栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2024年度

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5月

Bulbophyllum whitfordii

 前項で取り上げたBulb. whitfordiiは2017年5月、当サイト向けとしてフィリピンのラン園がPalawanより入手した株を直接持ち帰ったもので、初花は翌年4月でした。本種(Rolfe 1905 )についてネット検索すると、IOSPEには本種名のページが無く、Bulb. cheiri(Lindl 1844 )のシノニム(異名同種)として花色が赤茶色をベースとするBulb. cheiriのページが表示されます。またその生息域はボルネオ島、スラウェシ島、スマトラ島、マレーシア、フィリピン、Javaとのことです。ところが J. Cootes著Philippine Native Orchid Speces 2011には、Bulb. whitfordiiはフィリピンの固有(Endemic)種で、フィリピンにも生息するBulb. cheiriとは別種として記載されています。さらにPOWO(Plants of the World Online)では、Bulb. whitfordiiBulb. cheiri subsp. cheiriのシノニムとあり、その生息域はボルネオ、マレー半島、フィリピン、スラウェシ島で、さらにintroduced into New Guineaとする記載(和訳不明)も見られ、本種はBulb. cheiriの亜種に位置づけられています。もし亜種であれば、本種の生息域は一般種とは異なる筈ですがそうした詳細情報や解説は見られません。
 そこでIOSPEに、Bulb. withfordiiに似た種はないかと別の視点から調べてみたところBulb. megalanthumがあります。本種はマレー半島、マルク諸島およびフィリピンの生息とされます。前記J. Cootes氏著書にも記載され、Bulb. megalanthumはその特徴として午前中に花が全開し、午後に閉じる性質があるとのことです。こうした様態はBulb. whitfordiiには見られません。さらにIOSPEでは、Bulb. megalanthumは倒立花ではなく(non resupinate flower)、また甘い香りがあること、さらにリップや蕊中の形状はBulb. cheiriとは異なるとされます。ところが掲載されている花画像はなぜか倒立しており全開でもなく、皮肉なことにまさにそれはBulb. megalanthumではなくBulb. whitfordiiらしき花姿です。
 こうした諸々の不可思議な情報を纏めていると、思わずふきだしてしまいますが、整理するとBulb. whitfordiiは倒立花で甘い香りがある(Bulb. cheiriはnot smell wellの記載がある)こと、セパル・ペタルが平面展開する全開は無く、午前中に開花し午後に閉じるといった様態も無いこと、またネット上におけるBulb. whitfordiiのページそれぞれには、広範囲な生息域?が記載されているにも拘らず、掲載画像当該の花の具体的な出処(生息)地が記載されたサイトが無いことなど、こうした現状からは、Bulb. whitfordiicheirimegalanthumとはシノニムではない類似種であることが推測されます。
 下画像に示す 当サイトが栽培するセパル・ペタルが山吹色のベースに茜色の複数のストライプの入ったフォームを持つBulb. whitfordiiと、フィリピン以外の生息域からの本種名をもつ花の、形状や香り等を比較したいのですが、今にちまでそうした種を得る機会がありません。ちなみに現在、国内での本種のマーケット情報は無いようです。当サイトでは本種を現在15株程栽培中で、その半数以上が高温室にて葉付き15バルブを越える株サイズとなっています。本種の詳細画像は画像下の青色種名のクリックで見ることができます。

Bulbophyllum whitfordii Palawan Bulbophyllum whitfordii & cheiri

 なお、当サイトが所有する本種画像が海外の orquidariorobertomartins.comにて、当サイトに無許可でコピー使用(2025/05/27)されています。このブラジル在住と思われる園芸店と当サイトとは何ら関係はありません。

現在開花中の18種

 現在(23日)開花中の18種を撮影しました。それぞれの詳細画像は画像下の青色種名のクリックで見られます。

Bulbophyllum freitagii PNG Bulbophyllum claptonense aurea Borneo Bulbophyllum baileyi NG
Bulbophyllum bandischii NG Bulbophyllum lobbii giant Pen. Malaysia Bulbophyllum dolichoblepharon Luzon
Bulbophyllum flavescens Luzon Bulbophyllum saurocephalum Luzon Bulbophyllum veldkampii Sulawesi
Bulbophyllum whitfordii Palawan Bulbophyllum tollenoniferum PNG Dendrobium punbatuense Borneo
Dendrobium victoriae-reginae Mindanao Dendrobium spathilingue Java Dendrobium cuneilabrum Sumatra
Dendrobium uniflorum alba PHL Dendrobium jyrdii Palawan  Paphiopedilum sp aff. wardii-alba  PHL

