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栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2024年度

2025年  1月  2月  3月  4月 

4月

Vandaの植替え洗浄

 現在Vandaを80株以上栽培しており、その多くが根を含めた株サイズで1.5mを越えます。昨年からこれらの株の花付きが悪くなり、現在1か月間程をかけてこれまでの支持材から株を取り外し、葉や根の洗浄を行っているところです。Vandaの栽培には高湿度環境が必須で、こうした環境下では2-3年もすると根周りや茎にコケが付着・繁殖したり、葉が汚れてきます。そうした状態のまま放置すると株はやがて成長が鈍化し花付きも悪くなります。現地のラン園のように根を空中に垂らしたまま栽培ができる高湿度環境があれば、2-3年おきに簡単な手間で洗浄ができるのですが、国内の気候下では、根周りを高い気相率に保ちながら、高湿度を恒常的に維持するには、それなりの特殊な栽培環境を人工的に造らなくてはなりません。殆どのVandaは、その茎の長さの2-3倍にもなる根を持つことから、根詰まりのリスクが高いポット植えは適しません。このため保水力のある支持材に取り付けて根の活着を図るなどの栽培が必要となります。一方で、支持材に活着した根を付けたまま洗浄することも支持材の形状によっては難しく、当サイトが行っているような木製バスケットを支持材とする場合は、活着した株を一旦支持材から取り外す必要があり、その際の根の損傷を極力抑えるには、バスケットを分解しなければできません。さらに株がそれなりのサイズに成長すると、新しい太く固い根は支持材に活着することなく四方に長く伸長していきます。こうした根にとっても低湿度下でいつまでも活着地が得られなければ、やがて先端部から枯れることになります。いずれにしても殆どのVandaの栽培には高湿度化が必須と云えます。
 上記の問題から2年程前にVanda周辺のみに用いるための霧状の散水が可能な自動噴霧器を入手し、温室内に取り付ける計画を立てていました。しかし今にちまでそのままとなっており、今回のVanda全株の一斉洗浄を機に、これを設置することにしました。このため1週間ほど前から連日総株数80本程のVandaを支えている木製バスケットからの取り外しと洗浄が進行中で、5月中旬まで続きそうです。下画像左は30株ほどの、 洗浄後のベアールート(根をむき出したままの)Vandaで、右は全株洗浄終了後に設置予定の自動タイマーと噴霧器ノズルセットです。

株洗浄が終了したVanda ベアールート株 タイマー付き噴霧ノズルセット

Coelogyne salvaneranianaCoelogyne vanoverbergthiiについて

 Coel. salvaneranianavanoverbergthiiはいずれもフィリピン生息の固有種で、前者はミンダナオ島スリガオ州標高700m生息の高温タイプ、後者はルソン島マウンテン州標高1,700m生息の低温タイプとされます。当サイトがCoel. salvaneranianaを得たのは2019年初頭、種名由来のsalvanera家が運営するPulilan Bulacanのラン園内でオーナからの直接の入手でした。この時、現地にて当サイトが撮影した開花中の花画像はリップ中央弁全体が赤みの強いオレンジ色で、先端が尖った3角形でした。多数の株の中から本種を5株程持ち帰り、2022年に開花した花の中央弁は丸みのあるオレンジ色で、かなり形状が異なっていました。しかし種名由来のラン園からのセロジネでもあり、その違いは個体差であって、種名に間違いはないであろうと、その開花画像を当サイトのセロジネのページに加えることにしました。一方で8年程前にフィリピンのPurificacionより入手したCoel. vanoverberghii名のラベルを付けた株も当サイトでは栽培していました。この株はその生息域情報から低―中温室にて栽培していたものの開花がなく、これまで多くの種での経験から生息域情報に疑問を持ち、2年前に高温室に移動して今回初めて開花を得ることが出来ました。下花画像は、左がSalvaneraラン園にて撮影のCoel. salvaneraniana、中央がそのラン園からCoel. salvaneraniana名で入荷し当サイトで開花した花、右が今月当サイト高温室にて開花したCoel. vanoverberghiiラベル名のそれぞれの花です。

