10月
Bulbophyllum nasseri の植替え
これまでの凡そ1年間のバルボフィラムの植替えは当歳月記に見られるように大型株が中心でしたが、ようやく小型の種(例えば、新種ではirianae, isabellinum, championii, sannio, scaphioglossumなど )の植替えが始まっています。下画像は先週植替えが完了したフィリピン・レイテ島低地生息のBulb. nasseriです。本種は2014年と2016年に合わせて30株程を入手しました。その中で2株に一般サイズ(IOSPEでは縦幅8.5㎝)とは異なる大きな花サイズ(14㎝)の株が見つかりました。入荷当時は杉皮で、その後に炭化コルクとヤシ繊維マットを重ねた支持材としてきましたが、今回はgiantタイプの花株を含め40㎝長の杉板20枚への植付けです。一方、本種は低輝度・中温タイプとされます。しかし当サイトでは高輝度・高温環境で最も良い成長が見られます。
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Bulbophyllum nasseri Leyte |
Trichoglottis atropurpurea flava の植替え
Trigl. atropurpureaのflavaフォームは今年7月の歳月記に取り上げましたが、今回は栽培する20株全てを90㎝長の杉板にそれぞれ植替えしました。下画像はその内の15株です。本種は画像に見られるように背丈が長く、これまでの炭化コルク支持材からの取り外しと90㎝長の杉板への植付けとなったことから全株の植替え完了までに1週間を要しました。下画像以外に脇芽(成長芽)を株分けした凡そ40㎝長の株が5株あり、これらも今後の成長を見込み90㎝長の支持材としています。ネット上では国内外共に当サイト以外に本種は見られません。栽培は高温・高輝度タイプとなります。ちなみに右画像左下の、本種の前に置かれた多数の細長い葉のランは同じフィリピン生息のCoel. palawanensisです。こちらも現在入手が極めて困難なセロジネとなっています。
Dendrobium pandaneti :真上に向かって細長く伸長するデンドロビウムの植替え
本種はマレー半島、タイ、スマトラ島、ボルネオ島などの低地に分布し、下画像左に見られる個性あるリップ形状を持つデンドロビウムです。花サイズは2.5㎝程です。当サイトが本種を入手したのは2016年頃で初花は2017年5月でした。特徴は1本の元茎(疑似バルブ)から一般的に言われる高芽ではなく複数の幹枝を出し、それぞれの枝の節から発生する根を支持体に活着させながら上方に伸長していきます。現在、国内外共にネットにはマーケット情報が無いことから入手難と思い、5年ぶりに本種の植替えを行いました。画像右は長さ90㎝x幅15㎝の杉板で、すでに頂芽は支持材の上端に迫っており1年で越えると思います。多輪花の同時開花を期待しているところです。
現在(10日)開花中の6種
下画像のBulb. irianaeは2016年10月に入荷、当時の種名をBulb. obovatifolium redとして初花を2017年7月の歳月記に掲載しましたが、その後本種がOrchideen Journal Vol.6-5, 2018にて新種Bulb. irianaeとして発表されたことで、当サイトでは2018年10月以降現在の名に改名しました。
一般的に種名が新たに確定した場合、オンラインサイトのページであれば、旧名は遡って新名に改名すべきですが、当サイトの2015年から18年頃までの歳月記と「花と開花月」では、無修正のままとなっています。その理由は、種名確定前の現地マーケットにおける流通名や慣用名、例えば前項のAerides magnificaにも見られるように、この種はかってAerides odrataやquinquevulneraであったりと多数の名称が使用された経緯があり、magnifica名が現地で認知し始めたのはジャーナル2014年発表から3-4年後でした。当サイトでのmagnifica名への切り替えも2018年6月からでした。サイトでの各種インデックスやページでは最新の種名を用いますが、それぞれの時期を反映した日々の出来事を述べる歳月記であれば過去の記載を残すのも一興との考えから、2018年頃までの歳月記アーカイブでは当時用いた種名を殆どそのままにしています。
Bulbophyllum dolichoblepharonとBulbophyllum othonisの植替え
Bulb. dolichoblepharonとBulb. othonisの植替えを先週行いました。両種はリードバルブや脇芽が上と共に横方向にも盛んに伸長する性質があり、今回は支持材をリードバルブがはみ出す状態となっていたため植替えとなりました。横方向の伸長に対応するには幅広の支持材が必要ですが、吊り下げ型ではスペースを取るため難点となります。当サイトでは吊り下げ支持材の横幅は15㎝以下としており、これを越える場合は超えた部分を植替え時に株分けし、切り取られた株は位置を変え改めて同じ株に寄せ植えし、縦長の株姿にすることにしています。下画像左のBulb. dolichoblepharonは前項でも取り上げました。一方、Bulb. othonisはBulb. nutansとしても知られていますが、当サイトでの本種の花はネット検索で多く見られる薄黄色ではなく鮮やかな白色フォームで、多輪花で開花すると良く目立つことから、これらの植替えのタイミングを待っていたところで、ようやく叶いました。支持材は共に杉板60㎝長x15㎝幅です。
Bulbophyllum dolichoblepharon : 本種の種名について
