栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2016年度

2017年 1月  2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

4月


Phalaenopsis cochlearis

 Phal. cochlearisはボルネオ島サラワク州の生息種で胡蝶蘭原種の中で自然生息数の最も少ない種とされます。2002年発刊の千葉雅亮氏の著書「胡蝶蘭の原種」にも絶滅状態にある希少種と記載され1990年代には既に入手難となっていたようです。これまでの20回程のマレーシアラン園訪問において野生株を見たのは4回程しかなく、いずれも2-3株の入荷でこれらは全て入手しましたがその半数がPhal. fuscataのミスラベルでした。花の無い株では葉形状が酷似しており本種とPhal. fuscataとの視覚的な識別は困難です。現在市場に流通する株は実生ですが、その中にはハイブリッドフォームがしばしば見られます。

 また野生栽培株はかなり高額のため入手には注意が必要で、実生を自然環境の中で栽培したものを野生栽培株と謳っている場合と、前記したようにPhal. fuscataの可能性があり、花確認済みであることの保証とサプライヤー情報があることが重要です。下画像は現在浜松温室にて開花中のPhal. cochlearis野生栽培株で、現在4株を所有しており自家交配フラスコ苗を培養中です。


Phal. cochlearis

ラン以外のフィリピンでの買い物

 3月のPOS Orchid Showの、あるブースで手のひらよりもかなり大きな花びらと、まるで人の胃袋のような形状の袋を付けた花を見つけ、余りのインパクトに衝動買いをしてしまいました。かなり高価でVanda sanderiana並の価格でした。帰国後調べたところAristolochia giganteaではないかと思われます。フィリピン生息種と思っていましたがブラジルとのことです。おそらくラン趣味家の方もランではありませんが、この花の実物を目のあたりにすれば1株は欲しくなるのではと再注文し今月数株仕入れてきました。

Aristolochia gigantea

 また4年前の夏のPOS Orchid Showで、こちらもあるブースで大きなブルーの花をつけたトケイソウを見つけ、その色が印象的で写真に収めていたのですが、今月のフィリピン訪問で入手したくなり10株を訪問前に注文しました。ネットで種名を調べたところPassiflora coerulea ’Purple Rain’だそうです。これも希望者に販売をする予定です。

Passiflora corulea

  昨年8月の訪問でヒスイカズラ2株を入手し浜松の温室で栽培しています。1mほどであった株が現在は3mを越えています。今回このヒスイカズラを10株仕入れてきました。ヒスイカズラ(Strongylodon macrobotrys)はフィリピン固有種として良く知られており説明の必要はないと思いますが、広い温室が無くては栽培困難な種です。この蔓系植物は一般的には挿し木で増殖をするそうです。今回仕入れた株は野生株からのpropagated株とのことです。すなわち野生株の一部を切り取って挿し木で成長させた株ということです。であれば野生株そのもので、山採り株と同じではないかと心配したのですが、そのためフィリピンDENR(Department of Environment and Natural Resources)の輸出許可証が必要になり予め申請してもらいました。ランでは特にクール系の青や赤色は、実生やメリクロンになると野生株のもつ本来の色に対し褪せた色になるとよく言われますがカズラではどうなるか分かりません。しかし今回の入手した株は野生種そのものと言えますので、本来野生種のもつヒスイ色を期待しています。下画像は今回本サイト宛に発行されたDENR輸出許可証です。この株も販売予定です。


Dendrobium roslii

 先日本ページでDen. roslii名の実生がDen. crocatumであったことを取り上げました。フィリピンから帰国し、それら苗に水撒きをしていたところ薄緑色の花が数株開花しており、何とそれらはDen. rosliiでした。それではこれら実生はDen. rosliiDen. crocatumとのハイブリッドではないかと花フォームを調べたのですが、一方に一方の特徴が混じっているフォームが見当たりません。とするとタネ、フラスコ植え付け、あるいはフラスコ出し苗植え付け中の段階での作業ミスである可能性が高まりました。こうしたミスは販売する側からはきわめて厄介で、花を見るまでは販売ができないことになります。Den. rosliiは初めて実物を見たのですが、ペタル先端とリップ中央弁全体が毛むじゃらの個性ある花で、この細毛がポリネータ-に留まり易くしているのか不思議です。下写真が今回開花していた花です。Den. rosliiは2010年登録の新種で、ネットで見るとほとんどの画像でセパル・ペタルは黄味が強いのですが、開花時は下写真のように薄緑(上段)で、1週間程で薄黄色に変化(下段)していきます。

