栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2016年度

2017年 1月  2月  3月  4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

3月


胡蝶蘭2点 Phal. modestaPhal. pantherina flava

 Phal. modestaが開花期を迎えています。現在Phal. modestaを20株ほど在庫しており全てが野生栽培株です。実生と比較してかなり大きな葉に成長しています。また実生では5輪程の開花が精々ですが、野生株は大株になると10輪以上が普通で、今期は34輪を同時開花したSabahタイプの株もあります。それが下写真左です。本種は葉の下側に開花するためヘゴ板等の垂直板に取り付けるのが必須となります。写真の株の花は一般フォームと比較し赤味が強く、タネ親として昨年自家交配しており、その実生を2か月後にはフラスコ出しの予定です。

 一方、入手してから3年目となるPhal. pantherina fm flavaが開花しています。こちらも野生栽培株です。3年続けて自家交配をしているものの未だに胚のあるタネを得るには至っていません。Phal. amboinensis fm albaが7年目にしてやっとさく果を付け始めたこともあり、自家受粉の不和合性があるのかも知れません。気長にタネができるのを待つことになりそうです。


Phal. modesta Sabah

Phal. pantherina fm flava

Vanda denisoniana

 3月に入りVanda denisonianaが開花しています。本種は中国雲南省、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナムに生息し、低温から高温まで温度範囲が広く、その特徴は花色の変化と強いバニラの香りをもつことです。昨年は4月と9月に開花しており、国内では年2回の開花となります。入手して最初の昨年4月の開花では一部にクリーム色から徐々に橙色に変化して行く様態が見られましたが、今回の開花では開花時から花色はほとんど変化が無く、その違いが何によるものか不明です。大別して本種の花色は下写真に示す左の橙色と右の黄緑色、および昨年の歳月記に掲載したクリーム色で、同一株の同一花茎からやや淡い橙色と黄白色の異なる2色の花が同時に咲く株も見られます。下写真のそれぞれの株の花色は2週間経過しているものの変化がありません。これらは同一場所での栽培であり、温度や湿度にそうした色の変化が関係するとも考えにくく、これほど色合いの異なるVandaは他に見当たりません。面白いことにリップの色だけは花びらの色の変化に対して皆同じです。このリップの不変的フォームが、ハイブリッドではなく原種であることの証とも言えます。Vanda denisonianaは根を空中にさらすタイプで、バスケットに取り付ける栽培法が適しています。本サイトでは昨年来4,000円で販売してきましたが春からは3,500円を予定しています。

Vanda denisoniana

短命花の開花サイクル

 開花から2-3日で花を落とす短命花は、自分が栽培して楽しむには良いものの、ラン展など決められた日程の展示会に出品することができません。開花タイミングを合わせることはほとんど不可能なためです。その一つが前に取り上げたFlickingeria属であり、デンドロビウムにもDen. amboinenseは1日花です。その他Den. crumenatumは3日、希少種とされるDen. consanguineumは5日程です。一方でDen. laxiflorumDen. dearei Borneo formは2ヶ月ほど咲き続けます。

 この短命花であるDen. crumenatumDen. consanguineumが現在開花しています。驚いたのは両者共に前回の開花は今年の2月15日であり、今回の開花が3月30日です。僅かな花数であれば兎も角、Den. crumenatumに至っては百輪程の花を45日後に再び開花させられるものかと。大株が2株と普通サイズが1株ありますが、すべて同じタイミングで開花します。これらは別の花茎に開花したのではなく前回と同じ花茎に開花です。果たして3回目の開花はいつになるのか待つのが面白くなってきました。


Den. crumenatum.

Den. consanguineum

胡蝶蘭新種?

 1昨年4月に中国雲南省標高2,000m生息のPhal. honghenensis野生栽培株を50株ほど入手し、その中からこれまでのAphyllae節には見られない形状の花が咲きました。下写真がそれで、上段左が今回開花の花で、右が一般的なPhal. honghenensisです。現在これらは同時に開花期を迎えており、並べて撮影しました。まず全体サイズは変わりませんが、セパル・ペタルが右のPhal. honghenensisと比較して丸みがあり、またリップ中央弁が幅広です。しばしばAphyllae節のリップ外縁は下向きに湾曲しており、これが個体差で開き幅広に見えるのではとも思われますが、セパルやペタル形状が写真中段のように異なるとなると個体差の範囲を超えています。カルス形状を調べることでさらに詳細が分かると思います。しかしカルス撮影はリップを取り外さなければならず、写真が開花直後であるため2-3日後にそれを行う予定です。下段の葉や根の画像からは一般種との違いは観測できません。


Phal. honghenensis ?