Bulb. dolichoblepharonはBulb. brevibrachiatumと共に、R. Schlechterにより1911年に発表(属名Cirrhopetalumとして)されたバルボフィラムです。しかし、いつの時点かは不明ですが両種は現在、シノニム(異名同種)とされています。そうした背景からかIOSPEでは、Bulb. dolichoblepharon名の検索を行うとBulb. brevibrachiatumのサイトが表示され、またOrchidRootsも同様に本種名のページには花画像が無く、シノニムとしてBulb. brevibrachiatumへのリンクアドレスが表記されています。
一方で本種はスラウェシ島及びフィリピンの生息種ですが、J. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011では、両種は別種として記載されており掲載された花画像も異なっています。そうした状況の中で本種名ではなくBulb. brevibrachiatum名でネット検索を行うと、OrchidRootsを含む多数のサイトにおいて支離滅裂とも思われる多様な花画像が表示され花形状に統一性がなく、Orchid.org、Pinterest、Tropical Exotique等のサイトにもIOSPEのBulb. brevibrachiatumのページとは異なる花画像が見られます。ではそれらの中でどの花が本種のシノニムの対象となるフォームなのか分かりません。
そこで1世紀ほど前の発表当時の情報源とされるこれらの種のスケッチ図を、類似種のBulb. makoyanumも加えて下に取り上げてみました。スケッチ図はplantgenera.orgに記載のDr. グンナー・ザイデンファデンの「Cirrhopetalumに関するメモ」(1973年)等からの引用となります。
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Bulb. dolichoblepharon |
Bulb. brevibrachiatum |
Bulb. makoyanum |
上画像の3種の相違点は蕊柱周辺の形状に見られるとの指摘もありますが、この時代の手書き図を参照して、実態とのミクロな部位の比較判別は困難です。一般的に視覚よる種名同定に用いられる主な部位は、既存類似種がもつ個体差や地域差の範疇を超える花被片(セパル・ペタルの形状や長さと幅サイズ比率)や花の開花姿勢(立性、水平、下垂性等)またリップ形状の相違による判断となりますが、上記スケッチ図から分かることは3種の中でBulb. dolichoblepharonはラテラルセパルに葉脈も見られ幅広感があり、これに対しBulb. brevibrachiatumとBulb. makoyanum は共にラテラルセパルが線形であることで、その他の部位については分かり難く、はっきりしません。
下画像は当サイトが栽培している上記3種の花写真です。この画像からは明らかにBulb. dolichoblepharonの姿は他の2種と比べ、それぞれの個体差の範囲を超えた様態であることが分かります。これらの画像や前記の多数のサイトでの実状からは、なぜ本種がBulb. brevibrachiatumと同一種として恒常化されるに至ったのか不思議です。当サイトが栽培するBulb. dolichoblepharonはフィリピン・ミンダナオ島生息種として2016年に本種名で現地にて入手したもので、2017年の東京ドームらん展では共同出店したフィリピン蘭園の一般客向けプレオーダーリストにも本種名がありました。
Bulb. dolichoblepharonとBulb. brevibrachiatumが同一種あるいは異種とされる背景には仮説として、1911年の命名時点に用いられた同定サンプルからは異種と思われたものの、両種が同じスラウェシ島生息種であることから島内には両種の自然交配による中間体が生息し、後にそれらとの比較により同一種ではと見做された一方で、フィリピンでは生息域が分離(前種はLaguna州、Panay島、ミンダナオ島に対し、後種はNueva Vizcaya, Mindoro島)していることから中間体の存在が無く、J. Cootes著に見られるように両種の形状の違いが明確であったことから別種として分類されたのではと、それぞれを推測します。
いずれにしてもフィリピンBulb. dolichoblepharonの花株は写真が示すように他種とは明らかな違いがあるものの、その真偽は別として、両種が同種と見做されたことでBulb. dolichoblepharon固有の特性や差別化への探求が失われているとも考えます。現在国内外共にネット上には上写真の花形状に類似するBulb. dolichoblepharon名の画像は当サイト(Cyber Wild Orchid)以外見られません。もしこれがBulb. dolichoblepharonではないとすれば、画像が示すようにその花姿はCirrhopetalum節の中では最も華麗な種の一つでもあることから既に知られた種名があるはずで、別名も無いとすれば未登録の新種の可能性も考えられます。本種の種名問題は今後の課題(DNA解析等)となります。
ところでマーケットにおいて、上画像に見られる花株を期待してBulb. dolichoblepharon名で発注する場合、販売業者や趣味家を含めて花を確認した株を入手することが必須です。上記のような現状を考えると花の確認(花写真を含め)のない株の殆どはシノニムとされるBulb. brevibrachiatumとなる可能性が高く、そうであってもシノニムとされる以上、発注名の種に間違いは無いとされサプライヤーにクレームは出せませんので注意が必要です。これはBulb. brevibrachiatumの入手も同様で、この名前で上画像中央の花株を期待しても、OrchidRootsサイトが示すように、多様な花形状がBulb. brevibrachiatumとして公表されている限り、そうした中のどの花株が入荷するかは分かりません。
現在(1日)開花中の15種
現在開花中の15種を選んで撮影しました。それぞれの種の詳細は画像下の青色種名のクリックで見られます。