栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2019年度

   2020年 1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月 

7月

現在開花中の花

 28日開花中のデンドロビウムを12種選んでみました。それぞれの種は現在10-20株ほどあり、その中のいずれかでDen. dianae、Den. sp aff. endertii、Den. punbatuenseは3-4ヶ月間隔、Den. ovipostriferumDen. toppiorumは通年で開花しています。他は年2-3回の開花が見られます。ここに登場する種はDen. sp aff. endertiiを除き、現在全て炭化コルク付け栽培です。この種も半立ち性のため今秋までにバスケットかコルク付けの予定です。

Den. nudum Sumatra Den. victoriae-reginae N. Vizcaya Philippines Den. reypimentelii Bukidnon Mindanao
Den. deleonii Bukdonon Mindanao Den. sp aff. endertii Sulawesi Den. papilio Nlueva Vizcaya Philippines
Den. punbatuense Borneo Den. daimandauii Borneo Den. dianae Borneo
Den. ovipostoriferum Borneo Den. tobaense Sumatra. Den. toppiorum subsp. taitayorum Sumatra

近況

 今年はコロナウイルス問題によりラン展の中止や海外渡航が出来なくなり、当サイトでは、ひたすら株の植え替えやWebページの更新作業を続けています。しかし例年通り展示会や入荷があれば、それに忙殺され出来なかったであろうこうした作業も、いずれは行わなければならないことであり、また成長が止まったままであった株が新しい植え込み材に替わることで新芽を出し、生き々としている様子を眺めていると、致し方なしとポジティブに考えるしかありません。 植え替えは今年に入り、すでに90㎝x60㎝x3cm板の炭化コルクを60枚、株数にして1,000株相当分を消費しました。バスケットやポットへの植付けを加えると1,500株相当になります。一方、Webページに関しては今月がバルボフィラム、来月はデンドロビウム、次はVandaなど、順次改版を行う予定ですが、この更新作業量も膨大で、これまでの3-4年間で新たに登場した種の追加分だけでなく、これまで扱った全ての種についても画像と解説を見直しています。

 例えば画像を調べてみると、2018年の1年間に撮影された写真総数は12,040枚、19年は9,887枚、今年は7か月間ですでに11,964枚と、年間の撮影枚数は1万枚ほどで、2015年から数えると6万枚を越えます。改版ではこれら数万枚の写真の中から種毎に、該当する4-10枚程を選び出し、さらにそれらをPhotoshopで編集します。1日平均8時間かけても、バルボフィラム、デンドロビウム、Aerides/Vanda属に関しては、それぞれに1か月近くを要する作業量になります。今月はバルボフィラムで、これまでのバルボフィラムページ掲載の163種が、改版では233種となっており、凡そ70種の新規追加となりました。これら追加分は開花確認種のみで、花が未確認のsp種は30種を越えるものの、これらは改版に含まず開花後に個別追加となります。他属についても同様の見直しを行います。改版後のページは今年末に一括して差し替える予定です。

 一方、コロナウイルスの中、海外からの入荷は、今月末から来月にかけてEMSによるテスト搬送をマレーシアラン園と調整中です。現時点でマレーシアに発注している種は凡そ100種、1,200株です。フィリピンとはEMSを含め現時点では見通しが立たず、こちらはまだ1年近くかかると思われます。このところ多数の在庫状況の問い合わせや見積り依頼を頂いていますが、入荷が途絶えていることから現在出荷できる種は限られつつあります。歳月記でこれまで紹介してきたほぼ全ての種は、栽培を通しての情報発信や将来の実生化のため最低2株は非売品としてストックしているものの、温室内全体の数千株の中でこうした種の割合が増えつつあります。1日も早くコロナウイルスが沈静化し、海外との取引が再開できる日が来ることを願っています。

現在開花中の胡蝶蘭原種

 現在開花中の胡蝶蘭原種6点を選んでみました。このなかではPhal. violacea punctata (点状斑点)が数百あるいは数千株に1株出現するかどうかの希少性の高いフォームとなります。7-8月はPhal. bellinaの最花期で温室内には良い香りが漂っています。

Phal. bellina Phal. maculata Phal. fasciata
Phal. sandeiana Phal. violacea punctata form Phal. venosa