Phal. honghenensis

「今月の開花種」を追加更新しました。


第57回蘭友会ラン展inサンシャインシティへの出店

 池袋サンシャインシティ文化会館での蘭友会主催のラン展が6月1日(木)から4日(日)まで開かれます。本サイトは1月のAJOSサンシャインラン展と同様にフィリピンPurificacion Orchidsと共に2ブーススペース内で共同出店することになりました。

 情報によるとマレーシアのOOI LENG SUNやNT Orchidも出店するそうです。海外から多くのラン園が参加されることを期待しています。1年以上前のこれらラン園の国内ラン展における価格は現地価格を知る者にとっては腹が立つほどの高額でした。しかし当サイトが本格的に国内マーケットに参入し彼らと話をする機会や、日本のアドバイザーからの情報により当サイトの価格を意識したと思われる低価格化への転換が図られつつあります。このことは本サイトがかねがね述べていた問題点に対する新しい方向性でもあり好ましい限りです。

 ランは高額なものであるが故に、それなりの人々にとっては趣味としての価値があるのだ、とする考えも一つですが、ラン栽培の楽しさを若い人たちに知ってもらうのもまた今後のラン愛好社会にとっては重要です。そのためには販売する側として解決しなければならない2つの課題があります。一つは誰にでも手軽に入手可能な低価格種の提供と、もう一つは栽培に関する正しい情報の発信です。

 価格については数万種あるランであるが故に、ワンコインで買うことができる種がある一方で、数十万円もする種もあり、また趣味家にとっては栽培に苦労して得た開花や増殖の喜びであったり、容易には入手できない高額な希少種を手に入れる満足感であったりと、人それぞれの目的は千差万別であって然るべきです。ランもまたそれらいずれも満足させることのできる多様性を持っています。10-15年前のランのバブル期を通し底上げされ高額化したランがそのまま今日まで続いてきた結果が若い趣味家人口の減少の原因のひとつであるとすれば、海外ラン園の国内向け価格が下がることは問題解決の大きな一歩と言えます。

 その一方でバブル期の夢を追うラン販売側からは価格の低下は経営の存続問題となります。どう差別化を図るかが問われます。本サイトで述べているように、2代目は積極的に生息国を中心に海外へ出かけ新しい情報を入手し、また現地ラン園との提携を図って国内趣味家の要望に応える体質が必要です。国内の海外仕入れを行っている2-3のラン園からのみランを入手し、ラン生息国にはほとんど足を向けない”花屋さん”ではこれから始まる低価格化によりやがて淘汰されるのは必然です。ネット社会である現在、非生息国である日本には単に右から左に販売するラン園が多すぎます。それでも敢えてこの数を維持したいのであれば先に述べたようにそれぞれのラン園には差別化への努力が必須です。

 先に戻りますが、海外ラン園が低価格化傾向にあることは本サイトとして新たにどう対抗するか面白い課題です。例えば葉幅の広い新種らしきCleisocentron株の価格を例にとれば、1月サンシャインラン展ではNT Orchidが8,000円、それを受け本サイトでは6,000円、そうしたところ東京ドームではOOI LENG SUNが5,000円としました。僅か2ヶ月間の価格変動です。その結果、来る6月のサンシャインラン展では本サイトは4,000円とする予定です。するとNT Orchidは3,000円とするかも知れません。さらにOOI LENG SUNは2,000円かな?となります。否、どちらの株が新根があり順化がより容易か、最後は品質の勝負となるか?いずれにしても趣味家からみれば願ってもない価格・品質競争時代への突入と映ると思います。良いことです。こうしたことができるのはまさにそのソース(仕入れ先とその価格)が同じで、それを互いに知っているからです。これはラン園それぞれが直接現地に出かけ、現地人と同等の条件で買付をしているからこそできる技です。

 一方、海外ラン園の日本での販売は外国での展示会という経費のハンディを負っています。しかし日本のラン園は逆に海外に出かける経費を使って仕入れていることになります。仕入れコストに関しては、仕入れ元(一次あるいは二次業者)の価格が同じである以上(実際同じです)、国内展示で海外ラン園が費やす経費も、国内ラン園が海外に出かけ仕入れる経費も結果としてほぼ同じと言えます。さらに全蘭も蘭友会もサンシャインラン展の出店料金は東京ドームラン展の1/3 - 1/5であり、この参加費は現地ラン展(例えばPutrajaya花祭)とほぼ同じです。その結果、本サイトが1年半ほど前に取り上げた海外ラン園が背負うコスト上のハンディはサンシャインラン展ではありません。見方によっては互いの販売環境はフェアーな競争の場になりつつあると言えます。一層、マーケットサーベイをそれぞれが行い品種、価格、品質の真剣勝負となるような予感がします。

