植え込み材と鉢

 デンドロビウム原種は気根植物であり、樹幹などを支持体としてその表皮に根を張り、根の半面は支持体に、半面は直接空気と接して生息しています。自然界では驚くほど長く大量の根が支持木に重なり合うようにして活着しており、栽培ではまず見ることのできない大きな株に成長しています。自然環境では自身が生成する光合成による栄養素と、落ち葉や昆虫あるいは小動物から得られる僅かで不定期な有機栄養源しかないにも拘らず、なぜ施肥が定期的に行われる人工栽培と比べ、比較にならないほどの大きな株になるのかは、根が張る面積や体積の違い以外、原因が見当たりません。自然には人工栽培におけるポットとは異なり、無限の空間がありCAM植物としての空気中の水分の摂取と、光合成で得た糖分からラン菌によって変換された無機栄養素を十分に蓄えられる大量の根がバルブと葉の成長に大きく影響しているためと考えられます。

 より多くの根を発生させ、長く伸長させることは大きく元気な株を造る決定的な条件であり、この根の成長に直接関係する植え込み材と鉢の組み合わせをどうするかが栽培の基本となります。気根植物に求められる植え込み材の条件は以下となります。
  1. 吸放湿特性に優れる(高い保水性と、ゆっくりとした水分の蒸発性)
  2. 高い透水率(かん水した水は植え込み材を通ってそのまま流れ落ちる)
  3. 強アルカリあるいは強酸性でないこと
  4. 十分な気相(空気の空間)をもつ
  5. 経年変化(形状、酸化、PHの変化)が少なく長寿命
  6. カビやダニ類の発生が少ない
  7. 植え替え安さと低コスト
 デンドロビウムの多くは熱帯雨林帯から1,000m級の雲霧林における高温・高湿環境、次いで2,000m級の高地雲霧林の低温高湿環境、さらにモンスーン気候の雨期・乾期のある環境にそれぞれ分布します。こうした異なる環境に適応したデンドロビウムを栽培空間の制約から同居せざるを得ない場合、温度と湿度はほぼ同じ条件となり、唯一調整が可能なのは、かん水量と頻度となります。しかしこれとて鉢数が多くなれば困難で、皆まとめて、同じ量、同じタイミングでかん水を行ないたいのは当然です。この結果、生息気候が違った種同士が同じ植え込み材(以下コンポスト)や鉢である場合、いずれかの種は不適当なコンポストが選択されたことになります。よって、株数が多い場合には、実践的な手法として可能な限りコンポストや鉢を品種ごとに適したものとし、すなわち水を好むもの、好まないもの、大きな気相が必要なもの、必要としないもの、バルブが立ち性か下垂性かなどですが、その上でかん水は全て同じ割合、間隔で行うのが手間がかかりません。

 デンドロビウムほどの多くの種と広範囲な生息域を持つ種には、そうした対応では困難な、極端な温度や湿度が必要とされる種もいます。低温・乾燥が一時期必要な種です。これらを栽培する場合は、高温高湿系原種とは3-4か月程は同居できないため同じような特性の種をグループ化し、特別な環境を与えなくてはなりません。

 もう一つの問題は、鉢の置き場所です。鉢が置かれる場所は様々と思いますが、通風の度合が異なれば、植え込み材から蒸発する水分量は異なってきます。同じトレーに並べた素焼き鉢であってもトレーの外側と内側では、濡れた状態から乾燥まで1日程の違いが出ます。輝度、湿度、温度、通風など置き場所もを考慮した栽培も必要です。また同一品種であっても苗とBS株では植え込み材や鉢は異なります。

 鉢とコンポストの組み合わせは極めて重要です。大きく分けて素焼き鉢とプラスチック鉢およびそのサイズです。素焼き鉢以外の陶器製の化粧鉢は、展示用であって、栽培には不向きです。素焼き鉢とプラスチック鉢は前者が通気性があって鉢内部の水分を鉢璧からも蒸散させます。この通気性は気根植物にとって重要で、過剰な水分を放出し、安定した保湿性を得るための重要な特性となります。一方プラスチック鉢は鉢内部の水分の蒸散が鉢底と上面からのみとなり、素焼き鉢に対して乾燥しにくい特性をもちます。よって保水力の少ない反面、気相の多いコンポストに適します。このため、湿度が確保できる部屋ではプラスチック鉢で気相の高いコンポストが、また乾燥しがちな部屋では素焼き鉢で保湿性の高いコンポストがそれぞれ適することになります。