Bulbophyllum annandareiに見られる形状偏差

 タイおよびマレー半島に生息するBulb. annandareiは、ほとんどのバルボフィラムコレクターならば持っているであろう原種です。生息地によってカラーフォームやラテラルセパル形状の違いがあることは知っていましたが、当サイトの改版版を進めている中で、ミクロな世界ではさらなる相違があることに気付きました。果たしてこれらは個体差、地域差、あるいは変種なのかは現在不明ですが、ラテラルセパルの形状の変化に加えて下写真からドーサルセパルとペタルに細毛があったり無かったりとその違いが分かります。左および中央はマレーシア生息で、右はアルバフォームでタイからです。

Bulb. annandarei Penninsular Malaysia Bulb. annandarei Cameron Highlands Malaysia Bulb. annandarei f. alba Thailand

Coelogyne pachystachya

 2013年に浜松に移ってからこれまで、3日以上雨の続いた日は経験したことがありませんでしたが、このところの連日の長雨で温室外での作業が伴う植え替えや出荷が思うように進みません。これは株をそれまでの植込みから取り外す際に付く根の傷、株分け、剪定による切断等があり、洗浄後に必ず1株づつ、バリダシンとタチガレエース混合液のスプレーによる病害防除処理をし、自然乾燥あるいは1晩置いた後に新たに植え付けを行うことで、ある程度株数が纏れば2日掛かりの作業となるためです。来週から梅雨明けとの予報ですので、次は猛暑と蚊の来襲には悩まされるものの、やっと作業は捗りそうです。

 低 - 中温系セロジネの植え替えもこれから始まります。整理をしていたところ中温室の片隅に、花姿も思い浮かばない程すっかり忘れていたセロジネCoel. pachystachayaがありました。5年ほど前に入荷した、2011年ochideenJournalに発表されたタイ生息の新種で、ネットには花画像は見られるもののorchidspecies.comを始め当時も現在も、栽培に有用な詳細情報がありません。OrchideenJournalによれば、2007年現地コレクターが採取した株が最初で、2011年に英国での栽培にて花を得て新種と確認、とあります。道路脇の露天販売にてまず現地コレクターが入手し、これをspとして自身のFacebook等に掲載し、さらにそれを見て購入した外国人が数年後に花を得て新種と分かり発表すると云った、最近しばしば見られる発表パターンに似ています。こうした経緯で登場した新種には、標高などその生息地の詳細情報がほとんど不明です。販売人から入手し何処で採取されたか分からない出所(生息地)未確認のランでも、新種(原種)としてJournal等への発表や種名登録が可能であれば、人工作出のハイブリッドが紛れ込む恐れが避けられません。

 当サイトの慣例で栽培情報不足の株はまず中温室に置いて様子を見ます。今回の種は他の葉形状の似たセロジネの中に埋もれて5年間そのままとなっていました。花は5㎝の白色をベースに、リップが明るい柿色で、10輪ほどの同時開花です。国内マーケット情報は当サイト以外見られません。2015年歳月記によるとマレーシア経由の購入で、Coel. odardiiよりも高額であったとあります。タイでは実生苗が現在販売されているようです。今回、植え替え作業の順番待ちで本種4株を1ヶ月程、高温室(6-7月の温室内気温は夜間25-昼間35℃)にて待機させていましたが、この高温下で全ての株に新芽が次々と現れてきました。これまで株の成長が今一つで花を確認できなかったのは、栽培環境が低温すぎたことと輝度不足であることに気付きました。そこで今後は高温室に移動しての栽培となります。花が未確認や種名不詳のセロジネは現在5種程あり、これらも今月末から植え替えと栽培場所の再検討となります。

Coelogyne pachystachaya

Phalaenopsis mariae

 Phal. mariaeが開花期を迎えます。本種の花フォームはクリーム色をベースに茶色の太い斑点が特徴ですが、色合いや斑点の割合は様々です。今回開花した写真上段の花はフィリピンミンダナオ島生息株で白をベースに赤い斑点の、コントラストの艶やかな色合いです。写真中及び下段はこれまでに当サイトが栽培したPhal. mariaeの花フォームを参考にと表示したものです。希少性からは下段右の黄色ベースのフォームとなります。

Phal. mariae

Dendrobium doloissumbinii ?