Bulbophyllum cameronense

 現在、マレーシアCameron Highlandsを種名由来とする1996年発表のBulb. cameronenseが開花中です。当サイトが本種を入手したのは2016年で、Bulb. lobbiiに似た sp(種名不詳)種として、キャメロンハイランド在住のラン園からでした。その後の開花で、セパル・ペタル内面の鮮明なラインとリップ中央部には黄色の腺状紋が見られたことから、しばらくは同じマレー半島に生息するBulb. siamenseの地域差と見做して栽培してきました。しかし昨年5月の開花時の調べで本種は別種と判断し、それまで掲載していた本種画像をBulb. siamenseのページから削除し、新たな種としてページを追加しました
 Bulb. lobbii
の類似種については昨年5月の歳月記(Bulbophyllum bataanense項目)に、それらの関係(亜種、変種、生息域等)をとりあげましたが、ネット情報には不明な点も多く、改めて類似種の花を下画像に表示しました。現地マーケットにおいても2015年頃は、下画像3段右のボルネオ島生息のBulb. claptonense Borneo_Kalimantan はBulb. lobbii Kalimantanとの種名で、また4段左のBulb. sumatranumBulb. lobbii Sumatraとの種名で扱われ、それぞれがBulb. lobbiiの地域差として出荷されていました。今にちでも下画像2段目に並ぶBulb. lobbiiの生息域別の3タイプそれぞれの花姿を見ると、同一種とは思えない程の形状やカラーフォームの違いが感じられます。こうした状況を考えると、Bulb. lobbiiが含まれるSestochilus節60種ほどの近縁種をコレクションするだけでも面白いのではと思います。なおBulb. cameronenseについてIOSPEでは、本種の花サイズは5㎝とされています。当サイトでの栽培では一般サイズは5㎝ほどですが、下画像の上段中央画像(18日撮影)に見られるように6㎝を越える株もあります。

Bulbophyllum cameronense Pen. Malaysia(マレー半島)
Bulbophyllum lobbii Pen. Malaysia Bulbophyllum lobbii Borneo Boneo_Sabah
Bulbophyllum claptonense Borneo Bulbophyllum claptonense Borneo_Kalimantan
Bulbophyllum sumatranum Sumatra Bulbophyllum bataanense Luzon Bulbophyllum siamense Sumatra

Vandaの植替えII

 先月から80株を越えるVandaの植替えを始めており、今後は殆どのVandaの栽培はベアールートのまま吊るす計画です。このため今回の植替えでは、これまで大半が木製バスケットに取り付けられていたことから、木片に活着した根を剥がさなければならず、バスケットの解体と共に根を含めると1.5mにもなる大株が多いこともあって、取り外しと葉1枚ごとの洗浄作業には当初想定した以上に時間がかかっています。
 下左画像は先月末に本ページに掲載した30株ほどのベアールート株を新たな栽培用に配置した様子です。画像下部に見られる緑色の床は人工芝を全面、ベンチ上に敷いたもので、床面に接触する根の先端部には適度にクリプトモスを散らしています。人工芝は散水した水滴がしばらく留まることから高湿度環境を生み出すために有効です。Vandaの背面にはBulb. unitubumDen. treubii及びDen. ellipsophyllumなどで、60㎝長杉板取付です。右横は90㎝長の杉板です。Vandaの取付配置が終了した後には自動噴霧器を設置します。一方、右画像は先月末の株とは異なる、木製バスケットから新たに取り外されたばかりの40株ほどの配置待ちのVandaで、やがて左画像のような吊り下げとなります。こうした作業は今月半ばまでと予想していましたが、末頃まで続きそうです。

30株程のVanda吊り下げ栽培風景(10日撮影) 新配置待機中の40株(10日撮影)

現在(10日)開花中の9種

  5月は多くのランで開花が見られます。その中から9種を選んで撮影しました。

Bulbophyllum kubahense Borneo Bulbophyllum championii NG Bulbophyllum lasioglossum Luzon
Bulbophyllum sannio PNG Dendrobium plicatile Luzon Dendrobium consanguineum Moluccas Is.
Dendrobium sororium Solomon Is. Dendrobium sp aff. flos-wanua Borneo Vanda dearei Borneo