 こうした中で 販売価格がバッティングする品種が多数ともなれば価格競争は激化し、いずれ採算性の問題が生じ一方は撤退も考えなければならなくなるかも知れません。これも問題です。それは国内の趣味家は出来るだけ多くの生息国である海外ラン園の参加に期待を寄せるからです。海外ラン園の方が国内ラン園以上に、より新しいあるいは珍しいランを持って来るに違いないという期待です。そうした期待を趣味家がもつことは世界同時性のネット情報時代においては本来、国内ラン園が怠慢である証ですが、残念なことにそれは実態でもあります。例えばマレーシアラン園が自国を含めインドネシアやタイの生息種を販売することと、日本のラン園が同じそれら国々のランを販売することとはそのソースの多くが同じである以上、同じ土俵の上での競争です。よって相互の採算性はそのラン園の体質の問題です。それが故に、海外のラン園にとっては他が持っていないものを扱う生息国ならではの差別化が必要となり、一方で日本のラン園は品質や栽培情報の提供に付加価値や差別化を図ることが求められます。現状では互いに低価格化傾向に対応し刺激しあいながらも、一般種は2-3年前の国内での半額程度、いわゆる国際標準価格程度に落着くことを目途として、しばらくは共存共栄が良いのかも知れません。

 6月までには新しいランが相当数入荷してきます。これらの品種の多くは海外ラン園も同じで、それぞれがそれなりの利益を考慮しながら価格を決めることになります。海外ラン園への挨拶として今回本サイトは初日前日に価格を公開することを考えています。その結果として初日にそれぞれの価格がどうなるか、販売側である本サイトとしてはおかしな話ではあるものの趣味家の楽しみと同じような気分です。6月のサンシャインラン展にご期待ください。

入荷予定の新Bulbophyllumなど

 4月中旬まで病院通いとなるためそれまでは海外訪問を控えなければならなくなりましたが、新しいランが入荷すれば、まとまったところでラン園の2代目に成田まで持ってきてもらうように依頼しています。そうしたところ4種程面白そうなランの画像が本日(24日)園主から送られてきました。下に画像を掲載します。入手できましたら2,500-3,500円で販売する予定です。現在購入の最も優先順位の高いランはパプアニューギニアからのデンドロビウムで、今年の最重要目標です。


Coelogyne longifolia

 Coelogyne longifoliaはスマトラやJava島の標高1,400m - 2,100mに生息する低温タイプのセロジネで3.5㎝程の花をつけます。リップが大きくへら形状が特徴です。半透明の赤茶色が一般的で、薄黄緑色フォームも見られます。下写真は昨年4月インドネシアサプライヤーから入手したもので、今月の開花です。2,500円(株サイズによる)での販売予定です。

Coelogyne longifolia

Dracula hirtzii

 Draculaの中では大型種となる南米エクアドルとコロンビア生息のDracula hirtziiが今月開花しました。ドーサルセパルからラテラルセパルの髭状先端までが20㎝以上あり、かなりの迫力です。

Dracula hirtzii

種名の不明なデンドロビウム

 昨年12月にマレーシアにて入手した20株程のDen. nabawanenseの内、葉形状が異なる株が2株含まれていました。下写真の下段右がDen. nabawanenseとされる葉で、左が不明種の葉です。明らかに右の披針形に対し、左は針形で葉形状が異なります。この不明種が今月開花しました。それが上段および中段です。上段右の写真でドーサルセパルからSpurの先端までの長さは3.0 - 3.2cmです。類似する種としてDen. kuhliiDen. roseipesなどのCalyptrochilus節やPedilonum節があり、これらに含まれる種を調べたのですがネットからは該当する種が見当たりません。Den. nabawanenseの束に含まれていたとすると、本種はボルネオ島のSabahあるいはSarawak生息種と考えられます。似た形状は幾つかの種に見られるのですが、葉形状を含めて比較するとそれぞれが異なり、現時点では種名が不明です。(後記:会員からDen. baeuerleniiの可能性ありとの情報を頂きました。orchidspecies.comによるとDen. baeuerleniiはボルネオ島ではなくニューギニア生息種のため、この点を調べる必要があります)。


サイトの更新

 16日より1週間、結石による胆管炎のため緊急入院しサイトの更新ができませんでした。間もなく手術ですが、それまで帰宅が許されたため、出荷待ちの作業を週末から来週にかけて行う予定です。しかし6日間点滴のみの完全絶食で、少しはお腹がへこむかと期待していたのですが、全く期待外れでナトリウムとミネラル養分だけの点滴でよく痩せもせず人は生きられるものだと驚いているところです。