 現在、種名不詳のデンドロビウムが開花しています。花形状の類似する種はDen. stuposumDen. doloissumbiniiですが、前者との違いはリップに細毛がなく、後者とはサイズおよびspur(距)の形状が異なっています。これまで気が付かなかったのは、長い間温室の片隅に置かれていたことと、左右ラテラルセパルのスパンで1.5㎝と小型で、離れて見るとDen. stuposumと似ており、特に注視していなかったためです。おそらく2016年8月にDen. doloissumbiniiとして入荷した株ではないかと思います。当初はバスケット植えでしたが、今年1月に炭化コルクに替えて開花しました。

 下写真は昨日(12日)撮影した画像で、当サイトのサムネールにあるDen. doloissumbiniiの花画像の花が開ききっていないこともあり、可能性としてはこの種ではないかと思います。前記orchidspecies.comの画像では距は直線的に後方に伸びており、今回開花の種では大きく湾曲しています。またサイズは3㎝とされていますが下写真では左右のセパルスパンが1.5㎝、また距を含めた横幅は2.1㎝です。2016年8月の歳月記によるとDen. doloissumbinii名で現地ラン園がボルネオ島から入荷したもので、この種名が正しければ、2009年発表の比較的新しい種となります。しかしその後の現地入荷は聞いていません。ネットではorchidspecies..comがページ内で参照している情報源程度と少なく、そのサイトにある株画像も下画像とは違和感があります。

Den. doloissumbinii

Dendrobium toppiorum subsp. taitayorum

 現在、スマトラ島生息種Den. toppiorumの開花最盛期です。本種は標高および節(Formosae)がDen. tobaenseと同じであることから両種を隣り合わせで栽培し、昼間は30℃近くになるものの、通年で夜間平均温度を15℃以上20℃以下にしています。栽培で最も注意していることは根周りを24時間乾燥させないことです。いずれも20株ほどある中でDen. tobaenseの開花は年に2回程に対し、本種は通年でいずれかの株に開花が見られ途絶えることがありません。最盛期は初夏となります。下写真の株は入荷して3年目を迎えます。入荷当初の輪花数は2-4輪でしたが、今年は1株に蕾を含めると10輪程の株が多数見られます。これまでの1株の最多同時開花数は14輪でした。写真左の株も1週間後には14-5輪になると思います。

Den. toppiorum subsp. taitayorum

取付材の製作

 株の出荷や植え替えには水洗いが伴うため、主に温室の外での作業となります。しかしこのところの連日の雨で、これら作業はなかなか進みません。そこで空いた時間に、株の新しい取付材の製作を始めることにしました。かねがねBulb. binnendijkiiなどリゾームの長い大型の株の取付けには手こずってきました。一直線にリゾームが伸長するのであれば炭化コルクなどへ容易に植付けできますがその方向は様々で、縦長の板状取付材ではやがて新芽は空中に伸び出し、その根は活着する場を失って先枯れし、半年もすると葉が落ちてしまいます。結果、トレーや大きなバスケットでの植付けが余儀なくされるのが実状です。株を大きくし花を咲かせる手段としてそれはそれで良いのですが、空中に伸びた花茎の先に花が浮かんでいるかのような自然体に近い開花風景を求めようとすると、トレーへの植付けには違和感が避けられません。そこで考えられるのは新しいリゾームが取付材に沿って伸長し、バルブ(根)が常に活着できるそれなりの太さを持つ円筒形の取付材です。しかし現在マーケットには、こうした形状の部材は見当たりません。理由は多様なサイズを揃えなければならないことと、国内では製作に掛かる人的コストから高額にならざるを得ないからと思われます。現状では趣味家自身が栽培の一環として製作せざるを得ません。

 下写真はそうした曲のあるランのために今回製作した取付材です。左は素材で、トリカルネット、ヤシガラマット、防鳥ネット、1.0 - 1.2mm園芸用アルミ線で、クリップは製作過程での仮留め具です。右隣りは完成品でミズゴケを巻いた85㎝のかなり長い円柱です。その隣り画像には2種類のサイズ(85㎝と60㎝)があり、今月末までにそれぞれを20本程製作する予定です。トリカルネットはホームセンターなどで切り売り販売があり、任意のサイズが入手できます。これを写真左のように円筒形に丸めてアルミ線で留めます。ヤシガラマットは長時間の保湿性と同時に通気性も得ることのできる素材です。これが入手難な場合は、農業用不織布を多重に重ねてマット状にしても代用できます。2mm厚の親水性タイプ不織布も販売されています。