Den. roslii

Bulbophyllum giganteum

 Bulb. giganteumはフィリピンの固有種で2011年W. Suarez氏によりMalesian Orchid Journalで取り上げられ、それまではBulb. levanae var. giganteumという名称とされていました。Bulb. levanaeとはラテラルセパルの形状が異なるようです。国内にBulb. phalaenopsisBulb. giganteumとしているサイトがありますがこれは誤りです。

 そのBulb. giganteum名の株を4年前と3年前、フィリピンにて2度入手したものの1回目はBulb. nymphoplitanum、2回目はBulb. trigonosepalumのミスラベルでした。これらの種とは株形状が酷似しており、花の無い株からは視覚的な区別が困難であることがその原因と考えられます。J. Cootes氏は著書でarchipelago地域では最大の花をつけるバルボフィラムで、コレクションに値する種としています。その後もフィリピン訪問毎に本種を求めていたのですが今日まで1株も得ることが出来ませんでした。

 3月の訪問でも本種を最優先の入手希望種に挙げていたところ、驚いたことに2年ぶりにBulb. giganteumのラベルの付いた株が20株ほど用意されており、持ち帰りが1か月半程遅れたものの本物かどうか半信半疑のまま今回この株を持ち帰ることができました。そこで帰国後、本種についてさらに前記したミスラベル種との相違点が花以外にないものかと資料を調べていたところ、葉長がミスラベル種は15㎝から最大で25㎝とされる一方、本種は最大35㎝となっていました。そこで過去に入手した30株程のミスラベル在庫品および近縁種を調べたところ、それらは長くて25㎝止まりで30㎝を超えるものはありません。今回入手した株が下写真です。成長した葉の長さはほとんどの株で30cmを越えており果たして3度目の正直となるか、やっと本物のBulb. giganteumの花を見ることが出来そうです。右写真は植え付け後の株です。


フィリピン訪問

 25日までフィリピンを訪問していました。3月に会員の方と伴に出かけた時に入手した株と、今回新たに入荷した株合わせて530株程を3箱に分けてを持ち帰りました。その中でバルボフィラムは28種が不明種で、デンドロビウムは4種程を含みます。これから2週間を目途に植え付け作業に入ります。入手ルートや品種情報を掲載したいのですが、「ニューギニアからのラン」で記載したような観点から、現地園主とも相談しマレーシア同様にフィリピンも同じく種名、生息地また花画像等に関するネット情報の掲載は、栽培状況など一部を除き、6月1日からのサンシャインラン展直前まで控え、それまでは温室訪問の方のみの公開としました。

Bulbophyllum sulawesii

 昨年、Bulb. sulawesii white タイプとしてその2年前に入手した株が開花し、調べたところBulb. novaciaeであることが分かりました。一見形状はBulb. sulawesiiと 似ており、また花色は全体がaureaタイプの様であったためそうした表現になったものと理解しました。Bulb. novaciaeは希少種でもあり、まあそれでも良いかと園主にはミスラベルの報告だけて済ませました。5株入手し3株はすでに同じ花フォームを確認しており、今月ようやく未開花であった1株が開花しました。ところがwhiteではないものの本物のBulb. sulawesiiでした。リップ先端の細毛が特徴です。しかし実物の花の大きさには驚きました。下写真が今回の花です。縦幅20㎝はあります。こちらもまあこれでも良いかと。

 台湾産の胡蝶蘭原種実生のハイブリッドとインドネシア・サプライヤーのミスラベルの多さは頭痛のタネです。過去3年程の損失は膨大で、台湾やタイの胡蝶蘭原種実生は昨年からは基本的に買わないことを決め価格表も改訂したことを本サイトで述べました。一方、それではインドネシアからのランはどうするか、こちらは簡単ではありません。いわゆる詐欺まがいのミスラベルは論外ですが、ミスは特に未開花の野生栽培株では避けられません。問題はその頻度がどれだけかによります。特に希少種や新種は3つに一つでも本物であれば良い位の覚悟を決めなくては何も手に入らなくなる世界です。ミスラベルによる返金や交換を避けるには開花を確認するまで売らなければよいのではないかとも考えられます。しかし一方でspとか新種は何が咲くか分からないから楽しみもあるのだとリスクを承知で開花前の先行買いを希望される方の思惑もあり、それはそれで簡単ではありません。