取扱いの難しいラン:オオスズムシラン(Cryptostlis arachinites

 国際的に規定されたCITES AppendixIに属すランの輸出入は通常はできませんが、合法的な手続きに則っとれば輸出入や販売が可能です。一方、2016年2月に日本の環境省が定めた国内希少野生動植物である本種については複雑な取扱いが必要です。

 国内希少野生動植物に指定された動植物は捕獲、採取、譲渡が禁止されます。一方、Cryptostlis arachiitesは日本だけでなく台湾を始め東南アジアに広く生息し、マレーシアではAppendix IIとしてCITESと植物検疫認可が降り輸出が可能で、受け入れる日本側もCITES Appendix IIとして受入れができます。ではこの日本に輸入されたマレーシア産オオスズムシランは販売が可能かと言った疑問が生じます。環境省希少種保全推進室によれば、CITES Appendix IIと定めた種であれば輸入ができても、学名が同じであれば国内での販売はできないとのことです。

 では、業者が取得したCITESのコピーをそれぞれの株に添付し、それが国内種ではなく海外からの株であることを顧客に示せば販売可能かどうかですが、コピーであってもその種が必ずしもそのCITESの株であるかどうかの証明ができない限り販売はできないとのことです。この理由は国内生息種なのか海外生息種かの区別が実体として困難なためです。ここで興味のあることは、例えば同種であっても亜種として分類され、国内以外に生息する種であれば、問題は無いそうです。

 次に、輸入はできる訳ですから海外からのオオスズムシランを展示会等の展示用として出品は可能かとの点については、非売品であることを明記する、あるいは展示品であることが明らか(販売ブースではなく展示テーブル上のもの)な場合は展示は可能であるとのことです。ここまでは環境省希少種保全推進室との電話による問い合わせに対する回答となります。結論としては、趣味家がオオスズムシランを入手し栽培したいのであれば、直接個人が海外ラン園から購入すればよいことになります。これ以上の複雑な質問は難しすぎ担当者を困らせるのも問題なので止めましたが、以下のようなことも知りたいことです。

 例えば、販売業者が日本の顧客からオオスズムシランの注文を受けた場合、海外生息種となることを顧客に説明した上で、CITES申請者を業者とするのではなく、それぞれの顧客名で申請を行うように海外のラン園に発注します。いわゆる業者は個人輸入の仲介役の立場になる訳です。この結果オオスズムシランの所有者(顧客)は、所有者名のCITESおよび植物検疫書類(輸出入許可書)を持つことになります。しかし業者は仲介の立場ではあるもののラン園に支払うべき代金と手数料が発生する訳ですからその売買代金を国内で受け取り、株も国内で引き渡す以上、国内でオオスズムシランの売買に関係したことにはなります。しかしそうした関係であっても、ドキュメントの一つであるInvoiceの相手も業者ではなく顧客名ですから、書類上の売買は海外ラン園と顧客との直接取引であることは間違いありません。またその植物を誰が所有しようとも、その所有者の名前のある許可書を持っていることになりますから、間違いなく株は国内種ではなく海外生息種であることも証明できます。海外ではオオスズムシランが多数生息する状況にあっては、国内に於ける希少野生動植物を保護する本来の目的からはそれが国内生息種でない以上、上記の仲介業務には問題がないように思えます。

 CITES申請ドキュメントが高額ならばそれぞれの顧客の負担分が増え、また多くの顧客は直接海外ラン園に発注する手段が分かりません。そうであれば、こうした回りくどい方法は現実的ではありません。しかしラン園を通せば現地於けるCITES申請は同時に何人であっても表紙が異なるだけで処理は簡単です。それぞれの顧客がその他のランも同時に申請すれば種名(株数ではなく)当たりのドキュメント費用は500円程です。また成田税関では業者や個人が別人用の植物の輸入手続きをする場合、輸入税の問題がありますが、基本的に個人の購入量は僅かであるためこれも少額です。この業者による仲介取扱いに問題が無ければ、次のようなことが言えます。業者にとって不特定顧客には販売ができないが特定顧客には実質的な販売相当が可能であると。これを販売とするか仲介と見なすかの問題です。この特定顧客とは、予め注文をし海外から取寄せるための一定の時間が許容できる人です。