Coelogyne vanoverberghii Complex

  画像だけでなく、定量的な比較確認のため花被片、リップ、花、葉などの数値についてCoel. salvaneranianaCoel. vanoverbergthiiに関してはJ. Cootes氏著 Philippine Native Orchid Species 2011に記載の値を、また今回の開花種についてはCoel. vanoverberghii affとして実測し、それぞれを下表に纏めました。表中の(L)及び(W)はそれぞれの部位の形状の長さと幅です。花数は1茎当たりの同時開花数となります。Coel. vanoverberghii affの詳細画像は当サイトのセロジネページに追加しました。

  Coel. salvaneraniana Coel. vanoverberghii Coel. vanoverberghii aff
Labellum
Mid-lobe
no-info
0.5cm(L) x 1.2cm(W)
2.6cm(L) x 1.7cm(W)
1.3cm(L) x 1.0cm(W)
2.6cm(L) x 1.7cm(W)
1.2cm(L) x 1.7cm(W)
Dorsal sepal
Petal
Lateral sepal
2.5cm(L) x 1.0cm(W)
2.4cm(L) x 0.3cm(W)
2.3cm(L) x 0.8cm(W)
3.0cm(L) x 1.2cm(W)
2.9cm(L) x 0.3cm(W)
3.0cm(L) x 1.0cm(W)
3.2cm(L) x 1.4cm(W)
3.3cm(L) x 0.4cm(W)
3.2cm(L) x 1.0cm(W)
Leaf size
Flowers number
Flower size
38.2cm(L) x 4.3cm(W)
8max
4.0cm
28.0cm(L) x 5.5cm(W)
6max
6.0cm
45.1cm(L) x 7.2cm(W)
8max
6.9cm

 上記3種の比較では、Coel. salvaneranianaのリップ中央弁のサイズが他と比べ小さく、またCoel. vanoverberghiiCoel. vanoverberghii affはリップ形状はほぼ同値です。一方でCoel. vanoverberghii affの葉サイズは特出して大きく、実測画像は本種ぺ―ジ内で見られます。OrchidrootsではCoel. salvaneranianaの花画像が多数掲載され、その中にはCoel. vanoverberghii affと同じ様な花形状もあり、また一方で、Coel. vanoverberghiiのサイトには僅か2枚の画像しかありません。おそらく標高1,700mが確証できる株での花情報が少ないのかも知れません。
 上記テーブル以外の情報としてCoel. salvaneranianaは、そのリップ中央弁の外縁は波状のうねりがあるとされます。しかしそれが無いフォームも多数見られ、またその外縁の色が白色あるいは中心部と同じオレンジ色のフォームや、さらにリップ先端部は矢じり(arrowhead)型とされる一方で、Coel. vanoverberghiiでは先端部が下に反って四角形状に近い様態もあり、例えば上記画像右のCoel. vanoverberghii affの上部と最下部に咲くリップ中央弁の先端部ではその両フォームが同一株にもかかわらずそれぞれが見られます。すなわち開花後の日数で先端部は変形しています。
 当サイトではこうした混沌とした情報群や現地ラン園でのこれまでの取り扱い、さらに上記テーブルからは葉サイズを除いてほぼ同じ特性を持つCoel. vanoverberghiiとCoel. vanoverberghii affが、低温と高温域に生息する可能性を考慮すると、これらは同種であって、花形状や色の違いは亜種、地域差(変種)や個体差の範囲内ではないかと推測しています。

今週開花の5種

 下画像種は22日の撮影です。Den. aureilobumは倒立開花の1日花ですが、年に4回ほど開花が見られます。今回サイズや類似種との比較画像を青色種名のリンク先ページ内に追加しました。

Dendrobium auriculatum Luzon Dendrobium aureilobum Cameron Highlands Dendrobium stratiotes NG
Dendrobium junceum Luzon Bulbophyllum sulawesii semi-alba Sulawesi