コンポストの一般条件

 デンドロビウムのような着生(気根)植物を栽培する場合の、コンポストの入った鉢内の環境を気相(隙間)、液相(水分)、個相(材料)とに分け、それぞれの特性評価が行われています。ミズゴケは最も液相が多く、気相や個相の占める割合は低く、市販本にあるようにやや硬め(株元をつまみ上げても鉢が落ちない程度)に植えつければ液相はかん水時80%以上となり、気相は10%にもなりません。これに対してバークやヤシガラチップはそれぞれの比がおよそ4:4:2となり、また植え込みの固さにはあまり影響を受けません。ヘゴチップはさらに気相が増え、液相が減少します。この結果、大きな気相が好ましいことが条件であるがことを考えると、デンドロビウムにとってミズゴケは不利なコンポストとなります。しかし現実に日本ではミズゴケが多く利用されています。これは前記したように日本の環境湿度が大きく関係し、梅雨期の一時期を除いて(熱帯地方に比べ)湿度の低い日本国内では保水力の高いミズゴケは湿度を長く保ち、かん水頻度を減らす(手間のかからない)ことができる、栽培の利便性に優れているからです。よって十分な湿度が提供できる温室、ワーディアンケース、あるいはビニールコート付きスチールラック内においてのミズゴケ利用は、過かん水に気をつけなければなりません。根をしばしば黒く腐敗させてしまう人にはミズゴケは不適で、乾燥の早い他のコンポスト(ヘゴチップ、バークなど)を混ぜたミックスコンポストが有効となります。

  コンポストの選択とかん水との一般的な特性は、水を与えたら、すぐに鉢底から水が流れ落ちる気相の広いコンポストであること。鉢に大量の水を一気に流したとき水が鉢上(ウオータ・スペース)から溢れるようでは不適。コンポスト内は水浸し状態が長く続くものではなく、しっとり感(指で触れても水分が付かない)を長く保持できるもの(吸放湿特性)が好ましいとされます。いずれにしても単一のコンポストで全ての環境に対応することは困難で、通常はミックスコンポストとし、混ぜ合わせる材料の割合でコンポスト内の湿度や変化を調整し対応します。

 表1にコンポストとその特性を示しています。
これらはデンドロビウムだけでなく、胡蝶蘭、バルボフィラムなど気根植物に共通するものです。
表1 コンポストの特性
コンポスト
適用原種
保水力
気相
寿命
適応鉢
コスト
使い易さ
備考
ミズゴケ 3Aレベル
全て
素焼き鉢
青ゴケの発生
バーク(発酵バーク)
立ち性
プラスチック
発酵バーク以外は短寿命
コルク
下垂性
×
×
植え替え時に根を切断
ヘゴ板
下垂性
×
植え替え時に根を切断
ヘゴチップ
全て
プラスチック
サイズの種類が少ない
バスケット+ミズゴケ
全て
2年でのミスゴケ交換
クリプトモス
全て
全て
3種類のサイズがあり
杉皮板
下垂性
 

 表2にミックスコンポストについて取り上げます。ミックスコンポストは表1のそれぞれのコンポストの長所を生かした組み合わせとなります。

表2 ミックスコンポストの特性
ミックスコンポスト
保水力
気相
寿命
適応鉢
コスト
使い易さ
備考
ミズゴケ+クリプトモス
素焼き鉢
一般室内、温室向き
ミズゴケ+ヘゴチップ
素焼き鉢
保水力は両者の比率による
バーク+十和田軽石+炭
全て
保水力は混合比で調整

ミズゴケ

 日本では、ミズゴケと素焼き鉢の組み合わせが着生ラン栽培の基本とされます。初心者、ベテランを含め最も利用頻度が高いと思われます。ミズゴケは比較的乾燥した環境にあっても、素焼き鉢と組み合わせることで、根に対して適度な湿度と通気性を長く保つことができるためです。室内は通常湿度が低く(高くても60%)乾燥が進むため、水分保持能力の高いミズゴケは室内栽培には必須な植込み材となります。