  本物の希少種や新種が含まれるかもしれない、しかしそうでないリスクも高いと言った中では、株の価格を1とすると、花を確認したものは前記した3株に1株の割合とすれば3倍の価格となります。それでなければ販売する側では採算が取れません。そのリスクを含んだ価格が2,000-3,000円である場合と、確かな株の価格が6,000-9,000円となる場合、どちらを取るかが買う側の問題となります。リスクを含みつつもそれが1万円以上もするのであれば別ですが、もし2,000-3,000円であれば、間違ってもランはランとして多くの趣味家の方たちはリスク側を選ぶのが普通です。それは現地サプライヤーから仕入れる側も同じ心境であって、はっきりしたものよりアバウトなものの方が遥かに安いのです。もう一つのリスクを選ぶ差し迫った理由は仕入れ側にとっても趣味家側にとっても、花が確認されたころには珍しいものであればある程、すでに売り切れている可能性の方が高いからです。しかしいずれにせよ互いに消化不良を起こしそうな問題です。

 ニューギニア高地バルボフィラムやデンドロビウムは名称が確かな種以上に不明種の方が多く、一応サプライヤーからは予め花写真は送られてくるのですがその写真がまず当てになりません。少しづつ改善されてきていますがこうした状況もあり、また花確認までは価格も決められないものもあり極力販売しない方針とはしているのですが、その結果名称不明種の数が相当数に上り、クール温室は不明種だらけになりつつあります。

 いずれにせよ、 こうした世界においてより期待通りの種を得る確率を高めるには国内に居て海外とのメールや電話による取引は難しく、face to faceで現地サプライヤーやラン園主と直に接し互いの信頼感をつくり上げていく以外ないように思います。それはビジネス感覚の余りない人たちとの海外取引の、目に見えないノウハウのようなものかも知れません。


Bulb. sulawesii

Dendrobium crocatum

 温室で水撒きをしていたところ、昨年Den. rosliiiとして20株程入手した実生株にこれまで見たことのないDen. rosliiとは異なる橙色の花が咲いるのが分かりました。野生栽培株のミスラベルはしばしば起こり得ますが、マレーシアラン園にてフラスコ苗から取り出された後、ポットに植えつけられた300株程の整然と並ぶ苗のミスラベルは、管理ミスの何ものでもないであろうとマレーシア園主にクレームを出しました。

 取り敢えずこの橙色の花の正体は何かと調べたところDendrobium crocatumのようです。現在4株程でそれぞれが1-3輪の蕾を付けています。多輪花性のようです。わざわざ実生化を図る以上、それなりの市場性があるのかどうかと国内マーケットをネットで調べたところ、1社のみですが4,000-7,000円の販売情報がありました。しかし国内流通は少ないようです。マレー半島およびタイ生息種とされます。本サイトではこのデンドロビウムの実生は今年から価格表でBSサイズとなったため2,000円としており、昨年までは温室訪問者のみに1,500円で販売しました。フラスコ苗から纏まって栽培している実生のためこのマレーシアラン園内のどこかに本物のDen. rosliiiがある筈で、見つかれば近々マレーシア訪問時に持ち帰る予定です。交換を希望される方はしばらくお待ちください。

Den. crocatum

Phalaenopsis bastianiiの個体差

 浜松では4月から5月が胡蝶蘭原種の多くが開花する月です。下写真は現在開花中のPhal. bastianii4点を選んだものです。Phal. bastianiiはステンドガラスのような光沢のある色合いを持ち、大株になると20輪程が同時開花します。中でも下段右のソリッドタイプは数千株に1株の割合の出現率と思われます。こうしたフォームは現地ラン園のベンチの上に数百置かれた株から見つけ出す以外なく、過去15年ほどの間で3株しか見ていません。全て入手しましたが、現在は実生化を進めています。しかし、こうした特異なフォームは1株もつことは珍しく良いかも知れませんが、上段右のようなフォームが花の美しさの点では優るように思います。


ベース色: white-yellow

ベース色: yellow

ベース色: white

solid red フォーム
Phal. bastianii

Phalaenopsis inscriptiosinensisの個体差

 胡蝶蘭原種のなかで最も長い名前を持つPhal. inscriptiosinensisの開花が3月から今月にかけて続いています。複数の株で同時に開花しているため個体差を見る上での1年に1回の時期となっています。セパル・ペタルのベース色や形状また赤い斑点等にそれぞれの個体差を持つ4種の花を下写真に取り上げてみました。

