Phalaenopsis chibae

1.生息分布

ベトナム(ラムドン省Dalat)

2.生息環境

 海抜400 - 1,500m。16 - 20C(夜間)、25 - 28℃(昼間)。湿度70 - 80%。

3.形状

3-1. 花


1. 花被片
 花名は本種発見者の千葉雅亮氏名から。花被片は淡い(芥子)黄色あるいはオレンジ色をベースに栗色の斑点が不規則に入る。 花径1.2cm。ベース色には稀に薄緑も見られる。背・側ガク片に対して花弁は細長く小さい独特な形状をもつ。
 花被片の大きさに対してリップが大きく、この点ではparishianae亜属のそれぞれの種に類似するが、phalaenopsis亜属のdeliciosae節に分類されている。花茎に20個以上の花を左右交互に並んで着ける。花茎は2 - 3本に分岐することがある(トップ写真は3分岐)。開花が1周すれば、花茎は枯れる。

Flowers

2. リップおよびカルス
 
リップは戦斧のような形状。カルスは2組で、posteriorカルスは左写真の白色(青紫の斑点がある)で四角く突き出ている部分。一方、anteriorカルスはリップ中央部に位置し、少し盛り上がった部分。右写真はリップを花被片から切り離し、上方向から見た画像で、anteriorカルスの膨らみが分かる。左画像ではposteriorカルスの背面に位置することから隠れて見えない左右2つのlateral lobes(側弁)がある。側弁は1mm程度の台形状。posteriorカルスの基部側には白く細い繊毛が見られる。胡蝶蘭のなかでは異質は形態のリップ形状である。

 

3-2 さく果

 さく果は2.5cmで淡緑褐色。4ヶ月程で採り播きが可能。6筋の溝は茶褐色。花被片は枯れ縮む。


3-3 変種および地域変異

 花被片全体が薄緑色のフォームがある。

3-4 葉

 葉は濃緑色。一部表面の縁などが赤褐色となる。裏面は薄緑色で、基部および葉先に向うに従って赤褐色となる。葉長12 - 15㎝、幅4 - 5cm。厚みは中厚で照りがある。フラスコから出したばかりの苗の葉のほとんどは緑色で、1年程経過しないと葉表面が濃緑色、葉裏が赤褐色の色合いにならない。下写真は左がヘゴ棒取り付けで作落ちしたBS株をヘゴチップとプラスチック鉢に移植して1年後の葉である。作落ち時の2.5倍の伸長となった。右はフラスコ出し苗から2.5年が経過したBS株で、プラスチック鉢にミズゴケで栽培したものである。鉢サイズは6㎝。フラスコ出しから1年後に1回ミズゴケを交換している。

Leaves

3-5 花茎

 花茎の長さは葉長の約3倍。2-3分岐する。茎は一過性で開花終了と共に先端から枯れる。花は中株以上になると20輪以上開花し、P. celebensisP. equestrisなどの弓なりあるいは垂れ下がることはなく、上方向に伸長する。


3-6 根

 発生後間もない根は赤茶あるいは茶褐色。やがて灰銀色となり支持体に活着すると扁平となる。根冠は緑色。ヘゴ棒の取り付けでは1年程で根の伸長が葉の2倍程度の長さとなる。それ以上となる根は少ない。ミズゴケやクリプトモスによる鉢植では、鉢を越えて伸長するほどの根張りはほとんど見られない。

Roots

4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ棒     BS株
    ミズゴケ 半透明プラスチック   NBS株 鉢は小型半透明
    ミズゴケ 素焼き    
    ヘゴチップ 半透明プラスチック    
    クリプトモスミックス 半透明プラスチック    

  2. 栽培難易度
    容易。フラスコ出しの小苗から1年間は小型半透明プラスチック鉢(6㎝以下)とミズゴケが良い。この間は低輝度の栽培とする。2012年まではフラスコ出し1年後にヘゴ棒に移植していたが、すべての株で移植から2年程経過したのち成長が止まる傾向が見られた。本サイトでは自家交配で得た実生をフラスコ苗から育成しているが、実生株ではヘゴチップと半透明プラスチック鉢が安定で成長がよい。クリプトモスミックス(クリップトモスとミズゴケ)のプラスチック鉢植えも問題はない。クリプトモスは2年毎の交換が好ましい。高輝度と乾燥を非常に嫌うようである。下写真はフラスコ出し直後の苗(左)と1年後のNBS苗を示す。右の状態からさらに1年後でBSサイズとなるが、その写真が3-4項の写真右に示したもの。写真の苗はフラスコ出しからBSまで6㎝径半透明プラスチック鉢とミズゴケの組み合わせのままで根が乾燥した日はなく作落ちは全株に見られない。


    フラスコ出し直後。葉は鮮緑色

    左から10か月後。葉は濃緑色化を始め、一部は緑褐色となる。


  3. 温度照明
    照明は低-中輝度。生息地は北緯12度、海抜1,500mに位置し、年間平均最高気温は24℃、最低気温は16℃と、夜間は肌寒い期間の長い地域ではあるが、クールタイプ程の低温管理を特に必要としない。中温栽培が好ましいと思われる。

  4. 開花
    花茎の基部側から順次咲いて同時に全輪開花する。P. celebensisP. lindeniiのように花茎は一過性であるが、それらのようにしばしば先端部を伸ばしながら一定数で順次咲き続ける特性は見られない。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    ミズゴケ・素焼き鉢で、短期間の間に全ての葉が急に黄変して落ちた株があった。フザリウム菌による可能性が高い。薬剤としてダコニールやトリフミンを用いたが、その他の株への感染は見られなかった。根にナメクジの被害を受けたことがある。基本的に病虫害には強い種である。
 

5.特記事項

 マーケットでの入手が難しい。自家交配による培養では難発芽性は見られない。