 右写真は円柱の拡大画像で、防鳥ネットが薄っすらと見えます。この製作の最も難しい作業は、長い筒に如何にミズゴケを均一の厚みで巻きつけるかです。 防鳥ネットはこのためのもので、まず防鳥ネットを平面に広げ、その上に湿らせたミズゴケを均一に敷き、さらにヤシガラマットを巻いた筒を乗せて転しつつ巻き上げれば、均一かつ任意の厚みで容易にミズゴケが取り付けられます。目からウロコのこの方法は当サイトの常連さんから教えて頂きました。今回ネットは黒色ですが、透明の素材もあり、これを用いれば視覚的にはミズゴケだけの感じとなります。右画像下段は円筒形の内部で現在は空洞ですが、ここにはクリプトモス、不織布あるいは炭化コルクを粒状にしたものなど、かん水の際に筒内部に水が行き渡る材料を詰めます。円筒の直径はミズゴケ表面厚さを含め10㎝です。この径が小さいと新芽は空中に張り出すため、少なくともこの程度の太さが必要となります。こうした構造の円筒形状取付材は、製作の手間はかかるものの、リゾームの長いバルボフィラムや、1年もすると大半の根が空中に伸びる胡蝶蘭原種にとって最も有効で、何より株の大きさや種の性質、さらにミズゴケの厚み、筒内部への詰込材など、栽培者の環境、例えば乾燥気味であるとか夏季は屋外で栽培するなど、に合う保湿性の度合いを考慮した素材を選んで自作できることが利点です。今月末頃には株を取付けた画像を掲載する予定です。



現在開花中の2種

 写真上段はVanda ustiiで、下段がBulb. fenixiiです。いずれも左画像の花が現在開花中です。Vanda ustiiの一般フォームは、写真右に見られるようにセパルペタルが、クリーム色一色ですが、左の花は先端部が淡いピンク色の始めて見るフォームです。この株はハイブリッドではなく野生栽培株であり、自然界にはこうしたフォームもあり得るのか、次回現地訪問時に確認しようと思います。一方、下段のBulb. fenixiiは1㎝程の小さな花で、ルソン島Laguna州からMindoro島など標高800mに生息します。右はその近縁種とされるBulb. sp. aff. fenixiiで、こちらはルソン島Nueva Ecija州標高1,200mの生息です。生息域が800-1,200mとされますが、当サイトではいずれも高温室にての栽培です。

Vanda ustii
Bulb. fenixii Bulb. sp. aff. fenixii

現在開花中の花

 浜松温室にて現在開花中の花の一部です。

Bulb. aestivale Luzon Bulb. catenulatum Neuva Vizcaya Philippines Bulb. ocellatum Aurora-Luzon
Bulb. carunculatum Sulawesi Bulb. sp (aff. zebrinum.) New Guinea Bulb. pustulatum Borneo
Bulb. microglossum Borneo Coel. usitana Bukidnon Mindanao Coel. celebensis Sulawesi
Coel. candoonensis Bukidnon Mindanao Coel. cuprea Borneo Coel. longifolia Sumatra
Den. sanguinolentum Sumatra Den. igneoniveum Sumatra Den. annae Sumatra
Den. stratiotes New Guinea Den. sp (aff. chewiorum) Borneo Den. reypimentelii Bukidnon Mindanao
Den. anthrene Borneo Phal. bellina Borneo Phal. mariae Mindanao
Phal. inscriptiosinensis Sumatra Phal. deliciosa subsp. hookeriana Myanmar Phal. pulchra Leyte

珍妙なVandaの取り付け材

 入荷時や植え替え時のVandaでいつも問題になるのは、植え付け方法です。Vandaのような長く太い根をもつ気根植物にとって高湿度は必須である一方、その根は常に空気に触れていなければなりません。マニラやクアラルンプール空港ビルから一歩外に出た途端、日本には無い、まるで蒸し風呂のような熱気と湿度には唖然としますが、特に大型のVandaになればなるほどその栽培には、生息地に似た環境が求められます。しかし国内の低湿度な環境において、高い気相率と伴に高湿度環境を作り出すことは難しく、高度な栽培技術が必要です。Vandaも荒いバークを用いたポット植えで元気に育つ種も見られますが、大型種となれば、ポット植えではやがて根が込み入って気相率が下がり、葉数が伸びません。このためバスケットを用い空中に吊すのが一般的です。しかしこれも2年もすると根は四方八方に伸長し、多くがポットから空中に飛び出し、低湿度な環境での株は次第に痩せていきます。当サイトでは昨年8月の歳月記に記載した通気性の高い農業用不織布でバスケットと根を覆い、根周りの湿度をより長く維持する方法を導入しました。それから1年近く経ちます。やはり不織布の有無でVanda(sanderiana)においては葉の張りや根数に違いが見られるようになりました。新しい根が飛び出せば再び不織布を新たに覆うことになります。