Phal. inscriptiosinensis

Phalaenopsis corningiana blue lip

 Phal. corningianaが開花期を迎えています。本種はボルネオ島固有種で、過ってはPhal. sumatranaと間違えられたこともあるそうです。E.A. Christenson氏のPhalaenopsis A Monographよると栽培は稀とのことです。花のフォームは多様で詳細については本サイトの下記のページを参照下さい。

 http://www.cyberwildorchid.com/products/phalaenopsis/info/info_corningiana/index.html

 比較的香りの強い種で、同氏の著書には昔のリボンキャンディーの匂いがすると書かれています。しかしアメリカ製の昔の飴を味わった経験がないのでその例えは不明です。スパイシーで人により好き嫌いのある香りと思います。花フォームと同じように多様な香りを持つとも言われ、その匂いの違いによってポリネータを選別している可能性があるとされます。花は白色あるいは薄黄緑色をベースに朱色の線状ドットからソリッドまであり、赤色の占める割合が多いフォームが人気が高いようです。

 4年ほど前にマレーシアにて、リップ中央弁の色が通常では明るい赤紫(下写真左)であるのに対して赤成分が抜け青色となった変種(下写真右)を5株ほど入手しました。この株の販売は2-3株したように記憶しています。その後、果たしてこの青色は不変的なものかどうかを確認するため販売を止めました。これまででは開花毎の色変化はなく青色が固定しているため今年は自家交配を行う予定です。入手してからマレーシアラン園には追加注文をしているのですが、今だ入荷が無いところをみると4年前は偶然の入手チャンスであったのかも知れません。

Phal. corningiana

Phalaenopsis javanica

 Phal. javanicaはインドネシアJava島西部Cianjur地区で1975年発見されました。しかしその後、インドネシアラン輸出業者による乱獲でこの地区のPhal. javanicaは絶滅したと言われています。、現在マーケットにある本種は大半が実生で、その多様なカラーフォームは何代にも渡る交配の結果です。一方、マレーシアラン園によると5年ほど前に、新たにJava島北部で本種が発見され、現在野生栽培株として入荷する種はこの地域の生息株とのことです。この地域からの株はセパル・ペタルのベース色が西部の薄黄色に対し、乳白色が多いように感じます。

 下写真は上段左のCianjur産を除いて全てJava北部生息種とされる野生栽培株です。Phal. javanicaは多くが微香で晴れた午前中の数時間のみ香りを出します。こうした時間限定の芳香特性はしばしば他のランにも共通し、ポリネーターの生態関係から生まれた特性と思われます。その中で上段左の株は強い香りをもち、香水に匹敵する良い香りを放ちます。これが幻の香りとならないように本サイトでは1昨年自家交配を行いました。この株は15年ほど前にアメリカのコレクターから入手したものです。マーケットに実生が氾濫する種について信頼性の高い野生栽培種を求めるには著名な原種コレクターからの入手が必要です。過っては故Sian Lim氏らがいました。


 本サイトでは明らかに野生栽培株であるものを除き、通常4-5回の開花でフォームの再現性を確認した後、自家交配による実生化を行っています。特にalbaフォームにつぃては数回の開花を見て、固定フォームであることの確認が必要で、しばしば白色ではない薄い黄色や斑点など以前の開花と異なるフォームが出ることがあります。

 現在実生化を図り、すでにフラスコから取り出した苗は旧生息地の株とalbaフォームです。下写真が取り出し直後のそれら苗です。左苗が上記写真の下段右のalbaフォーム、右が旧生息地をそれぞれ親とする株です。albaフォームは昨年5月にフラスコ出しを行っており、今年末にはNBSとして販売が可能となります。2,500円程を予定しています。旧生息地タイプはかなり希少性が高いため出荷は来年になりますが価格は未定です。また今年は下段中央の黄色のflavaフォームを自家交配する予定です。
 
albaフォームPhal. javanica実生苗

旧生息地Phal. javanica実生苗

猿顔らしいDracula

 本サイトでいつも紹介する南米のDraculaは猿面と呼ばれながらも、このところ、余り似ていない花ばかりなので、現在浜松で多数開花しているDraculaのなかで猿顔らしい画像を一つ紹介します。Dracula amaliaeです。南米コロンビア標高1,800-1,900mの生息とされます。orchidspecies.comの写真よりはイケメンです。Dracula属は70種ほどを在庫していますがまだカタログは未整備です。購入ご希望の方はお問い合わせください。


Dracula amaliae

Coelogyne celebensis

 Coel. celebensisCoel. multifloraを共に1昨年12月に入手しました。現在浜松ではCoel. celebensisが開花期を迎えています。スリット入りプラスチック深鉢にクリトプトモスでの植え込みです。植え込み材としてはさらに気相のとれるバスケットやコルクチップとバークの組み合わせの方が良いかも知れません。

