1月
Bulbophyllum fraudulentumの植替え
これまで45㎝長の炭化コルクとヤシ繊維マットを合わせた支持材に取り付けていた12株程のBulb. fraudulentumの植替えを行いました。下画像左は昨年12月29日の開花時の撮影で、写真に見られるように株の先端部は支持材を超えて伸長しており、今回は前項でBulb. chloranthumに用いた同じ構成の90㎝長杉板への植替えとしました。中央画像が支持材7枚への植替え後の画像です。右はその一部の拡大画像です。古い葉無しバルブは全てカットしての植付けで、本種のリゾームは直伸性があることから杉板一枚当たり2株の寄せ植えとし、葉付きバルブ数はそれぞれ35個前後となっています。次の開花期には杉板1枚当たり15輪程の迫力のある同時開花を期待しているところです。
現在(16日)開花中のBulbophyllum trigonosepalum Complex
Bulb. trigonosepalumはフィリピン・ルソン島やレイテ島の低地生息種で、現在4つのラテラルセパルのカラーフォームが異なる株が同時開花しています。これらも全てがミスラベルとして偶然入手した株です。こうした花を見ていると、注文通りの品種の入荷だけであったならば、このような多様なフォームに出会うことはなかったと思います。現在、同種の中の個体差(色など)を分別してストックしている現地蘭園は無く、これら4フォームを改めて一括して得ることは難しく、それならば同時開花性も相まって当サイトがカラーフォームの異なる株をセット販売することも面白いのではと考えています。
Coelogyne monilirachis
現在Coel. monilirachisが開花中です。本種はビーズ玉ネックレスのような形状の花軸が特徴の、ボルネオ島標高1,000m以上に生息のセロジネです。花軸は下画像に見られるように緑色と茶色の2種類があり、その色に合わせて花色も濃淡のある鳥の子色から珊瑚(サンゴ)色になっています。
現在(16日)開花中の21種
Bulb. nymphopolitanumは本種名でネット情報を検索すると殆どが画像とは異なる花が見られます。 この状況については2017年12月の本ページに取り上げました。下画像の花形状の株は市場には殆ど見られません。Coel. usitanaは一つの花茎に1輪が次々と止むことなく咲き続けていますが、そのリップ測弁の褐色の濃淡が季節(栽培温度)によって若干影響を受けることが分かってきました。冬期がより濃くなります。Den. multiramosumはJ. Cootes氏著書によると、Luzon島及び南部Mindoro島生息のフィリピン固有種で、この地域差として細い円柱形のstemが前者は最長20㎝に対し、後者はより長いと指摘しています。下画像の当サイトの株では40㎝程あり、ほぼ2倍の長さであることから栽培株はMindoro島の生息種と思われます。
現在(10日)開花中の12種
Bulb. sp aff. quadrangulare(sp23)は花サイズが6.5㎝あり、これが複数同時開花すると可なり見栄えがします。本種は昨年10月に植替えを行ったばかりの株で、植替えの様子は同月の本ページに掲載しました。画像のDen. dianae bicolorはセパル・ペタルのベース色が緑で、一般種では開花から2-3日はその色が保たれるものの次第に緑みが薄れ黄色くなっていきます。しかしこの株は落花する2-3日前まで開花時の色味が続く稀なタイプです。
Coelogyne multiflora
現在(11日)Coel. multifloraが開花しています。本種の開花報告は2016年以来となります。IOSPEによると、本種はスラウェシ島標高1,200mに生息のクールタイプ種(夜間平均温度15-18℃)で、低輝度とされています。この情報を基に当サイトでは、低-中温タイプであるCoel. bicamerataやmonilirachisなどと同じ室温での栽培をしてきました。毎年開花を続けるこれら他種と異なるのは低輝度であったことくらいです。この栽培環境では新芽の発生と古いバルブが枯れる割合がほぼ同じで、株サイズは余り変わらないものの先端バルブがポットからはみ出していくことから、2020年に一度植替えをしました。しかし開花は一向に見られず、上記情報に昨年疑いを持ち、まだ猛暑が続く9月に、11株ある本種の中から大きな1株を高温室の輝度の高い、目の良く届く場所に移し様子を見ることにしました。通常、クールタイプとされるランを高温タイプの環境に置けば、まず根がダメージを受け葉先枯れが起こり、次第にじり貧状態となってやがて枯れることになるものの、葉に変化が無いだけでなく新芽の発生も見られたことから、そのままに栽培を続けていたところ、今回の開花となりました。考えられる開花要因は当サイトの株が1,200mとする標高以下での生息であった可能性と共に、