 本ページの問題提起は、特定の国なり地域なりで絶滅状態にある種を保全し、採取・譲渡を禁止することは当然です。一方、世の中にはそのような種であればある程入手し栽培したい人も出てきます。それらを非合法にではなく、もし同種が異なる国や地域に生息し輸出可能であれば、たとえ国内では売買できないものであっても合法的にそれらをどのようにすれば国内で入手できるのか、その手段の可能性を示したわけです。

 下写真は昨年5月に入荷した浜松温室でのCryptostlis arachiitesで、ビニールポットにミズゴケ植えで非常に丈夫に育っており胡蝶蘭温室内で今月には多数で花を開花しています。下段はマレーシアCITES書類のコピーで赤矢印が本種名です。ちなみにマレーシアキャメロンハイランドに生息するオオスズムシランは絶滅の危機にあるそうです。下写真の株はキャメロンハイランド産ではありません。画像のランは売り物ではありませんから、さらに付け加えるとマレーシアでの本種の価格は500円です。


ビカクシダ Platycerium

 花も咲かないレタスを半分に切ったような葉だけの植物のどこが良いのかと言っていたのがサンシャインラン展での引き取り株の一つになってしまいました。フィリピンのPurificacionでは大株のPlatycerium grandeを含む10種50株を出品し、その半分以上が販売できたそうです。さて残りを引き取ったはよいものの、これを浜松の温室のどこに置くかと思案してみてもすでに温室は満杯状態で空いているのは壁しかありません。そこでエクスパンドメタルを壁に立て下写真のように網目に吊るすことにしました。胡蝶蘭とデンドロビウムの2つの温室の西側の壁に、株は南向きとなるようにそれぞれを配置です。そうしたところ温室に持ってきた時点では、しな垂れて元気がなかった葉が1か月程で見る見るうちに張りが出て2ヶ月で一部の株に新しい巣葉(そうよう:盾状の葉)があらわれてきました(下写真)。浜松の温室は余程居心地が良いようです。

 さらにエアープラントに至っては90株を出品、40株程を引き取りです。Platycerium 同様にこちらもそれぞれがかなり高額(平均価格5,000円)の値札が付いており、GREXフォームとされる交配種は10種類ほどですが8,000円から10,000円です。この高額にも関わらずなぜこれほど人気があるのか不思議です。不思議な人気と言えばジュエルオーキッドも市場に余り流通していない種については同じです。それならばいっその事、ラン以外の植物についてはヨーロッパではラン以上に人気が高いにもかかわらず日本では市場性の極めて低いホヤ(さくらラン)は止めてビカクシダやエアープラントに切り替えようかと。幅広く扱うことはスペース上、無理なので人気種と極めて希少性の高い種のみを集めた販売も面白いのではないかと思い始めているところです。



 下写真はPurificacionのTagaytay農園での膨大な数のシダ類と、一万本もあろうエアープラント。


キャメロンハイランド国道脇露店のFlickingeria sp

 キャメロンハイランドでの道路脇の露店でFlickingeriaが吊り下げられており、どのような花が咲くのか、おそらくリップの先が髭もじゃのフォームではないかと思いつつ店主に幾らかと聞いたところ、確か10リンギッドとのことでした。吊り下げられて並ぶ株の大きさや種類とは無関係にほとんどのランは10リンギッド、すなわち270円と言うのです。予めFlickingeria spとしてCITES申請をしているのでそれではとそれを購入しました。その株が開花しました。リップはもじゃもじゃではなく、くしゃくしゃでした。しかしなかなかの美形でこれが2-3日の短命花であるとは惜しい限りです。再びポリネーターとの関係に思いを馳せるのですが、なぜ花粉を運ぶポリネータに僅か1両日の短い時間しか与えないのか、子孫を残したいのであればもっと咲き続けることの方が確かであるのに不思議でなりません。キャメロンハイランド道路わきの露店での余りに安い価格よりむしろそうした自然の摂理に興味が湧きます。熱帯地域にはそれぞれ異なる植物が同時に開花する現象があり、この背景として捕食者飽食(多くの実がなれば残り物が増え繁殖できる)、風散布(多くが同時に咲けば受粉率が上がる)、送粉(一般に自家受粉は不和合性があり、他家受粉が必要となれば、同時に2個体以上の花が咲かなければならない)が研究で知られています。しかし本種のように1両日で花を終わらせる理由にはなりません。


Dendrobium sp

 昨年12月マレーシアにて入手したデンドロビウムの名称不明種が開花しました。下写真がその花と株です。Calcarifera節と思われますが、リップに不規則な赤褐色の斑点と側弁内側には同色が全面に入ります。現地コレクターからの画像は昨年の歳月記12月のDendrobium spに掲載しましたが、黄味の強い色合いでした。下写真は開花日の撮影のため、日を追って黄味が増す可能性があります。画像検索では今のところ該当種が見当たりません。開花サイズは横幅3.5㎝で、一つの花茎に3輪が開花します。夜間はドーサルセパルが下がり花がやや閉じる様態が見られます。3,000円の販売予定です。