  かん水することで素焼き鉢の表面の色は濃いレンガ色になり、2日程で薄くなっていきます。高湿度の温室ではなく、室内でかん水時の色から2日間変化がないようでは水分過多です。かん水量はおおよそ3日目で元の白っぽい色に戻る程度とします。水分過多が続くと鉢全体が苔に覆われるだけでなく、中心部の根が腐敗します。

  ミズゴケはAAからAAAAまでの品質があり、Aの数が多い方が通気性や保水性に優れ、繊維も長くなります。触れると柔らかくフワッと感じます。趣味家にとっては一般的に3Aあるいは4Aを使用するのではないかと思います。本サイトの栽培ではニュージーランド産を常時使用しています。一般園芸店では3Aまでで4Aはあまり販売されていないと思われます(購入希望者はナーセリのページ参照)。 ミズゴケの耐用年数は、かん水や置肥の量に大きく影響されるものの、3年も経つと3Aレベルでも繊維質が粗くなり、2年程で保水力の低下、繰り返される施肥や根からの排泄成分による酸化が進みます。特に置き肥を定期的に行っている場合は2年を限度として、施肥3年目には交換したほうが成長が目に見えてよくなります。

 フラスコから出したデンドロビウム原種の小苗はミズゴケと半透明プラスチック鉢を使用しています。但しプラスチック鉢は6㎝直径の小さなポットです。注意しなければならないのはフラスコから出したばかりの苗を、ミズゴケでこれ以上のサイズに植えつけないことです。これは水分過多となり、細菌性の病気(葉が水浸性の様態となる)の危険性が増すためです。フラスコ出しから1年間程はこの小さいプラスチック鉢とミズゴケで多くのデンドロビウム原種は常に濡れた状態であっても良く成長します。言い換えれば僅かの乾燥であっても小苗は致命的となることがあり、これを避ける必要があります。2年目にはそれぞれに適したコンポストや鉢に植え替えが必要です。

 一方、デンドロビウムには立ち性、半下垂性、下垂性の3種があり、半立ち性や下垂性の植え込みは非常に厄介です。特に半下垂種の植え込みは新しい若いバルブは立つものの古くなると下垂します。よって支持棒を植え込み材に刺してこれにバルブをビニタイで縛って無理やり立たせることになりますが、この立ち姿が不自然な印象となるのは避けられません。ミズゴケはバークなどのミックスコンポストと異なり、株や鉢との相性が良いため植え付けの固さ調整が容易です。このためしっかりと根を抑えることができる点では、株が鉢から抜け落ちてしまうことはない利点もあります。このため下垂性種は鉢を斜め吊りにして栽培することができます。このサイトでは半下垂および下垂性デンドロビウムは主にバスケットでの植え付けで、コンポストにはミズゴケを使用します。

  本サイトの温室栽培では、ミズゴケ単体と素焼き鉢の組み合わせは特に、栽培経験がこれまでになかった立ち性の種にはほとんど使用します。ミズゴケと素焼き鉢が最適かどうかは不明であっても、もっとも癖のない安全な植え込み材であるからです。同様に新入荷の種で下垂系には根を多くのミズゴケで巻いた後、ヘゴ板あるいは杉皮板に取り付けます。ミズゴケと素焼き鉢は立ち性の種が対象ですが、高温高湿や低温乾燥いずれのタイプにも利用できます。これでこれまで500株を超えるデンドロビウムを植え付けてきましたが、枯れたことはなく、順化も問題ありません。

  ミズゴケは単体利用ではなくヘゴチップ、クリプトモスあるいは炭化コルクチップなどとのミックスタイプも有効です。これはそれぞれの素材の混ぜ合わせ比率で保水力が調整できるためです。温室では少な目に、一般室内栽培の湿度60%以下の部屋では大目にします。

ミズゴケと素焼き鉢植え付け

Den. valmayorae

Den. Khanhoaense

バスケット

 デンドロビウムの支持体として最も成長が良いのは木製のバスケットです。これは1cm角程のチーク材を4−5段交互に組んだものです。底にミズゴケをまず薄く敷き、次に株の根元にミズゴケを丸めてここに根を広げ、さらにミズゴケで根を覆ってから、バスケットに押しつけるように置きます。空いた空間(特に四隅)にミズゴケを足して押し込め、適度な固さ(ミズゴケや株を90度傾けても落ちない程度)にします。バスケットは半下垂性および下垂性のデンドロビウムに適しており、これら下垂系種の最も難しい見栄え問題が解決できます。難点はバスケットは吊るすかたちとなるため、小型温室では利用が難しく、大きな温室向きです。