現在開花中の17種

 現在開花中の17種を選んで撮影しました。下画像でBulb. sp aff. macranthumは10年ほど前にBulb. cheiriに紛れてフィリピンルソン島から入荷したバルボフィラムで、これまでのネット検索からは該当種が見当たらず未登録種ではないかと思います。下画像のCoel. sp aff. vanoverberghii Coel. vanoverberghiiのラベル名で入手したセロジネですが、Coel. salvaneranianaとの違いはリップ中央弁の形状が前者は3角形(arrowhead)、後者は4角形(square)とされます。しかしリップ形状にはそれらの中間体があり、今一つ同定が困難です。今回は下画像種が低温室では成長や開花が無く、高温室にての開花であることからCoel. sp aff. vanoverberghiiとしました。標高1,700mの低温域生息種とされるCoel. vanoverberghiiがこの数年間の国内の高温室環境での生存は無理なためです。(後述:本種の詳細情報は追ってセロジネページにCoel. vanoverberghii affとして追加します)。Paph. rothschildianumはこのところ開花する殆どの株で、花の左右ペタルスパンサイズが30㎝以上あり、どうも当サイトではこれが標準的なサイズのようです。

Aerides odorata alba Mindro Bulbophyllum claptonense Borneo Bulbophyllum lobbii giant Malaysia
Bulbophyllum sp aff. macranthum Luzon Bulbophyllum papulosum Negros Bulbophyllum fascinator Mindanao
Coel. sp aff. vanoverberghii Philippines Coelogyne pachystachya Thailand Dendrobium macrophyllum Luzon
Dendrobium taurinum Negros Den. cinnabarinum angustitepalum Borneo Dendrobium crocatum Malaysia
Phalaenopsis philippinensis Luzon Phalaenopsis corningiana Borneo Phalaenopsis corningiana Blue-lip Borneo
Vanda helvola Sumatra Paphiopedilum rothschildianum Petal: >30cm long Borneo

当サイトの販売について

 当サイトでは、販売は2年前から再開しており、現在は予約制で、温室に来られ持ち帰りのできる方のみの、いわゆる店頭販売となっています。販売株リストなどは公開しておらず、当サイトのネットページから希望される種名やサイズなどの情報をメールで頂き、販売可能か、またそれらの価格等のやり取りをした後に、浜松までお越し頂いております。購入希望種を決めずに温室に来られ、現場で希望する種を選び持ち帰る方もおられ、こちらの方が多いのが現状で、毎月来られる方もおります。
 配送手段を伴う業務の場合、株数にかかわらず出荷のための前処理(病害防除処理、剪定また植込み材の交換)や、それらの梱包等に半日は掛かってしまいます。また栽培している株はコロナ前の入荷から5年以上経ち大きなサイズ株も多く、それぞれの株を画像化してメールで確認して頂くなどの対応も必要になります。これら作業はマンパワーが掛かります。現在は膨大な数の栽培と、品質維持のためそれらの定期的な植替え等の作業に追われており、こうした状況も、持ち帰り販売限定の背景となっています。このため来られてご覧頂き、入手を希望される種があるものはそのまま持ち帰って頂いており、最近は遠方から来られる方も多くなっています。
 一方、直接ご覧になって株が大き過ぎ、小さい株を希望される方も多く、この場合は株分けが可能なものは、カットしてベアールートでの持ち帰り、あるいは株分けして最短1-2か月ほどの順化栽培をした後、出荷が可能になればご連絡する方法も行っています。
 よろしくご検討お願い申し上げます。

Dendrobium ellipsophyllum について

 Den. ellipsophyllumはタイ、ラオス、ミャンマー、ベトナム、中国雲南の標高1,000m以下に生息のデンドロビウムとされます。当サイトが栽培する本種は、2017年フィリピンPurificacionからPalawan生息のsp(種名不詳種)として入手したもので、初入荷種とのことでした。花形状からはDen. ellipsophyllumに似しているものの、当時は本種がPalawanに生息している記録が無く、またCootes氏著Philippine Native Orchid Species 2011にも本種の記載はありませんでした。しかしセパル・ペタルやリップにはPalawanと大陸系種との相違点が見られないことから2019年以降、Palawan種もDen. ellipsophyllumと見做し、今にちに至ります。一方で、当サイトの本種ページの特記事項には「種名については要検討」としています。その理由は花形状とは違って本種の葉や疑似バルブが大陸系とは異なるためです。大陸系の葉はその種名由来であるellipso.. = ellipse、すなわち”楕円”形であり、また疑似バルブも多くのDistichophyllum節に共通したDen. uniflorumのような太さと立ち性に対し、Palawan種の葉は細長く線形で、バルブも細く、新芽からの成長期は直立して伸長するもののやがて40㎝を越えると水平方向に向かう半下垂性が見られます。そこで大陸系Den. ellipsophyllumの葉やバルブ形状にPalawan種に類似するような形状がないか、今回の開花を機にネットで可なり調べました。しかし線形葉を持つDen. ellipsophyllumは見られませんでした。
 こうした背景からPalawanと大陸系の種の関係は、亜種ではないか、あるいはデンドロビウムの中には、例えばDen. niveobarbatumDen. polytrichumの花形状は酷似しているものの葉形状や疑似バルブの違いから別種となっている種があるように、本種もまた未登録種ではとも思えます。これもまた同定には遺伝子解析が必要かも知れません。これら葉とバルブ形状の詳細は下画像中央の青色種名リンク先に改めて掲載しました。現在はPalawan種が入手難であることと、5年間ほど植替えがなかったことから今回は根張りスペースが十分得られるように60㎝長の杉板に植替えを行いました。下画像はPalawam生息のDen. ellipsophyllumでリップがオレンジと本日(15日)撮影したグリーンの2色です。大陸系で一般的に見られるのはオレンジ色です。下右画像が植替え直後(13日)撮影の本種となります。杉板は5枚がグリーン種で、他の2枚とは別に10株程のオレンジ種もあり、そちらはバスケット植えとなっています。