 一方、当サイトでは基本的に取り扱う株は実生ではなく、ほとんどが野生栽培株です。よって自然に近い栽培環境下では、その向日性からか1直線に伸びている茎は少なく、根も四方に広がり、葉並びもまた障害物や害虫被害等により左右対称ではありません。こうした株をバスケットに植え付けるとなると、数本の根を折るか切断なくして収まりません。木製バスケットであれば、その一部を取り外して、根を収めてから再度組み立てる方法もありますが、株が10株以上ともなれば大変な作業量となります。

 そこで今回の事例ですが、下写真左は現在10株ほどを在庫するVanda tricolor var. brunoです。一般のVanda tricolorvar. suavisは白色をベースに赤褐色の棒状斑点からなるフォームに対して、本種は赤色斑点がソリッド化しセパルペタル全体が赤くなった希少フォームです。この種をそれまでのヤシガラマットから植え替えることになったものの、写真上段中央に見られるように茎は入荷時のまま曲がったものが多く、根は四方八方に伸びており、思い切った剪定無くしてバスケットには到底収まりそうもなく、当初は簡便な60㎝長の炭化コルクに取り付ける予定でいました。しかしこれまでのVanda lombokensislimbataなどの経験からは、2年もすると空中に伸びた根が過半数を占めるようになり、その結果やはり成長が鈍くなります。

 そうした中、昨日納屋を覗いたとき、奥に2年前の浜松台風来襲の際、庭木の揺れを抑えるためのわら縄(写真右)が1組未使用のまま残されていることに気付き、このわら縄がかなり保水力がありそうで、これを使うことが出来ないかと思いつきました。そこで試しにと、このわら縄をVandaの茎と根の周りに巻き付けながら要所々に1.2mmアルミ線で固定してみたところ、荒々しい中にそれなりの野性味を感じ、10株全てに1時間ほどでわら縄を取り付けてしまいました。取付作業は1本当たり、炭化コルクの1/4時間です。写真下段左が取り付け後の状態です。ダジャレではありませんが、根も茎も荒れ放題で一筋縄でいかないVandaを、一筋の縄で収めたと云ったところです。わら縄を扱っていて気が付いたことは縄を短く切りこれに根を挟みつつ、束ねるように縛ることで、藁も同じ植物故かVandaの根がしっくりと寄り添っているかのようです。気根植物の植え付けにわら縄を用いるのはこれまで聞いたことがありません。下写真での景色では縄が目立ちますが、水を撒いた直後の濡れた状態の色合いのためで、やがて時間の経過とともに写真上段右のような淡い黄土色になると、意外と馴染んだ景色になります。これで2-3日様子を見てから、植付け待機中の写真中央のVanda mindanaoensisや、右のVanda helvolaも同じ方法で植え付けをする予定です。わら縄に活着するようであれば、縄は簡単に継ぎ足すことが出来るため根は幾ら伸びても活着する場所があることになります。このわら縄ですがラベルにサイズなのか2.5分と書かれていました。


1枚の写真Dendrobium jyrdii

 5月の歳月記でDen. uniflorumの近縁種と思われるセパルペタルおよびリップが白色フォームの3種を取り上げました。その中でOrchideenJournal Vol.6・05, 2018に掲載されたDen. jyrdiiに関し、Palawanのみの生息種(2018年時点)であることと、Den. uniflorumはルソン島北西域が北限であることから、当サイトが所有するPalawanからの白色フォームは、Journalでの花や葉形状とは若干異なるもののDen. uniflorumからの変種ではなく、Den. jyrdiiの近似種aff.あるいは同種と見做し解説しました。しかし依然、リップ側弁や葉形状の違いには違和感が残りました。

 こうした中、現在、Webページの改版を進めていますが、2010年頃からの海外から送られた画像を整理していたところ、フィリピンの2次業者から2013年11月末に当サイト宛に送られたメールにDen. uniflorum albaとされる添付写真があり、これを見て驚きました。下写真がその添付された画像で、Journalに掲載のDen. jyrdii の花及び葉形状が酷似しています。興味があるのは、Den. jyrdiiは2018年4月の発表に対し、本種は2013年頃、あるいはそれ以前からフィリピンのDen. uniflorum albaとしてマーケットで流通していたことになります。JournalのEtymology(語源)の出所の解説でも以前から広く取引されている原種?とされていることから、Den. jyrdiiは新発見種ではなく、名称が近年になってつけられたことになります。