  バスケットではミズゴケが6面全方向に露出した状態となります。このため素焼き鉢のような通気性に関する鉢の経年変化や、ミズゴケの経年変化による根への影響が少なく、またかん水は2-3日おき(夜間湿度が80%以上確保可能な場合)となります。相当硬く植えつけても多くの根は、はみ出してゆくことから充分な気相が確保されます。気をつける点は、鉢に比べれば少ないものの、繰り返される乾湿で肥料の濃縮化による塩害が起こる可能性があり、時折、大量の水を通す必要があります。

木製バスケット植え付け

Den. victoria reginae

Den. spatilingua

 
  バスケットのミズゴケもやがて緑色のコケに覆われます。1年程度経過した段階で根は余程多くの根がはみ出していなければ、そのままにピンセットなどでミズゴケだけを摘まみだし新しいミズゴケに入れ替えて問題はありません。
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ヘゴ板

 ヘゴ板は木生シダ類の根が絡まった茎を材料としたものです。下垂系の多くのランの最も利用価値の高いコンポストでしたが、乱獲のため絶滅危惧種となって輸出入が制限され、2013年からは新規の入手は極めて困難となり、現在はインドネシア政府認可の割当て制度の下、輸入している状況です。多くの海外ナーセリでもマザープラント用として圧倒的に利用されてきましたが、マレーシア、フィリピン共に余り見かけなくなっています。

  ヘゴ板の取り付けは根をヘゴ板の上に広げて置き、その全体をミズゴケを覆って、糸やビニタイで縛り付けます。ヘゴ板の問題点は成長すると根がヘゴチップの間に入り込み、2-3年経過した状態のものを取り剥がすことは、かなりの根を切らなければできません。ヘゴ板であっても耐用年数があり、3年程で交換か追加する必要があります。交換では根がファイバーの中に食い込んでいるため、取り剥がす際の根のダメージは大きく、交換年は作落ちが生じます。

 図はヘゴ板に根周辺をミズゴケで覆って取付けたもので、アルミ線を巻いて固定しています。ヘゴ板は植え付け前に水に浸し、水分を含ませるのとアクだしの両方を同時に行います。水に一晩浸けておくと水が茶褐色に代わります。アク出しの有無が株の成長にどの程度影響を与えるかは不明です。しかし乾燥した状態の植え付けは水をはじき保水力が低下するため、数時間は水に浸けて水分を十分に吸ってから取り付けることが肝要です。

ヘゴ板とミズゴケの植え付け

Den. sp (from Sumatra)

ヘゴチップ(ファイバー)

  ヘゴチップはヘゴの棒状根を砕いてファイバー状にしたもので、着生蘭の主要なコンポストの一つとして用いられてきました。ミズゴケに比べて長寿命(2年以上使用可能)であることと、根を切ることなく植え替えが可能であること等が理由です。素材そのものの経年変化はあると思われますが、ファイバーの形状が変化することはないため、気相はそのまま保たれます。温室などの比較的高湿度が保てる環境では優れたコンポストと言えます。一方、一般室内ではプラスチックポットと組み合わせても乾燥が早く適しません。またこのコンポストは立ち性のデンドロビウムに限られます。ファイバーそのものは軽いため、下垂系では抜け落ちる可能性が高くなるためです。残念なことにこのコンポストもヘゴ板同様に絶滅の危惧から輸出量が制限され、現在、いつでも入手ができる状況ではなくなり、且つ高価になり、普及品ではなくなりました。

バークミックス

  バークはツガや松の樹皮をチップ(小片)化したもので、海外(主にアメリカやヨーロッパ)の植え付け解説では、バークがデンドロビウムの主なコンポストとして取り上げられています。バークには多様な品質があり、素材のままでは1年程度で交換する必要があります。一方、数年堆積し発酵させた商品もあり、これらは腐敗したり、形が崩れることがほとんどないため大きな気相を長期間安定して得ることができます。保水性能もあり乾湿のメリハリが良いことと、植え付けの手間がミズゴケと比べてかかりません。問題点は立ち性には良いのですが半下垂や下垂性のデンドロビウムには適しません。これは根を抑える力がないため根が張るまでの間、安定しないためです。