Dendrobium sp from Sumatra

Dendrobium gerlandianum

 サンシャインラン展の引き取り株の一つです。Den. junceum名のラベルがついていました。一般に本種は淡い黄緑色かクリーム色ですが今回開花した株は全て緑色の強いフォームです。何故かJ. Cootes氏の著書2001年のThe Orchids of the Philippinesには写真があるそうですが、2009年発行のPhilippine Native Orchid Speciesには本種が記載されていません。生息地はフィリピン固有種とされます。本サイトでは会津の知人から譲渡されたデンドロビウムの一つとしてこれまで2,500円でカタログに記載しています。サンシャインラン展では1株が6バルブから12バルブからなる大きな株で2,000円で販売することにしたため、本サイトも同じ価格で販売予定です。下写真は8バルブの株と花です。ポットは12㎝(素焼き4号相当)径であり株の大きさが分かるかと思います。丈夫な株であり知人と4バルブづつ2株に株分けすれば1株1,000円相当となります。

Dendrobium gerlandianum

Dendrobium tobaenseのヘゴ板栽培

 昨年マレーシアのラン園にベアールートで入荷するDen. tobaenseに、直径5㎝程の枝から取り剥がしたような円筒形に湾曲した根が多く見られ、それまでの枝に活着した生息状況が分かり、ポット植えからヘゴ板に植え付ける栽培法を一部に実施し生育経過を観察することにしました。Formsae節には栽培が容易な種もあるものの概して育成は難しく、特に中温から低温タイプ種は1年間程は問題なく維持できるのですが年を越し新しい根や芽が新春になっても現れず、やがて徐々に株が小さくなっていしまうことがしばしばです。

 本サイトではDen. tobaense, ayubii, igneo-niveum, valmayorae, toppiorumなどの中温から低温タイプに対しては植え込み材とポット(素焼き、プラスチック、バスケット、ヘゴ板など)を多様に組み合わせた栽培を現在検証中です。これまで例えばDen. tobaenseは素焼き鉢にミズゴケ単体の構成では問題が多く、クリプトモスを混合することで、こうした問題に対処しこの結果の報告は昨年の歳月記7-9月ページに掲載しました。

 一方、ある程度問題が解決できれば、すぐに次の課題も生まれてきます。すなわちミズゴケとクリプトモスからなるコンポストの寿命です。栽培では1年毎の交換が好ましく、この早期植え替えは趣味家が1-2株を栽培するには問題がないにしても、それぞれが多数ともなると、その植え替えは毎年相当の労働力が必要となります。そこで経年変化の少ないコンポストでの対応が求められます。ヘゴ板はこの点で有利で、少なくとも3年程は植え替えなく栽培ができます。十分な湿度あるいはかん水が可能であればヘゴ板への取り付けはより有望な栽培方法と言えます。下写真は現在検証中のヘゴ板に取り付けたDen. tobahenseの新芽発生状況を示すものです。

 新たに現在、こうしたFormosae節では、植え替えの利便性だけでなくコストも課題とし、コルクチップにバークの2:1比率配合とプラスチック鉢との組み合わせを20株ほどで検証をしています。このコンポストであれば3年以上は耐久性があります。バスケットを用いた、コンポストの複合配置の植え込みも検証中です。こうした結果の報告は1年経過を見て報告する予定です。究極には耐久性、コスト、スペース、管理の容易性のすべてに対応するコンポストとポットとの組み合わせを見出すことにあります。

ヘゴ板取り付けのDen. tobaenseの新芽 (3月10日温室にて撮影)

3月中旬現在開花中の株に見られる同一種のフォーム違い

  1. Dendrobium ovipostoriferum
    リップの色は橙色が一般的(写真P1左)です。右は黄色でこれまでの経験では1株のみ一般種に混在しての入荷です。
  2. Dendrobium leoporinum
    丸みのあるリップ形状およびペタルにカールのあるフォーム(写真P2左)が一般的なニューギニア産ですが、右のモルッカ諸島Halmahera島Jailolo生息種のリップは3角形でペタルは短く、カールはほとんどありません。後者は1昨年入荷で、その後の本地域からの入荷は見られません。現在販売中です。
  3. Dendrobium sp
    先月の歳月記に記載した小型の赤い花をもつデンドロビウムで多くは赤色(写真P3左)ですが、右写真の黄土色に赤い斑点のあるフォームは現在1株のみです。
  4. Bulbophyllum contortisepalum
    一般種は黄色のセパルがカール(写真P4左)していますが、右はダークレッドで先端に向かって白く変化しています。この赤フォームは市場に稀に流通しています。本サイトでも販売中です。
P2 Dendrobium leoporinum
P3 Dendrobium sp
P4 Bulbophyllum contortisepalum