Den. ellipsophyllum orange Den. ellipsophyllum green Den. ellipsophyllum on cedar board (60㎝ long)

 本種のリップ中央弁には3本の茶褐色の線状模様があり、左画像がグリーン種の一般フォームですが右画像のようなフォームも見られます。

Den. ellipsophyllum Green Palawan

現在(13日)開花中のデンドロビウム3種

 Den. igneoniveimは久々の登場です。現在7株ある本種もDen. aurantiflammeum同様に一昨年の猛暑の影響で作落ちがあり、疑似バルブがそれぞれ2-3本になりましたが、昨年から栽培場所を変えることで現在は新芽も増え成長を続けています。Den. ovipostoriferumは現在15株程を栽培しており通年で開花が見られます。本種のリップはオレンジ色ですが、今回は赤みの強い花を選んで撮影しました。Den. junceumDen. carinatumとはセパル・ペタルの線状模様の有無で通常識別できますが、こうした模様は薄く消えているものもあり、確実な識別はリップ中央弁基部の突起形状でその違いが分かります。

Dendrobium igneoniveum Sumatra Dendrobium ovipostoriferum Borneo Dendrobium junceum Luzon

Bulbophyllum magnumの植替え例

 2013年発表のBulb. magnumの植替えを行いました。本種はバルブ間を繋ぐリゾームが長く、ポットやバスケットへの植付けでは、2年もすればバルブは容器を飛び出し、やがて空中に晒された根の先端部が枯れ、株は作落ちへと向かいます。当サイトでの本種の栽培は、これまでは炭化コルクでその植替えの様子や方法についての詳細は、本ページ2023年2月に報告しました。現在の新たな取付材は全て杉板に替わっています。
 下画像は今月6日、これまでの60㎝長の炭化コルクから90㎝長の杉板に移植したもので、左から2枚目が植替えの前の、葉付きバルブ13個からなる株です。この画像からは多数の分岐した先端バルブが支持材を離れ、さらにその伸長方向も前後左右とまちまちです。本種のリゾームは固く曲げることはできず、このような状態になってからでは植替えは極めて困難です。こうした状態になるまで植替えをしなかったことが問題ですが、そうも言ってはおれず、全てのバルブを失うことなく、また同一平面上でバルブや葉が上を向いた状態になるよう新たに取り付けなければなりません。このためにはそうした配置が可能となる位置でのリゾームの切断が必須で、今回は3か所を切り離しての再配置となりました。右2枚は90㎝長の杉板上に新たに植付けた株の正面と側面から撮影した画像です。今回の植替え作業はリゾーム切断箇所の検討と、全ての根のそれぞれが重なり合わないようにミズゴケで挿み抑える取付けだけで2時間近くを要しました。本種については現在こうした作業が10株終了したところですがまだ同数程が残っています。。