 ライトオレンジの蕊柱と黒に近い焦茶のリップカラーのコントラストが印象的な大輪の花にもかかわらず余り引き合いの無い本種について不思議に思い調べてみました。セロジネで1輪の花サイズが本種のように10㎝を超える他種があるのか、大きな花の咲くセロジネと言えばCoel. cristataが10㎝近く、他のCoel. usitanaは7㎝で、昨年5月の歳月記では異例なサイズとして12㎝を超えるCoel. xyrekesを紹介しましたが、一般サイズは7㎝です。それに対しCoel. celebensisは10㎝が標準で、下写真に示す現在開花中の花(上段左)は11㎝です。おそらくセロジネの中では最も花が大きい種の一つと思われます。また本種はCoel. speciosa系のセロジネでしばしば見られる開花から落花するまでの間にリップカラーが変化し、下写真上段の左右が示すように黒色から赤橙色へ大きく変化します。

 このような迫力のある花をもつセロジネでありながら国内マーケット情報がほとんどなく本種名の検索ではPhal. celebensisがヒットする有様です。スラウェシ島の海抜0から1,000mに生息し、花茎は下写真右に示すように立ち性で下垂系花序種と異なってポット植えでベンチに置いて栽培ができこの点でもCoel. usitanaより小さく収まります。なぜ国内取引が少ないのかやはり謎です。本サイトでは野生栽培株のFSサイズを3,000円とし、6月サンシャインラン展に5株ほど出品販売します。

Coel. celebensis

胡蝶蘭原種のカタログ更新

  本サイトでは胡蝶蘭実生株は1,500-2,000円に対し野生栽培株は3,000円-3,500円が最も多い価格帯となります。また国内栽培によって大株となり、展示会出品レベルの株になるとサイズにもよりますが、2,000円ほどが加算されます。一部の種にはクラスター株もありこちらは全体を構成する株数で価格は変わります。

 胡蝶蘭のカタログを変更しました。その変更点は多数の実生品の取り扱いをペンディングとし野生栽培株を中心としたことにあります。この主旨は数年前より本ページでしばしば取り上げてきました台湾やタイで生産される実生の6割以上が近年、異種間交配種であること、入手時点ではそれが純正種か雑種かの区別が困難なためです。不幸なことにこうした国で生産される実生の大半が世界中のラン園を通し趣味家に販売されており、、現地の趣味家との話の中でもよくこの話題が取り上げられ、自国に生息する原種を外国から入手したはよいものの多くは雑種であったとその実状を嘆いています。

 この結果、実生を販売する側としては商品名通りの原種として保証するには花を見るまで栽培を続けなければならず、しかも交配遺伝の法則からすると、3割近くは雑種であっても片親のフォームが出現することで、正確に言えば花からでもその真偽は分りません。タネを採り実生を育てた結果、一方の種の潜在遺伝子が現れ初めて雑種であることが分かることになります。あるいは純正な原種と謳って販売する以上、少なくともロット当たり3割以上の開花を確認しない限りは販売できず、さらに信頼出来るデータを得るには数十株の評価株が必要で、例えば50株を仕入れその中の15株以上の開花確認後でなければ、それまで1株も販売できないことになります。これでは野生栽培株をはるかに超えるコストになり、ビジネスとして成り立たなくなってしまいます。

 原種を専門に取扱うサプライヤーとしては、主に海外における生産者が純正種と交配種(それぞれの交配種名をxマークで表記あるいは付属名を付ける)を正しく明示する姿勢に変わるまで胡蝶蘭原種実生の販売は、交配系統が分かっている種を除きペンディングせざるを得ません。マレーシアやフィリピン農園で、入荷後に雑種と分かって売ることのできなくなった数千とある株の中に咲いている花を見ると、例えばPhal. cochlearisのリップをPhal. lindeniiで色付けしたような花、Phal. giganteaのセパル・ペタルにPhal. fuscataPhal. lueddemannianaのような斑点があるもの、Phal. cornu-cervi系ではセパル・ペタルとリップ中央弁形状がチグハグなフォーム、Phal. bellinaに至っては無作為な色フォームばかりで、より美しい、あるいは栽培しやすい丈夫な種を目指すべき改良交配とは程遠く、ほとんどが無意味で計画性の無い下手物ばかりです。困ったことはこうした交配種をPhal. cochlearisとかgiganteaと言われて、苗や未開化株を入手しても趣味家は無論のこと小売販売者ですら花を確認するまでは分からないことです。儲けのためには手段を選ばずは世の常ですが、胡蝶蘭原種愛好家としてはこうしたマーケットにおける実生株の現状は非常に残念です。