 そこでもう一度Palawan生息の当サイトの栽培するDen. jyrdii aff. Iと、Journal掲載のDen. jyrdiiを比較すると、葉形状(前者は細長く、後者は楕円形)および花サイズ(Journal記載のDen. jyrdiiのラテラルセパル間の幅は2.7㎝とされ、一方、当サイトの5月及び6月で取り上げた白色フォームの左右のラテラルセパル間の幅は3.5㎝-4㎝)で、さらにリップ側弁形状を含め、かなりの相違点があります。Den. jyrdiiの花サイズが2.7㎝とすると、Den. uniflorumの一般種とサイズはほぼ同じで、当サイト掲載の白色フォームに比べて小型となります。これらと同じく6月に取り上げたリップ中央弁にラインのない全体白色のalbaフォーム種など、それぞれに見られる相違はPalawanからボルネオ島に至る地域の様態変化とも考えられ、こうした白色フォームはDen. uniflorumの分布域に合わせて、今後もさらに形状やフォームの似て非なる種が出てくるような気がします。しかし胡蝶蘭原種に見られる類似種の位置付けとして、フォーム、変種及び亜種のような系統的分類とは異なり、これらに人名由来等のみからなる固有名がそれぞれにつけられると、可視的に似た種にも拘らず、それらの相互関係が不明瞭な種名ばかりが増え、Den. deleonii近似種に見られる、リップが下がっているか水平かだけで全く異なる名前となる状態になってしまいます。こうした事態は可視による分類法の限界を示し、近似種間にはどのような遺伝子的関係にあるのか、DNAによる系統解析を用いた分子分類法を主体とすべきと思います。すなわちそれら近似種はフォームfm、変種var.、亜種subspの関係か、あるいは遺伝子距離が大きく別種とすべき種であるか等々です。


Trichoglottis atropurpurea f. flava (alba)

 2014年9月フィリピンにて入手したTrichoglottis atropupureaのflavaタイプが入荷から6年を経て開花しました。Trichoglottis atropupurea一般種は濃い紫色の花フォームですが、flavaフォームは希少性が極めて高いと思われたことと、開花中の花を現地で直接見ることができたため、当時ラン園にあった6株全てを購入しました。しかしその後、BS株であったにも拘わらず開花が得られない一方で、株は枯れたり作落ちする様子もなく、ゆっくりではあるものの成長し続け、脇芽(成長芽)が出て株自体は開花がない点を除けば、これといった問題もなく6年が過ぎました。

 開花が無い原因はこれまでの環境、特に輝度に問題があるのではと考えるようになり、昨年6月下旬から10月初旬まで、庭の木漏れ日が当たる木陰に吊るし、その期間以外の温室内でも比較的輝度の高い場所に置き、さらに今年4月には空中に飛び出していた根を取り付け材に活着できるように90㎝x8㎝x3㎝炭化コルクをミズゴケを挟んだ2枚重ねの支持材に植え替えました。この画像は4月の歳月記に掲載しました。 今回の開花はそうした対応の結果と思います。

 今日でも本種のflavaあるいはalbaタイプはネット情報として、当サイトの画像及び情報以外、国内外共に見られません。Trichoglottis atropupureaのflavaタイプの出所は本種が初めてではないかと思われます。6株の内、1株を2年前に温室を訪問された方に販売しました。残りの5株には脇芽があり、それぞれが30㎝程となっており、これを株分けすれば10株となります。現在本種は価格表に見られるように当サイトで最も高額な種の一つです。昨年5月、本種を入手したラン園を訪問した際、同種が3株栽培されていました。今年1月のタール湖火山噴火で、灰を被ったラン園なので果たして難を逃れられたかどうか分かりません。当サイトのロットが唯一となれば今回の開花で自家交配やシブリングクロスを試み、苗株をフィリピンに戻す予定です。下写真は昨日撮影の初花の1輪で、現在5個の花芽が見られます。栽培方法が分かったので、今後は毎年多数の開花が見られると思われます。

Trichoglottis atropurpurea f. flava (alba)

前月へ