Phalaenopsis aphrodite

1.生息分布

台湾南部
フィリピン (Aparriから北Mindanaoまで)

2.生息環境

 台湾:海抜1,500m以下。フィリピン500m以下。300m近辺。温度20-32C。湿度80-85%。原生林だけでなく、2次林にも生息していると言われる。


3.形状

3-1 花



1. 花被片
 花名はギリシャ神話の美と愛の神の名を採って付けられた。花被片は白色で、稀に背ガク片と側ガク片が薄黄色を帯びるものがある。花径7‐8cm。一般に花径は台湾産Phal. amabilis(Phal. aphrodite v. formosana)と比べて大型が多く、ボルネオ産Phal. amabilisに比べ小型である。 多くの花弁形状は基部からすぐに卵状菱形に立ち上るため、Phal. amabilisに比べて丸みを感じさせる。

  下写真に4タイプの花被片の色や個体差をそれぞれ示す。上段左は本種の特徴を示す丸みのある花被片をもつが、右のPetal形状のように花被片の基部が細くPhal. amabilisに似た形状もある。この結果、本種の花被片はそれぞれの個体差の範囲内でPhal. amabilisと酷似するため、花被片でそれぞれの種を判別することは困難である。Phal. amabilisはフィリピンルPalawanの本種から分離したものとされる。一方、台湾産Phal. amabilis v. formosanaは現在はPhal. aphrodite v. formosanaとされ、台湾産はPhal. aphroditeとなった。台湾の業者からの多くのPhal. amabilisとされるカルスのposterior(基部)側にはフィリピン産ほどの突起はないが、わずかな凸部が見られる。インドネシアおよびマレーシア産などのPhal. amabilisにはこの特徴は見られない。

  本種はフィリピン内で広く分布しているため他種との自然交配も見られる。同様に広く分布するPhal. equestrisPhal. schillerianaと本種との自然交配種としてそれぞれPhal. x intermediaPhal. x leucorrhodaが知られている。  11月頃から花茎を発生し、1月末から3月初旬にかけ一斉に開花する。多花で、根が十分張り出していれば2-3本の花茎に花茎当たり通常10輪程度の花をつけ、微香で若草の香りがある。環境が良いとクラスター状の大株になり、一斉開花の性質から、多くの株数をもつPhal. amabilisPhal. schillerianaと並んで華やいた雰囲気をつくりだす。

花被片形状の個体差及び地域差

2. リップおよびカルス  
 写真は側弁を切断したリップ4例を示す。リップ中央弁は白色をベースに中央部に黄褐色の縦筋模様が入り、基部側と側弁には褐色あるいは紫色の棒状の斑点が入る。左右に開いた突起(lateral teeth)からなる中央弁は、細長い長方形のPhal. amabilisと比べと比べて幅広く、3角形状となる。カルスは1組で、白あるいは薄黄色のベースに茶褐色あるいは紅色の細かい斑点が不規則に入る。

Callus & Midlobe

 カルスの左右の突起は前方斜め前から見るとそれぞれ3つの山(下写真左の1-3)があり、中央の歯状突起(2)が大きく突き出し、Phal. amabilisには見られない基部(posterior)側にも凸部(3)が見られることが特徴である。最も高い突起(2)と、このposterior側の凸部はそれぞれ外側と内側の2枚の直立した平面が重なり合ったような並びとなっている。一方、台湾産のPhal. amabilisと言われるものにもカルスのposterior側にわずかな凸部が見られる。 リップ付け根側から見たカルスが下写真中央で、端A部分がU字に凹んでいることが分かる。Phal. amabilisにはこの凹みはない。

Callus structures

3-2 さく果

   さく果はPhal. amabilisと同じ形状色で形状の違いはない。色はPhal. amabilisには葉(裏面茶褐色)や花茎(赤軸)に対応した茶褐色の混じったものがあるが、本種はすべて鮮緑色である。花被片は受粉後、枯れて縮れる。

Seed Capsule

3-3 変種および地域変異

  1. Phal. aphrodite f. semi-alba
     リップの赤黄斑点が退色し薄緑から白色した極めて稀なフォーム。

    semi-alba form

  2. Phal. aphrodite subsp. formosana
     (Phal. amabilisのページの台湾産参照)台湾産をaproditeのSubspeciesとする分類である。フィリピン産と比べるとやや花被片が小ぶりであり、カルスのposterior側の突起も小さい。葉は丸みが強い。


  3. Phal. aprodite 4N?
     本種の一般サイズは左右のペタル間の幅で7.5cm以下とされる。下写真は10cm程の花被片(左写真)をもつ。一般的なサイズ(右写真の左花被片)と比べると大きさの違いが良く分かる。


  4. その他
    カルス形状がPhal. aproditeではあるが、中央弁形状や白色の花被片に緑色の斑点があるフォームは胡蝶蘭原種の中に該当する種がなく、自然交配種なのか、奇形かは不明である。Phal. aproditeのロットに含まれたいたため、このページに掲載した。


