3月
現在開花中の5種
ユニークな花形状をもつBulb. gracillimumが現在開花しています。本種はタイ、ボルネオ島、ニューギニアなど生息域が広く、それ故かセパル・ペタルの色合いは多様です。本種の特徴である長い線形のラテラルセパルの標準色は赤系ですが、下画像左が示す白色種は10年ほど前に入荷した30株程に偶然混ざっていたもので、これまでネット検索を続けていますが下画像フォームは当サイト以外見当たりません。現在はその1株から株分けして2株を栽培しています。
Den. anosmumの一般種の花サイズ(左右ペタル間スパン)はIOSPEによると5cm-10cmとされます。またJ. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011ではペタル単体の長さは最長3.5cmとされ、これを開花時の左右ペタル間スパンに換算すると凡そ8cmとなります。よってフィリピン生息のDen. anosmumはこのサイズが一般種の最大値ともなります。こうした花サイズで花茎当たり最大20輪ほどが複数の花茎で一斉に開花すると、下画像anosmumの青色種名のクリック先のページに見られるように、開花風景は可なりインパクトがあります。一方、当サイトでは花サイズが10cmを超えるDen. anosmum var. giganteumを5株ほど栽培しており、下画像はその中で現在開花中の花を定規を入れて撮影(19日)したものです。画像からは左右ペタル間スパンは15.5cm程で一般種の最大サイズ値の1.5倍となります。
Den. anosmum ( Lindl. 1845)には、そのシノニム(異名同種)にDen.superbum ( Rchb.f 1864)が知られています。両名についてDen. anosmumはDen. superbumよりも19年先に記録されていることから、今日においては先行記録優先の慣行により本種名にはDen. anosmumが使用されることになります。このため「superbum」名で本種を検索するとIOSPEやOrchidRootsではその内容についての記載はなく、anosmumページへのリンク情報のみとなっています。しかし現在、本種の販売サイトにはsuperbum名が多く見られます。この名称慣行に反した現状はどうしたことかと疑問を持ち、調べてみました。まず種名anosmumはラテン語で「無臭」とのことです。しかし本種の花はハッキリとした匂いがあります。すなわち実態からは不釣合いな名称を、最初の記録者で植物(蘭)学者であったJohn Lindleyが付けてしまったことになります。おそらくこの学者は開花期間内の一時期あるいは早朝の匂いが薄れた時の認識からそうした名称にしたと思われます。一方のsuperbumの意味ですがラテン語で「美しい」、「豪華」、「気高い」とされます。すなわち先行記録とは云え誤称となる本種名「anosmum」を今後も呼び続けるべきか、はたまた後行記録とは云え同じ植物学者であったH.G. Reichenbachが付けた、実態に即した種名「superbum」とすべきか、何とも困った事情が本種名にはあるようで、現在もなお種名「superbum」が使用されるのも、そうした背景があるのかも知れません。
ちなみに、上画像Den. anosmumの花株は10年ほど前にフィリピンにて入手したものです。記録された変種名Dendrobium anosmum var. giganteumはフィリピンの植物学者Ramon V. Valmayor 1984となります。この変種に関する問題は、「giganteum」とする具体的なサイズ(条件)が明確で無いことです。しかしvar. giganteumとは呼称されていない一般種の花サイズがIOSPEに記載の5cm-10cmとすれば、「giganteum=巨大」とし、var.(変種)で差別化された花サイズであれば当然10cm以上と考えられ、10cm程であればそれは一般種の中の”比較的大きな花”としての個体差の範疇にあって変種ではありません。そうした状況の中、ネットでのDendrobium anosmum var. giganteumの販売には具体的に花サイズが分かる画像や数値が、当サイト以外には示されていません。よって栽培者が一般種以上の花サイズ株の確実な入手を望む場合は、販売者にその株の花サイズを確認するため、「xx由来」と言った情報では無く、その株の上画像が示すような詳細な花サイズの写真を要求するか、具体的(定量的)な開花サイズ(例えば10cm以上など)を保証してもらうことが必須と考えます。
直近開花の16種
先月末(26日)から現在(9日)までに開花の見られた16種を撮影しました。それぞれの種についての詳細は画像下の青色種名のクリックで見られます。
Coelogyne exalata
ボルネオ島生息でマスカットグリーンの花色が特徴のCoel. exalataが開花中です。本種は2015年に初入手し一時期には30株ほどを栽培していましたが、現在は5株程です。マーケットでは比較的高価な種となっています。下画像は現在開花している1株に3本の花茎とその株で、チークバスケットに植え付け、葉付バルブ数は28個となっています。2023年7月の植え替え時には15個であったことから2年半ほどで倍近い成長となります。その植え替え時の詳細については同年同月の歳月記にて報告しました。
Bulbophyllum callichroma bicolor
ニューギニア高地生息のBulb. callichromeが現在開花中です。本種の花色はペタルやドーサルセパルが淡黄色でラテラルセパルは全体が濃淡のあるアザレ色、あるいは基部がアザレ色で中央から先端部が卵色の2色が入り交じった色調が見られます。多くは下画像左の色調が一般的です。当サイトでは本種を20株ほど栽培をしていますが、下画像中央の2枚に示すアザレ色と明るい淡黄色が明確に分離した配色の株も僅かながら栽培しています。こうした左端の画像種とは変種のような色違いの中央の種は、ネット検索には見られません。他と区別するためbicolorとの付帯名を付けました。
当サイトが本種を初めて入手したのは2015年で、2018年3月に初花を得ました。3年を超える長い期間、開花が無かった原因はネット情報を参考に、低温室にて低輝度(shade)の栽培を続けていたためです。現在は中輝度で、やや高温寄りの中温室にて栽培をしています。上画像の右端は中央の花の株で、2021年の植え替えから5年を経過した株姿です。バルブは炭化コルクに活着している数よりも空中に浮かんだバルブの方が遙かに多く、よくここまで枯れること無く生き存えてきたか‥、密集した株の中に埋もれて気温・湿度・輝度などが適合していたと思われます。開花後には種にとって宿願の植え替えとなります。
現在開花中で同時開花数の多いBulbophyllum palawanense, Bulbophyllum incisilabrum及びDendrobium cymboglossum
Bulb. palawanense及びBulb. incisilabrumは先月の歳月記でも取り上げましたが、その後前種は5輪から9輪へ、また後種は8輪から13輪に同時開花数が増えたため再度撮影しました。これらは全て1株での開花です。一方、下画像右のDen. cymboglossumも1株に60輪ほどが現在同時開花しており、さらにまもなく開花する2本の花序もあります。1輪の花サイズはBulb. palawanenseは7cm超え、Bulb. incisilabrumが5cm程またDen. cymboglossumは4.5cmとそれぞれが大きく、これほどの多数の花が同時に開花すると可なり鮮やかとなります。