Bulbophyllum magnum 植替え前の株様態 植替え後の株 左:正面、右:側面からの撮影

現在(8日)開花中の15種

 Den. atjehenseDen. deleoniiは開花間もない花画像を今月と先月にそれぞれ掲載しましたが、現在全開状態となっていることから再度撮影しました。Den. aurantiflammeumは1昨年の猛暑による作落ちから2年近く経ち、開花も見られるようになりました。この1年間で新たに発生した多くの疑似バルブの成長は盛んで来年には大量の開花が期待できそうです。Den. leoprinum semi-albaは昨年から開花を続けています。

Dendrobium atjehense Sumatra Dendrobium deleonii Mindanao
Dendrobium taurinum Mindanao Dendrobium aurantiflammeum Borneo Dendrobium bicolense Luzon
Dendrobium leporinum semi-alba NG Dendrobium lawesii white NG
Dendrobium roslii Pen. Malaysia Dendrochilum coccineum Mindanao

  Bulb. virescens sulawesiは前項で取り上げた当サイトのBulb. sp03で、今回は別株で7輪の同時開花があり撮影しました。入荷から8年を経て昨年開花したBulb. lasianthumは、その後4株に開花が見られました。今回開花の花はそれまでの深赤紫色と比べ、さらに濃い色合いとなっています。それぞれの色の比較は画像下の青色種名のリンク先で見られます。Bulb. gjellerupiiの花は落花が近づくと赤くなる性質があり、古い花と新しい花が同時開花していると、やがて画像に見られるような、同一株の中で色合いの異なる面白い開花風景が3-4日程見られます。Coelogyne pandurataも前月に取り上げました。その株は炭化コルク付けで開花は4輪でした。今回の株は昨年8月に1m長の杉板に取り付けた別株で同年10月に5輪、今回の開花では8輪の同時開花です。次回は杉板に伸びしろスペースの余裕があることから、さらに大株になって10輪以上の開花を期待しています。

Bulbophyllum virescens sulawesi Sulawesi Bulbophyllum lasianthum Borneo Bulbophyllum gjellerupii PNG
Bulbophyllum bandischii NG Bulbophyllum infundibuliforme Ambon Is. Coelogyne pandurata Borneo

 Paph. rothschildianumは30㎝のペタルスパンをもつ2株で、これまで本ページで取り上げた株とは別株です。今年の開花を見ていると、半数以上にぺタルスパンが30㎝あるいはそれ以上あり、可なりの株が30㎝越えとなりそうです。元をたどれば当初5株程の選別株を海外から得て、これらを会津在住時から今にちまでの20年間近い栽培で5倍程の株数となり、これに加え2010年頃にはOrchidINから米国での入賞株の分け株なども入手し、こうした株の中からペタルスパンやドーサルセパルの大きな株の実生化も行い現在に至っています。会員ページが立ち上がれば、Paph. sanderianum、Paph. gigantifolium等と共に会員限定の分譲販売を始める予定です。Schoenorchis buddleifloraは先月3日、本ページに掲載しましたが、その花が1か月以上経過した現在も落花することなく開花を続け、さらに花茎の数が増えて8本となり下画像の光景となっています。本種は一見ひ弱な感じがしますが、長寿命花で大変丈夫なランであることから再度取り上げてみました。

Vanda limbata Lombok Is. Paphiopedilum rothschildianum Borneo Schoenorchis buddleiflora Borneo