  5. Phal. amabilis、Phal. aprodite及びPhal. sanderianaとの関係
     Phal. aphroditeの地域分類としては下記となる。
    1. Phal. aphrodite Mindanao
    2. Phal. aphrodite Luzon
    3. Phal. aphrodite Fuga Is.
    4. Phal. aphrodite Calayan Is.
    5. Phal. aphrodite Taiwan (Phal. aphrodite subsp formosana)

    Phal. amabilis
    Phal. sanderianaはいずれも遺伝的に近いグループとされ、カルス形状が分類の基準となっている。DNA分析では下図に示すようにフィリピンPalawanに本種がまず誕生し、PalawanからTaiwanへ、一方がフィリピン全土へ分布し、Phal. amabilisはPalawan、Borneoを経由してスマトラ島へのルートと、ミンダナオ島からマラッカ諸島と、ニューギニアおよびJavaへ移動するルートで分化し、またPhal. sanderianaPhal. amabilisから進化してフィリピンMindanaoにそのまま留まったものと推測されている。これらの関係を下図に示す。

    Evolutionary process and distribution of the amabilis complex

  6. 判別が困難な地域種
    本種の生息地は台湾からフィリピン南部にまで及ぶ。一方、Phal. amabilisはマーレシヤ半島、ジャワ島からマルク諸島まで分布しており、Phal. amabilisおよびPhal. sanderiana(フィリピン南部)それぞれの境界地域となるPalawanやSulu-archipelagoにはこれら3種の特徴をクロスあるいは併せ持つ株が存在する。下写真はフィリピンのナーセリからPhal. amabilisとして入荷した株の開花であるが、カルス形状はPhal. amabilisの特徴はなく、カルスの前縁の立ち上がりはPhal. sanderianaに類似し、一方、posterior側の凸部はPhal. aphroditeのもので、この凸部はPhal. sanderianaとは異なる。またリップのlateral teethの広がりはPhal. amabilisとは異なり、P. aproditePhal. sanderianaに似る。このような形態はフィリピン南部の株に見られる特徴と思われる。

    Phalaenopsis sp aff. aphrodite

3-4 葉

 表面は緑色(青リンゴ色)で深緑色から明るい緑色まである。裏面は紫を帯びるものがあるとされるが、入荷されるほとんどのフィリピン産P.aphroditeには右写真の表(上)と背面(下)とは同色の鮮緑色が多く、Phal. amabilisPhal. sanderianaなどに見られる褐色あるいは紫色を帯びた変化がP.aphroditeの株には見られない。台湾産Phal. amabilisも同様である。裏面が異なるものがあるとすれば地域差による可能性もある。

 葉形状は蝋質で厚みがあり、丸みのある卵形楕円(台湾系)と披針長楕円形(フィリピンの一部)がある。葉長30cm、幅6-8cm。葉はポット植えでは水平に展開し、コルクやヘゴでは下垂する。ポット植えでも問題はないが大株にするためには垂直型のコルクやヘゴが適する。活着できる根張りの空間が十分に広いとPhal. amabilisと同様に高芽を良く出して大株に成長する。

Leaves

3-5 花茎

 花茎は50-80cm長の青軸。気温が夜間18C、昼間25C程度が1か月以上続くと花茎が発生する。このため多くは11-1月に花茎を伸ばし1月末から2月頃の開花となる。野生種では花茎が発生すると6か月以上の長期にわたり花茎あたり8-10輪程を順次花茎を伸ばしながら開花し続ける。このため花茎は1.5m以上に伸長する。実生で1mを超えることはまずない。

野生種
ポット栽培

3-6 根

 コルク付けでは2-3年でコルク表面を覆い尽くすほど根張りが活発である。このため植付け材のコルクやヘゴは成長を見越した大きさが必要である。

4.育成

  1. コンポスト
    Phal. amabilisと同様に小苗からBSまで水平置きのポットで栽培可能であるが、大株にするためには根張り空間を広くとることが必要で、大きな面積のコルクやヘゴ板が適している。

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット    
    ミズゴケ 素焼き    
    バーク プラスチック    
    クリプトモス プラスチック    

  2. 栽培難易度
    容易

  3. 温度照明
    胡蝶蘭のなかでは温度範囲は広く、照明は普通。夜間の最低温度が15℃以上となり野外での栽培が可能となった場合は葉焼けに注意する。

  4. 開花
    夜間18-20℃で昼間の温度が25℃前後が1か月以上続くと花茎が発生するが、夜間20℃以上の高温条件では花茎は発生しない。室内あるいは温室での栽培で、この条件が得られるのは晩秋か早春となる。よって開花は一般に冬あるいは遅い株で5-6月となる。但し野生種は晩秋から翌年の夏頃まで花茎を伸ばしながら次々と開花を続ける。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。多数の花を咲かせるには適切な肥培と温度・湿度管理が必要。

  6. 病害虫
    病害虫には強い種であるが、湿度が高く通風が悪いと、葉に細菌性褐斑病を発生することがある。
 

5.特記事項

 葉、花茎(Phal. amabilisは赤軸があり、P.aphroditeの赤軸は未確認)および根はPhal. amabilisと同じ。このような様態からPhal. amabilisP.aphroditeが混在して販売されるミスラベリングが見られる。フィリピン産Phal. amabilisは南部Tawai島と北部Palawan地域に限られており入手は難しい。