  一方、より気相を多く得ながら保水性も同時に高めるためにはバーク単体よりも軽石や炭を所定の比率で混ぜ合わせ、それぞれ鉢やランの性質に合わせたミックスコンポるとすることが有効です。ミックスコンポストは基本的にプラスチック鉢用とも言えます。バーク単体使用も可能ですが、乾燥し易いため、本サイトでは軽石としては最も吸水率が高い(70%)、また保湿力のある十和田ケイセキを加え、さらにPH調整済みの炭を加えたミックスコンポストとしています。下写真にミックスコンポストを示します。

ミックスコンポスト植え付け

ミックスコンポスト(ネオソフロン:十和田軽石:PH調整炭=3:1:1)

Den. piranha

Den. carronii and Den. canaliculatum

  軽石に関し、十和田ケイセキを使用したのは吸水率、保湿性、成分、PH、サイズ等、ラン栽培に適いているためです。そのままで使用できますが、本サイトでは植え込み時の栄養補助として、規定希釈あるいは規定の2倍までの濃度の活性(活力)剤を加えた水に1晩浸けた後、バークと混ぜ合わせます。混合比はバーク:軽石:PH調整炭=3:1:1あるいは2:1:1としています。PH調整のない炭はPHが高すぎて危険なため使用しません。また窒素、リン酸、カリ類は根の傷んだ植え込み時には与えません。バークにではなく軽石に活性剤を吸着させる理由は、バークが有機材であり、これに肥料(特に窒素)や活性剤を吸着させることはバークの劣化を早める可能性があるからです。この処理により植え込み時からしばらくの間、かん水毎に軽石からアミノ酸、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンなどが根への放出が期待できます。バーク、軽石および炭とのミックスコンポストはプラスチック鉢が保湿性の点で優れています。
 一方、植え込み時に根が細く短い種に対しては、深植え込みが出来ないため乾燥しがちとなります。この場合はポット表面にミズゴケを薄く敷くことで乾燥を抑えることが効果的です。

クリプトモス(杉皮)

 杉皮は日本固有のコンポストと思います。クリプトモスは管理が容易で優れた成長が得られます。杉の防虫効果もあるようで、ミズゴケや有機材を含むミックスコンポストにみられるような微生物が発生しません。コストの点でもメリットがあります。温室、ワーディアンケースの環境、あるいはミズゴケとのミックスでは晩春から初秋では室内栽培にも利用できます。クリプトモスは特性のバラツキが少ないため管理はミズゴケよりも画一的にできます。一般的にはプラスチック鉢を使用しますが、高温多湿系あるいは乾燥期を持つデンドロビウムでは、比較的乾きやすい素焼き鉢も使用できます。

  クリプトモスを一晩水に漬けておくとヘゴチップ同様に水は茶色に変色します。本サイトではあく抜きをするため1晩水に漬け、水替えを行った後、根の傷んだ株にはしばしば病害の予防を兼ねて規定希釈のタチガレンエースとバリダシンなどの薬品と共に更に数時間漬けこみ、その後コンポストとして使用しています。こうすれば植え付けや植え替えの際の、根の洗浄だけで薬剤散布も必要なくなります。杉のあくがデンドロビウムの根に悪影響を与えるかどうかという点については問題点は見当たりません。経験で属が違いますがLealia. ancepsには適さないことが分かっています。ミズゴケ同様に2年毎の交換は必要となります。

  BSサイズには気相を広く取る必要から比較的粗い(大サイズ)杉皮が適しています。クリプトモスは液肥が適し、置き肥は酸化を早める恐れがあるためほとんど使用しません。またSpatulata系のような大型のデンドロビウムでは、鉢も大きくなるためスリット鉢が最も適し、成長(根張り)を良くします。この場合、かん水は夏ならば毎日、冬で2-3日置きに与えます。クリプトモス表面の苔の付着はミズゴケと違いほとんど発生しません。