温度以上に輝度が花芽発生に関ったのではないかと思われます。とは言え今後の対応としては、昨年の様な温室内での夜間平均温度が30℃を越えるような猛暑が、3か月間近く続く環境でのダメージのリスクもあり、全ての株を7月から9月までの期間は中温室に置き、その他の期間は高輝度下の高温室にて栽培をすることにしました。
下画像は現在開花中の本種で、左の株には開花中の1茎と共に蕾の付いた3本の新たな花茎が発生しています。詳細画像は画像下の青色種名のクリックで見られます。現在の植付け材はクリプトモスとミズゴケのミックスですが、前回の植替えから5年近く経っており、春先までに11株全てをパフィオと同じ組み合わせのバーク・ミックスに植替える予定です。下画像の株の葉長(葉身+葉柄)は70㎝で、他の株も葉サイズはほぼこのサイズとなっています。
Dendrobium sanguinolentumに見る個体および地域差
Den. sanguinolentumはボルネオ島、タイ、スマトラ島など広い範囲に分布する低地(900m以下)生息のデンドロビウムです。当サイトでは15株程を栽培しており、10株をチークバスケット、その他の株は炭化コルクとヤシ繊維マットを重ねた支持材に植え付けており、いずれの株も現在開花中です。一般フォームはセパル・ペタルおよびリップ中央弁の先端部に青紫色の斑点がある一方で、ボルネオ島生息種の一部にはこの斑点の無いフォームも見られます。リップ基部の橙色は個体や地域にかかわらず共通の特徴です。下画像は現在開花中のそれぞれの花で5-6日に撮影しました。
Bulbophyllum costatum
フィリピン固有種でルソン及びレイテ島の標高600mほどに生息とされるBulb. costatumが現在(3日)開花中です。当サイトが栽培する本種は全て2018年頃に数回に渡り発注したBulb. glebulosumのミスラベル株で、現在は11株を栽培しており、その内9株が45㎝、2株が60㎝長の炭化コルクとヤシ繊維マットを組み合わせた支持材に取付けています。ネットには本種の国内でのマーケット情報は無く、また海外マーケットでも株画像とその価格を具体的に示すサイトが見られません。一方、本種についてはBulb. membranifoliumとシノニムの関係とする情報や、IOSPEの本種ページでは花サイズの表記でインチ/センチ変換が間違って6.4㎜であったり、同ページのAnother Angleのクリックで表示される花がBulb. inunctum フィリピン・フォームであるなど、それぞれが信頼性の高いサイトにも拘らず誤記が見られ、指摘から3年経過しても今だ修正されていない状況は、現在本種を直接手にして花を検証や再確認することが困難(入手難)なバルボフィラムであるのかも知れません。下画像は1-2日に撮影した本種で、花サイズも一般情報とは異なるようでメジャーを入れた画像と共に、類似種との比較画像も掲載しました。画像下の青色種名のクリックで本種の詳細情報が得られます。
Bulbophyllum chloranthumの90㎝杉板への植替え
Bulb. chloranthumはパプアニューギニアおよびソロモン諸島標高1,000m以下に生息するバルボフィラムです。当サイトで栽培する本種は2008年、福島県会津若松の知人が、当時インドネシアでは最大手の原種専門ラン園であったSimanis Orchidの園主Koloapking氏から、100種を超えるデンドロビウム購入のサービスとして1株5バルブほどの株をsp(種名不詳種)名で5株頂いたもので、当サイトが2013年浜松に転居する際に、その知人からそれらを譲り受けたものです。本種のリゾームは直線的に伸長してゆくことから当初は30㎝長のヘゴ棒に取付けていましたがその後、株分けを兼ねて40㎝長の炭化コルクへ植替えました。これらは近年の猛暑下でも栽培に問題がないことから、標高500m以下の低地生息株と思われます。現在は全株の葉付きバルブの総数が400個程に増えており