現在(4日)開花中の22種

 先月末から今月4日に撮影の22種です。下画像のAerides inflexaは花色が赤紫のpurpurataフォームで、一般種は画像下の青色種名のリンク先にあるW. Suwarez氏から頂いた画像のフォームとなります。一方、フィリピン生息のBulb. aeoliumの開花画像は久々の掲載です。またBulb. lobbii giantは2023年9月の当ページに記載した70㎝x15㎝ヘゴ板に植替えしたもので、ドーサルセパルは8㎝、開花直後の左右のペタルが水平に伸びた時の横幅は13㎝を越えています。このサイズは一過性ではなく、一般種と異なる固有の特性でもあり、添名はgiantより植物慣用語であるgiganteumが好ましいのではと考えています。 現在1株当たり10輪ほどの同時開花となっていますが、花が大きいことからかなりの迫力です。
 Bulb. cornu-ovisは7年ぶりの開花となります。最新の支持材は杉板で中温室にての栽培です。種名 cornu(ツノ)とovis(羊)とされる奇怪な花形状はDen. spectabileに似て花の部位のそれぞれが一見すると分かり難く、これを機に本種ページを改めて16枚の画像に更新しました。本種は2011年に記録された新種で、今日においてもIOSPEを含め栽培情報が少なく、当初中―高温室にて栽培していたものの栽培環境の許容範囲が狭いためか徐々に株が弱体化していきました。入手から3度の植替えを含めた栽培経験を経て、どうにか栽培方法が分かってきたところです。
 Coelogyne pachystachyaは先月掲載した株と同じものですが30輪ほどが全開したため再度の撮影(3日)です。Coel. celebensisは通常、開花直後のリップ中央弁は橙色で、やがて赤褐色に変化していきます。しかし下画像種は開花時から黒に近い暗褐色のフォームで珍しいことから掲載しました。

Aerides inflexa Purpurata Luzon Bulbophyllum aeolium Luzon Bulbophyllum lobbii giant Pen. Malaysia
Bulbophyllum cornu-ovis Sumatra Bulbophyllum infundibuliforme NG Bulbophyllum quadricaudatum NG
Coelogyne pachystachya Thailand Coelogyne celebensis Sulawesi

   Den. pedicellatumも久々の登場です。一方、Den. sp aff. hercoglossumは、セパル・ペタルが短形で丸みがあり、一般種と比べ形状の相違からaffとしています。本種画像下のDen. hercoglossum albaと比較しても花被片形状は大きく異なることが分かります。
 Den. taurinumは先月掲載の花と同じものですが2株が同時開花していることから今回は2つを並べその違いを撮影してみました。本種について Cootes氏はその著書で、ランの中でも最も栽培難易度の高い種であり(種の保存から)野生種を栽培すべきではなく、フラスコからの実生株とすべきと述べています。当サイトの株はNegros生息の野生栽培株で、2017年3月及び2018年8月の歳月記に栽培に関しての詳細報告をしています。
  Den. macrophyllumOrchidRootsに見られるように、セパル・ペタルが共に黄味の強い萌黄色のフォームと、ペタルが白色の2つのカラーフォームが見られます。当サイトでは後者をデンドロビウムのページに掲載してきました。今回両方の色をもつ花が1本の花茎上に複数同時開花しており、当初は開花から落花までの色変化の一つではと考えていたのですが、色の異なる花の花軸の花茎上の位置は様々で開花時からの経過とは関係が無く、不思議な様態であることから撮影してみました。Paph. gigantifoliumは現在5輪同時開花が5株程に見られます。 

Dendrobium pedicellatum Sumatra Dendrobium tiongii Luzon Dendrobium sp aff. hercoglossum Indochine
Dendrobium taurinum Negros Is. Dendrobium hercoglossum alba Malaysia-Pahang
Dendrobium furcatum Sulawesi Dendrobium macrophyllum Luzon Dendrobium dianae bicolor Borneo
Dendrobium primulinum Vietnam Dendrobium laxiflorum Moluccas Dendrobium lineale blue NG
Paphiopedilum gigantifolium Sulawesi Paphiopedilum supardii Borneo Paphiopedilum stonei Borneo

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