クリプトモスと素焼き鉢の植え付け

Den. goldschmidtianum

Den. laxiflorum

杉皮板

 杉皮板は垣根や門屋根に利用される杉の皮を剥いだもので60㎝x30㎝ほどの長方形の板で販売されています。表面は杉皮が重なり合って、その隙間に水分を保持する働きがあり、また断面を見ると高密度な繊維の塊となっており、保水力があることが分かります。クリプトモスは本サイトが栽培する140種以上のデンドロビウムで不適合な事象がなく、よって杉皮板であっても問題はないと思われます。根張りはコルク以上に活着する傾向が見られます。但し下垂系のデンドロビウム専用となります。

 杉皮板の問題は皮自体が薄いため、かん水の繰り返しでやがて円弧状に反ることです。これを軽減するには杉皮を2枚使用し、それぞれの板の裏側どうしを合わせ、2枚重ねとします。すなわち反り方向が互いに相反するように重ね合わせ、反りを抑えます。よって出来上がった2枚重ねの板の表裏は共に杉皮の表面となります。株の取り付け方法はヘゴ板と同様で、より大きな株に育てるには、根張り空間を広くとることが必要となります。根とその周辺の板表面を多くのミズゴケで覆います。表面の乾燥度合は杉皮の色で判断できます。本サイトでは1m以上の、Den. anosmumなど大型下垂系のデンドロビウムに杉皮板を使用しています。

杉皮板と下垂系デンドロビウムの植え付け

杉皮板

Den. anosmum(2m長)
 杉皮はランの支持材として使用耐年数が短いとの意見がありますが、使用する杉皮は庭門や垣根に使用する天然材であり、本サイトでは中国産杉皮板を使用しています。日本の杉皮板はキメは細かいのですが市販されている商品は薄く、弱い力が加わっただけで割れてしまいます。また保水性が中国産に比べて高いのかカビが生えやすい印象です。

鉢の種類とサイズ

 鉢の種類はコンポストで決まります。フラスコ出しから1年ほどの苗を除き、ミズゴケでは素焼き鉢やバスケット、ミックスコンポストではプラスチック鉢となります。鉢のサイズも大切な選択で、これもコンポストに左右されます。ミズゴケ単体の場合は株に比べて大きな鉢にすることはできません。大きな鉢に植えれば中心部は水浸し状態が長期間続き根腐れとなります。往々にして、根を窮屈な空間に閉じ込めないで、ゆったりと広げて植えつけた方が大株になるのではと考えますが、コルク付けとは違いかん水後の中心部は水の蒸散が遅れ、その間、根が空気と接することができなく水分過剰に陥る可能性が高くなります。よって、デンドロビウムを素焼き鉢にミズゴケ単体で植えるのであれば、3.5号以下の鉢サイズが好ましことになります。立ち性で大型のデンドロビウムはスリット入りプラスチック鉢で、ミックスコンポストあるいはクリプトモスで植え付けます。
 また鉢には白、黒、モスグリーン、茶色などがあります。間接光であっても照度が高いと黒いプラスチック鉢では表面温度がかなり上がります。冬季には良いかも知れませんが、通年では反射率のなるべく高いものが良いと思われます。

下記はデンドロビウムおよび鉢とコンポストの組み合わせをまとめたものです。プラスチック鉢は中型種以上は全てスリットタイプが適しています。

種と コンポスト
生息気候
生息帯
コンポストと適応鉢
種のタイプ
高温多湿(立ち性) 1,500m以下の低地熱帯雨林、雲霧林 素焼き鉢とミスゴケ
プラスチック鉢とミックスコンポスト
プラスチック鉢とクリプトモス
バスケットとミズゴケ
中型種以下
サイズ問わず
大型種
サイズ問わず
高温多湿(下垂性) バスケットとミズゴケ
ヘゴ板
杉皮板
サイズ問わず
小 - 中型
大型種
低温多湿(立ち性) 1,500m-2,000m雲霧林 プラスチック鉢とミックスコンポスト
素焼き鉢とクリプトモス
バスケットとミズゴケ
サイズ問わず
サイズ問わず
大型種
低温多湿(下垂性) バスケットとミズゴケ
ヘゴ板
杉皮板
サイズ問わず
小 - 中型種
大型種
低温乾燥(立ち性) モンスーン気候帯 素焼き鉢とクリプトモス
プラスチック鉢とミックスコンポスト
バスケットとミズゴケ
中型種以下
任意
サイズ問わず
低温乾燥(下垂性) バスケットとミズゴケ
ヘゴ板
杉皮板
サイズ問わず
小 - 中型種
大型種