Phalaenopsis bellina

1.生息分布

マレーシア、インドネシア領
ボルネオ島(サラワク州、カリマンタン)

2.生息環境

 低地(海抜200m以下)。気温22 - 23C(夜間)、28 - 33C(日中)。湿度通年80%以上(10 - 1月高く、2 - 8月低い)の熱帯雨林帯に生息する。一部の書には、日陰で川の近くで湿度の高い場所と書かれているが、ボルネオ島ランビルの林冠に生息している生態が放映されている。林冠での環境は前記とは異なり太陽光で比較的明るく夜間を除き乾燥気味な場所である。丸く肉質な葉の形態からはやや薄いPhal. violaceaと若干異なり、乾燥に対応した進化が伺われる。

3.形状

3-1 花


1. 花被片
  花名は美しいという意味。花の直径は5 - 6cm。白色をベースに側ガク片の片側半分と、脊ガク片、花弁の基部が赤紫色となる。多くは、下写真に示すように、それぞれの花被片の先端から中心に向かって薄緑あるいは黄緑のグラデーションが入る。このグラデーションは多様である。上段は選別種、下段はそれぞれが野生種である。リップ中央弁は赤紫で側弁は黄色。胡蝶蘭原種の代表種とされる美しさと香りを有する。

 Phal. bellinaPhal. violacea borneoタイプとされたが、現在はPhal. violaceaとは別種として分類されている。花被片それぞれの幅がPhal. violaceaに比べて広い(13cm以上。Phal. violaceaは7 - 8cm)、またPhal. violaceaではスパイシー(elemicyne 55% 、alcohol cinnamylic 27%)な香りなのに対しレモン(geraniol 64%、 linaloo 36%)の香りがするなどで異なる(E.A. Christenson)。またPhal. violaceaはlateral sepalとdorsal sepalの先端をそれぞれ結ぶ3角形が正三角形とされるが、Phal. bellinaは縦長の二等辺三角形の形状と言われる。香りは胡蝶蘭のなかでPhal. floresensisPhal. zebrinaと並んで最も強い。リップが薄黄色で全体が白色のalbaおよび花被片基部の赤紫色が青色となるcoeruleaフォームが稀に野生種に見られる。これらフォームは台湾やタイで実生化され現在マーケットで広く販売されている。

 晩春から夏にかけて開花する。1輪当たりは2 - 3週間で枯れるが、温室では10月頃までの約5か月間、同時に2 ‐ 3輪を順次咲き続ける。充実した大株では通常3 - 4本程度の花茎それぞれに同時に2 ‐ 3個の花を着けることがある。これらが一斉に咲くと、広範囲に強い香りが漂う。室内や温室栽培で花茎を誘導するには、昼夜の温度差が5 - 10C(夜間18 - 20C、昼間25 - 28C)となる必要がある。夜間の湿度(80%以上)も蕾を開化させる重要な要素である。


2. リップおよびカルス
 リップの中央弁は赤紫、側弁が黄色で中央弁先端は白い。中央弁は長楕円形で先端にかけて緩やかな膨らみをもつ(右写真)。この隆起部分には繊毛や凹凸がなく視覚的にビロードのような質感がある。側弁を外した状態のカルスを右写真に示す。カルスは複数組の歯状突起からなり、先端部anteriorカルス1と,その上に重なるようにある突起部2は、それぞれ先端を2つに分岐している。一方、リップ基部のposteriorカルス3は小さな腺状突起が一塊として集まっている。突起2は1に含まれるものとして、学説では本種のカルスは2組とされている。anteriorカルス懸る中央弁中心線上にある竜骨突起には僅かな鋸状凹凸)が見られる。

Lip and Callus

3-2 さく果

 さく果は交配後、黄緑色から緑色に変化し長さ10 - 15cm。6本の縦筋が深く入るが全体に丸みがある。写真はおよそ2ヵ月後のもの。さく果が短いあるいは細い場合は無胚の可能性が高く、4ヵ月以内に黄色に変色し落ちる。4ヵ月程で写真の2倍ほどの長さとなる。花被片は交配後緑色に変化し硬化し枯れ縮むことはない。採り播きは4ヵ月後に可能。右の苗はPhal. bellina coeruleaの自家交配によるフラスコ出し直後のヘゴチッププラスチック鉢植え苗。

Seed Capsule
Deflask Seedling (Phal. bellina coerulea x self)

3-3 変種、地域変異および改良種

1. Phalaenopsis bellina f. alba
リップの基部が黄白色。花被片のベースが白でそれぞれの先端に薄緑のグラデーションがかかる。原種bellinaの特徴として、上記(1)花被片の写真下段に見られるように、側ガク片先端は下方向を向いており、45度下方向を向くPhal. violaceaとは異なる。このため背ガク片と側ガク片の頂点をそれぞれ結ぶ三角形は、Phal. violaceaのように正三角形ではなく、二等辺三角形となる。可視的な判断が困難な場合、Phal. violaceaとの違いを判断するためには香(レモンの香りをもつ)が唯一の方法となる。下写真は野生原種Phal. bellina f. albaの自家交配株で純正のalbaである。

Phal. bellina f. alba

2. Phalaenopsis bellina f. coerulea
 側ガク片や花被片の中心部の赤紫色が青色となる。写真左は現有するものの中では最も青いと言われるSiam Lim氏所蔵株で2006年入手したもの。

Phal. bellina f. coerulea

3. Phalaenopsis bellina white base
 花被片のベース色は先端から中心に向かって薄緑色のグラデーションが一般的であるが、花被片全体のペース色が白色の選別種。ベースが白色に対して中心部と側ガク片の赤色あるいは青のコントラストが映える。
     