「今月の開花種」を更新しました。

栽培が最も困難な原種の一つDendrobium taurinum

 バルボフィラム属の次に多くの種を含むデンドロビウム属の中で、栽培が最も困難は種はどれかと問われればSpatulata節のDen. taurinumがその一つに挙げられます。下写真がその花で、形状が何となく牛の顔に似ているとされています。そう言われてみればそうかなとは思いますが、青紫のなかなか綺麗な花です。Den. taurinumはフィリピン固有種でルソン島からミンダナオ島まで広く生息しています。しかし野生株の栽培は十中八九失敗に終わるか大きな作落ちに見舞われます。この栽培とは特に移植や環境の移動(変化)を意味します。フィリピンから入荷した株の歩留まり率は、一般的な植え付け方法の場合、1割以下を覚悟しなければなりません。言い換えれば10株の内、順化成功率は精々1株です。細菌性の病気にバルブの根元および頂芽が襲われます。


Den. taurinum

 J. Cootes氏は本種について著書で以下のようなコメントをしています。

" Dendrobium taurinum is notoriously difficult to cultivate if the plant is wild collected and it will seldom prosper, even in its native habitat. If Dedrobium tauriumu is going to be grown, it should be tried from plants grown from seed, in flask." ”野生株は栽培が難しく、生息域においてさえ成長が困難な種である。もしこれを育てたいのであればタネからフラスコ培養した実生にすべきである”

 そういわれると意地でも野生株を栽培してみたいと思う天邪鬼な趣味家がいるかも知れませんので、歩留まりを上げる方法を記載します。通常フィリピンからはベアールートで入荷します。それがどれほど元気そうな株であっても、まずフラスコ出しの苗と同様にバリダシンとタチガレエースの規定希釈の混合液に30分ほど含浸し、取り出したのち自然乾燥させ乾いたら直ちに植え付けを行います。国内で鉢植えのものを入手する場合は株を鉢から取り出し根が回っているかを確認し十分新しい根があれば、後述の薬品処理だけで良いと思います。 植え込み材が極めて重要で、例えば素焼き鉢にミズゴケの植え付けでは細菌性の病気の発生は時間の問題です。本サイトでは昨年からはコルクチップに大粒バーク(ネオソフロンなど)を2:1の比率でスリット入りプラスチック深鉢に植え付けています。軽石を僅かに加えることもあります。クリプトモス100%も良いのですが、前記植え込み材が若干勝ります。すなわち気相を大きくします。その後、カビ系(ダコニール、ベルクートなど)と細菌系(マイシン、ナレートなど)の規定希釈の混合薬品を2週間間隔で2回与えます。その後は通常の栽培となります。植え付けから1か月が肝心です。ここまではフラスコ出し苗とほぼ同じ処理です。栽培中は乾燥しがちなコンポストですが乾燥を嫌うので、かん水はしっかり行わないといけません。このような病害防除の対応と、移植時期を春とすることで8割以上の歩留まり率となります。こうした手段がとれない趣味家は本種野生株の栽培はJ. Cootes氏が述べているように避け、実生株を育てた方がよいと思います。但し実生株ならば移植に強いという訳ではなく性質は同じです。意味するところは自然保護の点からの推奨です。

 不思議なことに一旦根や芽が新たに出てくると、環境を変えない限りその後の栽培は容易で通常の高温系スパチュラータと同じで良く育ちます。なぜこれほど移植を嫌うのか分かりませんが、根周りの環境の極端な変化に弱いのでしょう。下写真は現在浜松で新芽成長中の本種でNegros島生息の野生栽培株です。本種だけは国内で半年以上栽培し新根が回った株でなければ出荷が困難です。

Den. taurinum

Bulbophyllum williamsii変種あるいは新種?

