Phalenopsis equestris

1.生息分布

台湾 (Lanyu Island)
フィリピン(Ilocos Norte, Aparri, Quezon, Mindanao)

2.生息環境

 海抜300mまでの川辺周辺に生息。温度23-32C、湿度70%以上。

3.形状

3-1 花



 花は3-3.5cm。茶褐色の弓なり(Ilocos)あるいは緑色立ち性(Aparri)の花茎に5-10輪花を、1-3月の冬季を除いて周年つける。花名は騎手の意味。上の写真はMindanao産である。特定の開花期はないが国内では夏季が最盛期となるものが多い。小型種として最も人気の高い種の一つである。リップの色合いが多様で改良種も多い。リップの色は多くが紫色であるが、黄、オレンジ、赤、青などがあり、青は比較的少ないとされる。
 野生種は高芽の発生が多い。 2-3輪では感知が難しいが、多輪花の場合はPhal. sumatrana Phal. floresensisに共通する匂いのあることが分かる。ただしそれらに比べて遥かに微香である。

1. 地域別花被片

 地域差および変種あるいはFormとして下記がある。cyanochilaタイプはリップ中央弁の先端がブルー、基部がゴールド色をもつもので、これまで産地は知られていないとされていたが、本サイト所有の同パターンをもつ株がMindanao産の野生株に現れている。

Phal. equestris aparri
Phal. equestris ilocos
Phal. equestris v. rosea
Phal. equestris v. rosea Blue
Phal. equestris v. cyanochila (mindanao)
Phal. equestris mindanao
Phal. equestris mindanao
Phal. equestris samar
Phal. equestris Leyte

2.変種および交配種
  1. Phalaenopsis equestris f. coelurea

  2. Phalaenopsis equestris f. aurea

  3. Phalaenopsis equestris f. alba

  4. Phalaenopsis equestris peloric (突然変異からのクローン)

  5. Phalaenopsis equestris Hybrids
     マーケットでのleucaspisとされる多くは改良種と思われる。Calayan諸島にはリップの赤やオレンジが見られるが、この地域種として市販されているようなleucaspisタイプとされる多様な色彩フォームがこれら狭い範囲に分布しているとは思えない。Wild plantをストック・栽培するフィリピン1次および2次業者(ManilaからMindanaoまで)を訪問したが特定される地域からの株はほとんど単一のパターンを持つ。これが自然の実際の生態であって、おそらくフィリピンでも3次業者の扱うleucaspisタイプは台湾からのシブリングクロスによる逆輸入種であろう。また一般的には野生種は自家交配が容易であるが、奇抜な色をもつleucaspisタイプは自家交配でシイナを生成する株が少なく、この点からも人工交配種と考える。

3-2 リップおよびカルス

  本種のカルスは1組からなる盾形。主に黄色のベースに赤褐色の斑点をランダムにもつ。中央弁は多種多様であるが、自然界の野生種には主に青紫色から紫色が一般的である。

Lip and Callus (v. rosea)

 中央弁のカラーの異なる5つの種類のリップ形状と側弁を下写真に示す。中央がsamarタイプ、他はAparriタイプである。下写真はカルス形状を、左写真は前面から、右写真は後面から撮ったものである。側弁やカルス形状がそれぞれ微妙に異なるが、それが地域差やフォームを表わすものかは不明。地域固有の特徴を見出すには多くのサンプルでの検証が必要であろう。

Variety of Lips

3-3 さく果

 さく果は淡緑色から濃緑色で、右写真はIlocos産。さく果の基部は焦げ茶色であるがこれは花茎が赤軸の場合に見られる。左写真はQuezon産のalbaタイプのさく果である。長さは3-4cm。花被片は交配後、写真のようにやがて枯れ縮む。4ヵ月ほどで採り撒きができるようになる。

Seed Capsule (Left: Mindanao, Right: alba )