Phal. bellina white base

Phal. bellina f. coerulea white base
  
4. 改良種およびハイブリッド
 現在市場にあるPhal. bellina f. albaとされる下段右写真はガク片の先端が緑色で、しばしばPhal. violacea f. albaに見られる様態である。Phal. violaceaとの交配種か交配種の中からの選別あるいは改良された種の可能性が高い。
花被片全体が赤色の上段右写真はマレーシヤより入手。花被片形状はbellinaの特徴を持っており、匂いもレモンの香りを含むため記載した。花被片の赤色はviolaceaに一般に見られる赤紫系ではなく、写真では分かりにくいがルビーのように鮮明な赤である。似た交配改良種にPenang Rubyがあり、花被片様態はPhal. bellinaPhal. violaceaの両者の特性をもち、その可能性が高い。


3-4 葉

 bellinaの葉はviolaceaに比べて、より幅広の楕円卵形で厚みがあり下垂する。また、Phal. violaceaよりも黄緑気味。大株にするにはコルク等の、垂直や斜めとなる支持体への取り付けと、葉焼けが生じない程度の明るい照明が必要となる。このためには葉面温度が上がらないように通風を良くする。下写真の左および右端は斜め吊りしたバスケットとコルク付けである。Phal. giganteaと同じように新葉の段階から太陽光の直射光を避ける下垂した方向に成長する特性から、自然界での周辺は午前中が比較的照度の高い生育環境にあるものと思われる。また左右交互に新しい葉を発生してゆくが、写真に見られるように僅かな葉間と、角度をずらしながら葉を展開するため、上からの光を全ての葉が適度に受けることができる。

 栽培では長さ25 - 30cm、幅10 - 12cm。十分な照明(直射光ではない)と根張り空間(支持体)があれば温室内においても葉は30cm以上に成長することがある。 また幼苗からの栽培では葉は長楕円形に長く伸びるのではなく、写真右のように幅広の円形状に向かうものが多い。これはPhal. giganteaも同様の傾向が見られる。人工栽培では根張り空間は少ない反面、十分な灌水と施肥を行っており、自然界とは異なるこの環境が葉の形状に影響を与えている可能性がある。

Leaves

 野生種と実生栽培種との葉サイズの違いを下記に示す。左がPhal. bellina野生種、中央がPhal. violacea mentawai、右がPhal. bellina実生であり、すべてがBS株。Phal. violacea mentawaiは野生株であるが2-3年温室で栽培された株で、葉長はPhal. violaceaの仲間としては最も長い葉をもつ。右端のPhal. bellina実生は、実生株の一般サイズである。通常はベンチに水平に置いて栽培していたもので撮影のためにワイヤーで斜め吊りをしている。この写真の比較からPhal. bellinaの自然環境生息株は実生と比べて形態がかなり異なることが分かる。



3-5 花茎

 先端に花序と茎芽をシグザグ状に展開しながら、通常では10cm程度伸長する。順次基部側から花を着けるが、同時には2-3個の開花となる。大株では3 - 4本の花茎を出し、1茎あたり5-6個が同時開花も見られる。Phal. modestaPhal. inscriptiosinensisが花茎を葉の裏に伸ばして花をつけるのに対して本種は葉の表側に伸びる性格がある。

Inflorescences

3-6 根

 根はPhal. violaceaと比較してやや太く丸い。空気に直接触れている状態を好み、根張りは旺盛で30cm以上のコルクへの取り付けが適している。バスケットの斜め吊りでも成長が良い。

3-7 苗

 フラスコ培養による苗の1.5年間の成長を示す。写真の苗はPhal. bellina Ponkan

フラスコ出し直後
左から約1年後
左から約半年後

4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット      
    ミズゴケ 素焼き   斜め吊り
    ヘゴチップ プラスチック   斜め吊り

  2. 難易度
    普通

  3. 温度照明
    高温管理が必要である。好ましい温度範囲は20 - 28Cとなる。照明は葉が黄味を帯びない程度に強くした方が花付きがよい。自然と同じ環境下で栽培されたマレーシアクアラルンプールでは高輝度によって殆どの株の葉が黄緑化していたが、多数開花していた。

  4. 開花
    夜間と昼間の温度差が10℃程度で1ヵ月以上続くと花茎が発生する。夜間温度が高いと花序の発生が阻害される。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。栽培は容易な種であるが、多数の花を咲かせるには適切な肥培と温度・湿度管理が必要となる。

  6. 病害虫
    湿度が高く通風が悪いと、葉に水侵状の淡褐色腐敗病を発生しやすい。特にこの病害は若芽に多く、細菌性病害であるため抗生物質薬剤(ストレプトマイシン系)の散布が必要となる。頂芽の生え際が犯されると回復は困難となる。薬剤を塗布しても症状が止まらなく広がる場合は、薬剤での対応は不可能と見なし、部位とその周辺を切り取り、切り口に直接薬剤(原液)を塗る方法が確実である。 基本的に病状が出た場合は切り取ることが原則である。
    害虫としてはこれまでマイマイによる新葉の被害がしばしば発生している。マイマイは細菌性の病気を伝染するといわれる。また頂芽の成長点を食害するゾウムシ類の被害を受けることがある。

5.特記事項

 Phal. violaceaPhal. bellinaとの交雑株がマーケットでは非常に多い。花被片形状からは判別が困難になりつつある。純正のPhal. bellinaの入手は現地原種専門のナーセリーでなければ困難であろう。albaに関しては現地であっても台湾からの逆輸入が殆どでHybridと言われている。出所が明白な純正のalbaは、Hybridに対しておよそ10倍の価格となり、また入手は難しい。Phal. bellina albaが100株以上並ぶマレーシアのラン園でも野生種の自家交配は数本しか栽培されておらず他は交配種であった(2012年)。