 昨年夏にフィリピンにて入手したラベル名Bulb. williamsiiの株が今月に入り開花しました。下写真上段の左右がそれです。しかしこれまでの下段に見られるBulb. williamsiiとはセパルのサイズが1/2程で、形状も似て非なるフォームです。本種名でネット画像検索すると、Bulb. williamsiiにはセパルが長いフォームと短いフォームの株が見られます。それらは地域差なのか、それにしても上段と下段の株が果たして同じ種と言えるのか、では別種としても、ネットからはフィリピンに生息する該当種が今のところ見当たらず新種かも知れません。この種の実生は聞いたことがなく、自然交配種の可能性もありますが現状これ以上のことは不明です。


Dendrobium amethystoglossum

 会津の知人から譲渡されたフィリピン固有種のDen. amethystoglossumは日本に来てから8年が経ち、現在では1mを超える20本以上の疑似バルブがクラスターを成しています。今月は本種の開花期で例年のように多くの花をつけ始めました。J. cootes氏の著書によると、一つの花茎に20輪の花を付けるとありますが、浜松温室では30輪以上が開花しています。これがバルブ当たり3-4本の花茎を付けるため一斉に開花すると株は花で溢れます。下写真はそれぞれ現在浜松での本種の様子です。

 orchidspecies.comによると、本種は石灰岩質の岩性とされています。一方、J. Cootes氏の著書ではMindoro島では着生で、高輝度な場所に生息しているとのことです。おそらく着生および岩性いずれの環境にも生息する種であろうと思われます。本サイトではこのクラスター株は着生ランとして大型バスケット植えで栽培しています。サンシャインラン展で引き取った株はクリプトモズとスリット入りプラスチック深鉢に植え付けています。こちらも多くの蕾を付け始めています。面白いことは、今月訪問したフィリピンのPOSラン展でも本種が数店舗で売られそれらの株は全て蕾を付けていました。開花時期は浜松と同じようです。標高1,000-1,300mとされていますので中温タイプです。

Den. amethystoglossum

 下写真はサンシャインラン展で引き取ったDen. amethystoglossumで7日撮影です。1株が5-6バルブの大きな株にそれぞれが花芽を付けています。右写真は左の株の一つで6バルブからなり7つの花序があります。ラン展では1株3,000円で販売していたので2,500円での販売です。

Den. amethystoglossum

寒冷期のランの発送

 サンシャインラン展で注文を頂いたPhal. lueddemannianaをラン展後に筑波に発送したのですが、到着した時点で落葉する症状がでました。1月中旬の発送当時の筑波は零下のかなり冷え込みが厳しい日で、濡れている植え込み材が零下に晒されたことが原因と考えられます。このため1月から夜間最低気温が1-2℃以下の地域には、特に高温タイプの多い胡蝶蘭は発送を控えることにしました。桜が咲く夜間温度が5℃、昼間温度が15℃以上ともなれば安心して搬送ができます。春一番が終わって3月に入り東京や千葉あたりまでがようやく発送ができるようになったところです。日本海側、東北および北海道は3月末頃を予定しています。

Bulbophyllum sp

 昨年12月マレーシアにて入手したBulb. spの一つが開花しました。昨年12月の本ページにBulb. uniflorumに似た spとして取り上げた種が下写真に示す現在浜松で開花中の株です。Bulb. uniflorumと異なる点は花茎の長さが、Bulb. uniflorumは10㎝以上となるのに対し本種は上および下段右写真にようにバルブの付け根からの花茎は短く、一方、Bulb. aeoliumと形状的に類似する点もありますが本種は1,2輪と少ない点で異なります。節はBulb. uniflorumaeoliumと同じBeccarianaグループと思われます。

 ドーサルセパル4.0㎝、ペタル3.0cm、ラテラルセパル3.8㎝で縦・横幅それぞれ6㎝と4.6㎝。Bulb. uniflorum(3.5㎝)やBulb. aeolium(4㎝)と比べ花が大きなことも特徴です。


フィリピン訪問

 2月27日より会員2名と現地合流1名の3名でPOS主催のラン展に合わせてフィリピンを訪問しました。例の日本人による7回ものメガネザルや亀の違法輸入によって昨年からフィリピンでの植物輸出検疫のプロセスが変わったことは本ページでも取り上げてきました。これを考慮し今回は土日を避けた訪問日程を組んだにもかかわらず承認の遅れが発生し、会員の方々のランは2日後の入手、また本サイトは今月末にもう一度フィリピンへ訪問となりました。手ぶらで帰国するのは1昨年夏以来です。全く迷惑千万の違反をしてくれたものです。

 今回の訪問ではPalawanおよびミンダナオ島Bukidnonから合わせて19種のspおよび新種と思われるバルボフィラムがラン園に入荷しました。また今月末の再訪問までに3種類のミンダナオ島生息のデンドロビウムが入荷できることも決まりました。19種のバルボフィラムの中には2回ミスラベルが続いたフィリピン固有種のBulb. giganteumが入っており、果たして今回が3度目の正直となるかどうかです。訪問記の詳細は追って本サイトに取り上げる予定です。
 

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