2008年の国内持ち込みから昨年末までの15年間で16倍に増えたことになります。
そこでこれらを先週から5日間程を掛け、90㎝長の杉皮と杉板を合わせた11枚の取付材を製作し植替えを行いました。本種は直線的に伸長することから寄せ植えが可能で、杉板1枚当たりの葉付きバルブ数を35-40個としました。またほぼ全ての株がそれまでの取付材の2倍程の長さに伸長しており、支持材を超えたバルブの半数が数年間空中に浮いたままの状態になっていました。こうしたバルブ根はミズゴケ内部で伸長した根とは異なり、葉緑素を含む淡緑色となり、この根を植え付ける際、ミズゴケを敷いた杉板の上にバルブを置き根を平面状に広げた後、その上をミズゴケで覆う処理となりますが、注意が必要です。それはミズゴケ内にあった根と、空中に晒されていた根はそれぞれ生理機能が異なることが原因と考えられますが、植替えの際、淡緑色の根をミズゴケ内部に深く植え込むと根の多くが腐り、根が無くなったバルブもやがて落葉し枯れることがあります。すなわち気根植物とは云え未活着の根を長期間放置することは植替え後の作落ちのリスクが高くなることを意味します。こうした植替え前の状態に対応した根の植え込みの深さや浅さを配慮した作業には可なりの集中力と時間を要します。ネットの販売サイトを見ると、リゾームが伸び素焼鉢からバルブがはみ出し、その根の多くが空中に浮いたままの株姿をしばしば見受けますが、バルボフィラムだけでなく他属を含め、属種の特性を周知の栽培者は別として、上記の様な状態にある株の入手は避けるべきと考えます。
下画像は上段が植替え前のBulb. chloranthumで17株あり、右画像は空中に垂れ下がったバルブとその根の様態です。下段左画像は先週、それら全てを90㎝の杉板に植替えをして間もない株姿で、中央はその一部の拡大画像です。これだけのサイズとバルブとなると1日当たりの植付け数はせいぜい2-3枚が限度です。
右は今回使用の杉板で、焼杉板長さ910㎜x幅130㎜x厚み9㎜と杉皮3尺を重ね合わせて使用しています。板の横幅が13㎝と、当サイトで一般的に使用する15㎝幅に比べやや小幅となっていますが、これは本種が横幅を余り取らず直線的に伸長することで可能となっています。
本種名でのネット検索では多数のサイトがヒットします。しかし価格とその株サイズの画像が表記された販売サイトは国内には無く、海外でも現在1件のみであることから入手難なバルボフィラムと思われます。そのページでは15㎝程の木製の板に取り付けられた葉付きバルブ8個程の株が、US$50(¥7,860)とされていることから、当サイトでの90㎝長の杉板に葉付きバルブ35個ともなれば、価格は単純比較でその4倍相当になります。上画像に示す株の価格は現在未定ですが凡そ2-3万円を検討しています。
ちなみに、こうした大型株の価格の背景について解説しますと、利益を除く経費は、まず株本体の入手コスト(その株の購入費と入手手段)、入手株を成長させ大型サイズにするまでの5年以上(その期間内には1-2回の植替えが必要)の栽培コスト、さらに出荷品としてそれまでの植付け材から株を取り外し、病害防除処理を行い、上画像に見られるような新たな取付材への植付け作業に関る人件費(1枚当たり5-6時間)となります。大型株の植替えには特殊な技術を要することから人件費を2,000円/時と想定してのシュミレーションを行うと、経費だけで2万円を超えてしまいます。適度なサイズの株を入手し、これを大株に育て、出荷するまでのこうした必要経費は誰が行っても同じと思います。販売価格は、この経費に販売時におけるその種のマーケットにおける稀少度も反映した、利益を加えたものになります。
本種に関して8個程の葉付きバルブをマーケットで入手し、1m近い大株にするには5年以上を要しますが、そんなに長くは待てない、あるいは1-2年後には多数の花を同時開花させ展示会等への出品を目指したい人には、多少高額であっても上画像のような大株の入手が近道と思います。