3-4 葉

 葉はIlocos産が胡蝶蘭のなかでは最も細長く長楕円形で、長さ19-20cm、幅3-3.5cm。葉裏の一部が褐色を帯びることがある。一方、Aparri産として入荷される株は厚み、幅ともにPhal. aphroditePhal. sanderianaと変わらず鮮緑色で厚く、大きい。地域により幅、厚みや色(黄緑から濃緑色)まで様々なようである。
 roseaタイプは長楕円でスリムで幅5cm。Phal. amabilisほどの厚みはないが、固くしっかりしている。いずれも鮮緑色。Aparri産(写真右)が最も大型の葉で長さ25-30cm、幅7cmとなり、葉の厚みもPhal. amabilisと同程度で葉形状からは種別ができない程の株も見られる。

Leaves

3-5 花茎

 花茎は黒褐色(ilocos、samar、mindanao)の赤軸および緑色(aparri)の青軸がある。野生種はPhal. pulchraに次いで高芽の発生が多い。茎をそのままにすると、samarおよびmindanao産では周年3‐4輪が花茎先端部に咲き続ける一方、aparri 産は青軸の多輪花で数十輪を超える花を同時開花し、花期が終了すると花茎は枯れる。一方、samarおよびmindanaoは殆んど枯れることがない。この特性は顕著である。毎年花茎は基部から切り取った方が花つきは良い。またコルクや木製バスケットなど何種類かのコンポストを使用したが、コルクやヘゴはバスケットに比べて花つきが悪い。根が水を好むのであろう。写真左はaparri産。右はmindanao産で3年以上枯れず、花茎で1m以上伸長している。3輪ほどの花を同時開花し通年で花茎を伸ばしながら咲き続けている。

Aparri産
Mindano産

3-6 根

 根は銀白色で先端は黄緑色。samarタイプがやや細く、Aparriはやや太い。鉢植えからコルクやヘゴ板に変える場合、新根が出て活着するまでに比較的長い時間(1年程)かかるようである。活着しても、同節のPhal. celebensis、Phal. lindeniiなどのリボン状となり根の表面が銀鼠色の皺となる種とは、かなり様相が異なる。温室ではバスケットが最も適しており大株となる。写真の株は入荷時に3-4本の短い根であったが、1年で写真のように多くの根が成長しバスケットをはみ出している。

Roots

4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    バスケット
    ミズゴケ 素焼き - 斜め吊り
    ヘゴチップ プラスチック 斜め吊り

  2. 栽培難易度
    容易

  3. 温度照明
    胡蝶蘭のなかでは比較的低温栽培が可能である。生存温度は12-35Cであるが、最適温度範囲は18-30Cとなる。照明は5-10月で日中70%あるいは午前中9時頃まで50%、それ以降70%の遮光。冬季は日中50%遮光で問題はない。木製バスケットやミズゴケをヤシガラマットで包んだ植込みの成長が良いのは根が比較的水分を好むのかも知れない。本種は本来、葉は下垂して着生しているが、小型で花茎は上方に伸長するためポット植えでも栽培ができる。しかしポットの立植えの場合、かん水によって頂芽部分に常に水が溜まり、多くの本種が頂芽を細菌性の病気で失ったことがある。それ以来ポット植えであっても斜め吊りで栽培している。

  4. 開花
     7-8月が一般的には多いが、温室栽培では開花期は特に定まらない傾向がある。4-5本の花茎に花をつける。花被片の写真のように多くの輪花数を得たいのであれば、バスケット栽培が良い。温室における変種毎の開花の順序は、roseaタイプが最も早く2月頃から、Aparri系が5月頃、Mindanao系が夏季以降に最盛期となる。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    病害虫には強い種であるが、台湾改良種と思われるalbaに、根元の主茎が黒く変色する疫病がしばしば発生(2008-10年)した。ダコニールやリドミル(あるいはその混合)で対応できる。 また立植えは前記したように避けた方が良い。
 

5.特記事項

 本種は胡蝶蘭の中で最も変種やフォームが多い原種の一つである。同時にマーケットでは人工交配によるハイブリッド種も多数見られる。