7月
久々登場のデンドロビウム3種
現在(8日)、Den. bracteosum white、Den. nabawanenseおよびDen. Den. wenzeliiが開花中です。
Trichoglottis atropurpurea flava
現在Trigl. atropurpureaのflavaフォームが開花中です。本種は2014年9月にフィリピンCavite州Buhoの蘭園にて開花中の花を見て入手したもので、園主によると当時始めて扱う種とのことでした。当サイトでの初花は2020年で入手から6年を経ての開花となりました。それまでの詳細経緯は同年7月の歳月記に掲載しています。しかしその後は毎年開花はするものの、暗紫色のTrigl. atropurpureaのネット画像に見られる多輪花ではなく4ー5輪が続き、今回入手から10年を経て始めて、複数株で16輪の同時開花となりました。このflavaフォーム種は現在も国内外共に当サイト以外見られない希少種となっています。
ここで問題なのはその種名です。フィリピンではTrigl. atropurpurea(Rchb.f. 1876)と、花色は異なるものの形状が似たTrigl. philippinensis(Lindley. 1845)が知られています。そうした中でハーバード大学植物学者 Oakes Ames氏は、Trigl. atropurpureaとの形状の相違を認識したのか、Trigl. atropurpureaの発表から48年後となる1922年に暗紫色のTrichoglottisを種名Trigl. brachiataとして発表しました。さらに1933年にはTrigl. brachiataとStauropsis (Trichoglottiesとはシノニムの関係) philippinensisとは互いに変種の関係で同種であるとして、Stauropsis philippinensis var. brachiataとしました。これが1938年にはL.O. Williams氏により属名StauropsisをTrichoglottisとすることで、暗紫色のTricoglottiesはTrigl. philippinesis var brachiataとの種名に至りました。このようにTrichoglottiesの暗紫色種の種名は多様な経歴があります。上記の経緯を考えれば、現在知られているTrigl. atropurpureaは、Trigl. philippinensis var. atropurpureaとも云え、結果当サイトが所有するflavaタイプはTrigl. philippinensisの変種あるいはフォームの一つとして、Trigl. philippinensis var./fm. flavaともなり得ます。形状の相違が地域差や個体差の範囲内であれば、花の色合いで別種とするのではなく、最も早く発表された種名philippinensisを本種名とし、暗紫色、赤紫(purpurata)、ピンク、青(coerulea)、黄色(flava)、白(alba)など色が異なる種はその特徴を変種あるいはフォームとして位置づけ同種化することが必要です。しかし植物学者にとって目視による個体差から同種か異種かを判断することは難しい場合もあるようです。そうした中での当サイトのflava種ですが、Trigl. atropurpurea fm. flavaすなわち暗紫色種の黄色種とした、ラテン語とは云え色名そのままを2つ並べた種名に比べれば、Trigl. philippinensis fm. flavaの方がスマートに感じます。
下画像は左と中央が現在開花中のflavaフォームで70㎝長の炭化コルクに取り付けています。しかし株は最下部の生きた葉のある位置から最上部の葉までの長さが現在1m13㎝あり株の上半分は支持材を越えており、その越えた50㎝程の茎上に16輪が同時開花している状態です。本種は16輪が全開すると2m程離れた位置からも分かる良い香りが漂っています。花後には株を適当な位置で切断・株分けをし、それぞれ90㎝長の杉板に植替えを行う予定です。多数の同時開花を得た後の本種の今後の課題は、花サイズが5㎝程となるような栽培法を杉板の上で探ることになります。
現在開花中の2種:Dendrobium daimandauiiとBulbophyllum translucidum
Den. daimandauiiはボルネオ島キナバル山近傍に生息のデンドロビウムで2011年(J.J. Wood)に、一方Bulb. translucidumはレイテ島生息のバルボフィラムで
2016年(R. Bustamante, et al.)にそれぞれ発表された新種です。いずれも現在マーケット情報は僅かで、その背景としてDen. daimandauiiは生息域がキナバル国立公園域(採取禁止)に関わりがあるのか、またBulb. translucidumは、当サイトが現在栽培する本種数十株全てがBulb. leytensの発注でのミスラベル株であったように、現地サプライヤーにとっても花確認の無い株は種別判断が難しいのかも知れません。
特にBulb. transludcidumについてはIOSPEに現在も記載が無く、またOrchidrootsにおいても掲載画像は1点のみです。
下画像のDen. daimandauiiは現在開花中の花で、本種は茎(疑似バルブ)が長く半下垂タイプのため木製バスケットに、一方のBulb. translucidumはこれまで炭化コルクでの栽培でしたが本種のリゾームは長く、多数のバルブが支持材を大きくはみ出しそれらが2年以上空中に垂れたままとなっており、この状態では今年の夏の猛暑は越えられないと思い、古いバルブを取り除き新たに下画像右に示すように先週から今週にかけて60㎝杉板に植え替えを行っています。現時点で取り付けた板数は22枚で画像はその一部です。杉板1枚当たりの葉付きバルブ数は15-20個となっています。