Bulbophyllum virescensと当サイトのBulbophyllum sp03について

 現在、当サイトに掲載のBulb. sp03が開花中です。本種は2015年12月にマレーシア経由でスラウェシ島から入荷したバルボフィラムで、2020年に初花を得て、同年5月の歳月記に本種の同定についての経緯を報告しました。この中で本種は、Bulb. virescens、uniflorum、aeoliumと同じBeccariana節であることは確かなものの、それらとはいずれも似て非なる形状で、総体的に同一性が感じられず、今日までBulb. sp(種名不詳種)として本種を位置づけてきました。そこで今回の開花を機に再度調べてみました。前記3種と比較すると、本種はややBulb. virescens寄りであり、またスラウェシ島にはBulb. virescensが生息するとされるものの、Bulb. uniflorumBulb. aeoliumの記録はありません。さらに今回新たなOrchidRootsサイトのBulb. virescensの検索では、Bulb. virescens(J.J.Sm.1900)はBulb. ericssonii(Kraenzl. 1893, Kew)のシノニムとの記載があるもののそのページには画像は一切なく、Bulb. ericssoniiへのリンクが掲示されています。そしてそのリンク先には、多数の現在ネットに見られるvirescens画像が表示され、驚くことにそれらの中のトップ画像に当サイトのsp03に酷似した花画像がvirescens名で表示されていることが分かりました。すなわちsp03の種名はBulb. ericssoniiであるものの、その慣用種名はそのシノニムであるBulb. virescensに相当することになります。またIOSPEにおいてBulb. virescensで検索すると、その画像が見られるものの、ページ内に記載の種名はBulb. virescensではなくBulb. ericssoniiとなっています。こうした背景は、両者は同種ではあるもののBulb. ericssoniiの記録がBulb. virescensよりも7年程早く、原則として種名は先行記録名が用いられるためです。OrchidRootsは前項でも述べましたが、種名と画像の整合性は現在世界で最も信頼のあるサイトであり、その背景に多くの研究者や栽培経験者が寄稿・制作しているのではと思います。こうした状況からは、現時点においてsp03はその種名をBulb. ericssoniiあるいはBulb. virescensとすることもありえます。
 一方、問題はそれだけではありません。Bulb. virescensBulb. ericssonii名に替わるだけならば兎も角、Bulb. ericssoniiにはBulb. binnendijkiiもそのシノニムとして含まれていることです。すなわち種名Bulb. ericssoniibinnendijkiiおよびvirescensは同種となります。しかしsp03を含め視覚的及びその形態の継承性からは、これらを全て同一名とすべき同種とはとても思えません。
 こうした諸々の背景から、当サイトでのsp03については、取敢えずBulb. virescensの個体差あるいは地域差と見做し、生息地名を付帯したBulb. virescens sulawesiとする修正を予定しているところです。一方で、公開されているsp03に似たvirescensとされる花は前記の1点のみ(画像は3枚程あるものの同一寄稿者で同一株)であり、本種は稀少性が高い可能性があります。下画像は上段左が今回開花したsp03で中央および右はそれぞれBulb. uniflorumBulb. aeoliumです。下段はBulb. virescensBulb. binnendijkiiで、これら5種はいずれも当サイトで現在栽培をしています。

Bulbophyllum sp03 (aff. virescens) Sulawesii Bulbophyllum uniflorum Borneo Bulbophyllum aeolium Malaysia 
Bulbophyllum virescens Malaysia Bulbophyllum binnendijkii Borneo

 国内外のマーケットにおいてBulb. binnendijkiiBulb. virescensあるいはsp03のような形状を持つ種がBulb. ericssonii名で一括りされれば、栽培者がそのいずれかをericssonii名のみで注文した場合、期待とは異なる花株を得ることも起こりえます。クレームを出しても同種ですと販売者からは云われかねません。花写真を見ての希望であれば、種名だけでなくその花写真を添付して注文するか、Bulb. binnendijkiiが入手希望であればBulb. ericssonii (aff.) binnendijkiiとなります。無論このような種名はこれまで見たことがありません。
 類似種の種名同定については1900年代までは視覚的判断が主流であり、こうした混乱はやむを得ないとしても、現在では遺伝子塩基配列解析等による科学的分類も行われており、これまで同種とされた種も新たに別種(亜種や変種を含む)に位置づけされ種名が替わることも、またその逆も、少なからずあり得るのではと思われます。

現在(1日)開花中の15種

 このところ気温の変化が激しく昼夜の温度差も大きくなっています。こうした状況下であっても、特に夜間平均温度が適温内に維持されていれば多数の属種で開花が見られます。一方、栽培平均温度が上昇を始めるこの時期は病虫害防除処理も欠かせません。下画像は現在開花中の花の一部ですが、植替えの合間に15種を選んで撮影しました。

Aerides odorata alba Mindoro Bulbophyllum quadricaudatum NG Bulbophyllum nitidum giganteum PMG
Bulbophyllum sp03 Sulawesi Bulbophyllum gjellerupii PNG Bulbophyllum nasica yellow NG
Bulbophyllum whitfordii Palawan Bulbophyllum rugosum Borneo Bulbophyllum gracillimum Borneo
Bulbophyllum magnum Luzon Bulbophyllum odoratum Pen. Malaysia Bulb. inunctum (Malaysian form) Borneo
Dendrobium paathii Borneo Dendrobium atjehense Sumatra Dendrobium boosii Mindanao

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