 後記:重要なことを記載していませんでした。2次あるいは3次ラン園が品名通りの実生とのことで本サイトが入手し、販売した株が交配種であった場合の取り扱いについてですが、この場合は本サイトの「購入方法について」に記載しています販売価格での返金となります。実生の交換は行いません。1次サプライヤーは間違いなくそれが交配種と知りながら販売している訳ですから、その信用できないサプライヤーからの実生を再び実生で交換することは同じ間違いが起こる可能性が高いためです。このため純正原種を求める趣味家には野生栽培株を勧めます。野生栽培株であっても取扱い上、ミスラベルは稀に起こり得ますがこの場合のミスラベルは交換を前提としています。

Phalaenopsis sumatrana野生株

 下写真は3年前に入手したPhal. sumatranaです。現在間もなく開花する蕾も含め24輪となります。入手した当時は10㎝x15㎝のヘゴ板に取り付ける予定でしたが、この株は20㎝x30㎝の板にしました。現在葉長は40㎝程です。自然の中に飛び散ったタネが発芽からBS株になるにはわずか数万分の1の割合とされる淘汰を経た野生株やその分け株であればこそ、温室栽培にあっても十分な根張りスペースがあれば大株多輪花になる成長力があるのだと改めて実感しています。


Phal. sumatrana wild

Phalaenopsis amboinensis fm. albaのさく果

 7年ほど前にアメリカの趣味家が所有するPhal. ambonensis albaを極めて高額で入手して以来、毎年自家交配を繰り返してきました。しかし、一対の黄色の花粉魂が薄く未熟で、5年間ほどまともな花粉魂も取れない状態が続き、昨年から固い花粉魂が得られるようになりました。しかしさく果に成長するまでには至らず、今年に入りようやくさく果が出来上がってきました。一般種、yellowあるいはflavaとの他家交配であれば実生苗が容易に得られたのですが、こうした交配間では原種とは言えません。マーケットにあるPhal. amboinensisで特に黄色ペースのタイプは交雑種の多い一つで、しばしば交配種の片親にもされる株です。この内容については下記ページを参照。

 http://www.cyberwildorchid.com/products/phalaenopsis/info/info_amboinensis/index.html

 ネットでPhal. amboinensis albaを画像検索しても、本サイトの今月の開花種(cyberwildorchid.comやranwild.org)に掲載した写真のみで、果たして世界に何株が現存するのか今一つはっきりしません。albaフォームの苗を得ることが難しいことから、おそらくアメリカの趣味家もすでに失っているのかも知れません。なんとか自家交配苗を得たいと今回は特別待遇で栽培をしており早くて後3ヶ月、できれば5ヵ月程後(受粉から8ヶ月近く)にフラスコへの採り撒きを期待しているところです。希少種とされるalbaフォームの実生はPhal. appendiculataPhal. giganteaなど知られておりPhal. amboinensis albaの実生化成功例はこれまで聞きません。これが得られれば安定供給が可能となり、世界中の趣味家が手にすることが出来ます。下写真左はPhal. amboinensis yellow typeとしては珍しい野生株、中央は本サイト所蔵のPhal. amboinensis alba、右は写真中央の株の自家交配による4月時点でのさく果です。


Phal. amboinensis yellow wild

Phal. amboinensis alba

左のPhal. amboinensis albaの自家交配によるさく果

Dendrobium sp (Den. olivaceum?)

 昨年12月マレーシアのコレクター所有のDen. dianaeに混ざっていた株をspとして2株入手しました。この株の一つが開花しました。セパル・ペタルは蝋質で固く淡緑色、リップ中央弁の先端と外周には細毛があり、やや先端寄りに垂直突起があります。また側弁(リップの奥内側)には緑色のラインが入ります。Spurは短くこれらが特徴です。下にその詳細画像を示します。(後記:会員の方からDen. olivaceumとの情報を得ました)

