色の褐斑病が生じることがある。これはカビ系薬剤で対応する。通常、4月から10月の間は月1回程度の細菌性およびカビ系の薬剤を混合した殺菌散布が好ましい。規定希釈の園芸用薬剤散布で薬害が出た経験はない。

5.特記事項

 Phal. amboinensisは交配や選別改良がPhal. violaceaに次いで多く、実生が親の色やパターンを継承する保証はまずない。奇抜な花柄をもつ交雑種を希少種として販売される可能性がある。その色合いや形状を継承するためにSeedlingを目論むのであれば原種専門業者以外からの入手は避けた方が良い。