 各部位のサイズはドーサルセパル2㎝、ペタル2.5㎝、ラテラルセパル2.5㎝。左右ペタル間スパンは3.8㎝、葉は針形に近い披針形で長さ11㎝、幅2.2㎝、茎(疑似バルブ)の最大長は70㎝です。Distichophyllae節となります。本種の生息地詳細は次回マレーシア訪問の際、コレクターに確認します。Den. olivaceumであればボルネオ島の低-中温タイプとなり、ニセDen. piranhaと言われる種となります。これはリップの形状がDen. piranhaと似ているところがあり、生息環境も同じようでDen. piranha名で市場に出ることが多いからだそうです。一般種はセパルペタルは薄茶ですが写真の種は淡緑色がかなり鮮明で、もしこの色が枯れるまで保持されるようであればolivaceumのアルバタイプの可能性もあるとの指摘を別会員からも頂いています。国内におけるマーケット情報は僅かですが、某ラン園で一般フォームが9,000円程で販売されていましたので本種が確定できれば本サイトでは3,500円の販売を予定します。


現在開花中の特徴あるデンドロビウム4点

 4月7日現在多くのデンドロビウムが開花しており、その中から4点を選んでみました。上段左は先月の本ページで取り上げたスマトラ島からのDen. spです。開花当初はセパルペタルおよびリップが淡緑色で、日時の経過と伴に緑色が薄れて写真のような色合いに変わっていきます。写真には緑色部分が一部残っているのが観察できます。リップのドットやカラーフォームに特徴があります。

 上段中央は4年前に入手したDen. hymenophyllum redです。この種はセパル・ペタル全体が赤と緑の2つのフォームがあり、緑色やまだらな濃赤色は入手が比較的容易でではあるものの写真に示すようなソリッドな濃赤色のフォームの入手は極めて困難です。これまで3年間注文していて未だ得られません。このため今回自家交配に踏み切りました。

 上段右は3年前入手したニューギニア高地生息種Den. alaticauliumです。浜松では3月ー4月が開花時期となっています。花色が写真のような色を含め、ピンク色、薄紫、赤色まで多様です。こちらも入荷を打診しており今年は何とか赤味の強いフォームを入手したいと考えています。

 下段はDen. aurantiflammeumです。1年で3回ほど開花期があります。写真は現在20株ほどの在庫の中で最もセパル・ペタルが幅広で長いフォームです。赤味の強いタイプもあり共に自家交配を2年間4回ほど続けていますが、さく果(タネを内包するカプセル)に発達するまでに至っておらず一度もタネが得られません。本種に関しては自家交配の不合和性を感じており、受粉時の植物ホルモン剤の投入が必要かとも考えています。


Den. sp

Den. hymenophyllum red

Den. alaticaulium

Den. aurantiflammeum

Vanda lombokensis

 Vanda lombokensisが、入手してから2年5ヵ月を経て初開花しました。最初のロットは10株程でインドネシアLompong地域生息とされる品種で現地では仮名のVanda lompongenseで呼ばれていたため、本サイトでもその名前で2015年4月の歳月記に掲載しました。同じころインドネシアのコレクターがWebsiteかFacebookで同種と思われるVandaを取り上げていた記憶があります。当初は現地価格がかなり高価で本サイトでは35,000円とし販売しました。その翌年からインドネシアLombok島生息種とされる同種と思われるVanda lombokensisが市場に出るようになり現地価格も低下したため1年半後の第2ロット以降は本サイトにおいてもFSサイズ(35-40㎝高)を8,000円とし現在に至っています。

 はたして最初のLompongロットとその後のLombok島ロットが同じかどうかは不明ですが地域差と思われる若干のフォームの違いが見られます。Orchidspecies.comによれば1925年登録とされており、これだけ特徴のある古くから知られたVandaがこれまで市場に出ていなかったことは不思議で、同サイトに掲載の画像種も1925年の登録種かどうかは確定ができないと書かれています。下写真は左が2014年入手株で、右は今月開花した第2ロット株の花です。いずれも実物を本サイトが撮影したものです。リップのカラーフォームが異なり、これは地域差なのか個体差なのかは、本種の成長の緩やかさと、輝度不足が原因と思われる開花難であることから評価するにはサンプル数が少なく現時点では結論は出ていません。

 本種の栽培法に関してはしばらくの間、共にLサイズのパークと軽石でプラスチック鉢に植え付けていました。しかしこの方法では植え込み材内部の高湿度下で根腐れが起こっており、例えばVanda sanderianaが育っている高湿度環境下であれば、小型の木製バスケットで茎を支えて根は空中に垂らす環境が良いことが分かりました。一方、乾燥気味の環境であっても前記コンポスト以上に気相を大きくする必要があります。1例としてコルクチップとLサイズバークの3:1程の割合のプラスチックスリット入り深鉢への植え付けが適当と思われます。


2014年12月撮影

2017年4月撮影
Vanda lombokensis

Dracula chestertonii

 ドラキュラと言えば猿顔を想像しますが、前にも書きましたが現在70種程を在庫する中でどう見ても猿顔だと思えるのは3割あるかないかです。しかし猿の顔に似ていなくてもその形状はどれもユニークです。今回開花したドラキュラを最初に見たときは大きなリップが飛び出てギョとしました。これが花か!といった風貌です。何ゆえにこんなフォームに進化したのか不思議というより滑稽です。

Dracula chestertonii

ニューギニアからのラン

 昨夜遅くマレーシアラン園からメールが入り、その中でどうもサプライヤーから園主を通して送られた花写真を本サイトが公開するとそのランの多くが、どこのバイヤーなのかは園主は言いませんがディーラーあるいは現地ラン園に情報が流れ、それらのランをサプライヤーからいざ入手しようとすると既に買われた、あるいは価格が高騰しているようなのです。本サイトの画像を見た顧客(あるいはラン園)が馴染みの現地ラン園(あるいはディーラー)へ、その写真を示して同じ株の確保を依頼するのか、面白そうだとなれば高額を出しても入手を目論むディーラーが写真からサプライヤーにあたりを付けて見つけ出すのか、商売では何処にでもあり得る世界です。そんな訳で今後の新入荷予定のランは入手が完了し価格を決定してから写真を公開することにしました。見方を変えればそれだけ業者間でのランの争奪戦が活発化すれば趣味家にとってはむしろ喜ばしいことかも知れません、あるいは高額で買わされているかどちらかとなります。しかし現地2次ラン園は自分たちが苦労してルートを開拓し、サプライヤーを探し出し、また彼らと交渉した結果を横取りされていると思っているようです。メールには我々の取引がdisturbされているとありました。いずれdisturbしているのが誰かはその流れと伴に分るでしょう。広いようで狭い世界です。

Dendrobium sp

 今年1月の本ページにニューギニアからのDendrobium spを3点紹介しました。先月末よりそれらとは異なるDendrobium spが開花しました。まだ種名を調べていません。取りあえずの報告です。


今年初めてのBulbophyllum kubahense開花

 今年に入り初めてとなるBulb. kubahense Sarawakフォームが開花しました。通常は6-7月が開花時期となります。現在3バルブから10バルブ程のSarawakおよびKalimantan生息株をそれぞれ20株ほど在庫しています。2-3年前に入手した株の多くは新しい葉に入れ替わり、60㎝の杉板を超え始めているので、今年からはヤシガラマットを円筒形にし、その上にミズゴケを巻いた取り付け材に植え替える予定です。


Bulb. kubahense

多数のお見舞いのメール有難うございました

 4月3日に胆嚢摘出手術を行いました。腹腔鏡下胆嚢適出法とされるお腹の数か所に小さな穴を開け内視鏡で見ながらの手術でした。全身麻酔の手術でしたが翌日の昼からはお粥が食べられ、夕方には体に入っていた管や点滴は全て外され、2日目の昼過ぎには退院という、聞きしに勝る早いプロセスで、傷みはお腹に開けた切り傷が体を動かして腹筋に力が入ったり咳をすると傷みがあるだけで、じっと寝ていれば痛みはありません。近代医療技術の進歩には驚くばかりです。これから1か月間は食事療養と重いものを持たないようにと指導されました。しかし2年前の脊柱管狭窄手術時と同様にベットから離れると、心はすでにマレーシアやフィリピンに飛んでおりJALの予約を何日にすべきか、またマレーシアでは油の多い中華料理ばかりで、どうやって制限された油の少ない食事をしたらよいのか、帰りの段ボールを如何に軽くするかなどが頭を駆け巡っています。いずれにせよ2年前、首の骨を削り4本のボルトを入れた大手術の、通常ならばまだ入院中の1か月後に足元が見られない程の大きなギブスを首につけ、医師も呆れたマレーシアまで出かけたことを思えば今回のフットワークは軽そうです。浜松という地方でありながらここ浜松医療センターは若い医師が多いのですがたいしたもので看護師も皆親切です。優れた医療ほど目まぐるしく進化する最新技術や知識への依存度は高く、その意味では30-40代が医師として適材なのかも知れません。あと数日すれば傷口の痛みもなくなると期待しています。(後記:早速フィリピン行の航空券を予約してしまいました。次はマレーシアです。6月のサンシャインラン展で何が見せられるか、ご期待ください。)

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