4月
Vanda limbata Lombok島
インドネシアLombok島生息のVanda limbataが現在開花しています。本種については昨年4月の歳月記で取り上げました。ネットの花画像を見ると本種は茶系とソリッドレッド系の2つのフォームがあるようで、当サイトの株は後者となります。
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Vanda limbata |
Bulbophyllum lasioglossum
フィリピンルソン島、標高1,000m生息のBulb. lasioglossumが一斉に開花を始めています。本日(30日)現在で3分咲きと云ったところです。例年では5月から7月頃にかけて、それぞれがバラバラの開花でしたが、今回のような同時開花は初めてです。当サイトでは昨年、サンシャインや東京ドームラン展にて10バルブ程のサイズ株を3,500円で販売しました。比較的人気が高いバルボフィラムで、中温タイプです。
Phalaenopsis schillerianaの植え替え作業例
4月から5月中旬は多くのランの植え替え最適期です。1昨年暮に入荷したReal Quezon州生息のPhal. schillerianaの1年半の栽培を観察し、その結果を踏まえ今回植え替えを行いました。Phalaenopsis属Phalaenopsis節(Phal. amabilis, aphrodite, schilleriana, stuartianaなど)は、自然界では40㎝を優に超える大きな葉をもつ大株となります。多くの太く長い根は栄養を蓄え大株、いわゆる多輪花、となる必要条件ですが人工栽培では自然界とは異なり、ポットやヘゴ板等を用いる以上、そのサイズには制約があり、根張り空間を広く取ることは困難です。一方で、植え替えが無い栽培環境での胡蝶蘭の株寿命は精々5-6年程と云われています。当サイトではミズゴケの保水力が半減する前の、2年を目途に植え替えを行っています。
当サイトでは、葉や茎が下垂するランには、2017年以前のヘゴ板、杉皮板、またココナッツファイバーマット利用から、近年は炭化コルク付けの栽培が主体となり、Phal. schillerianaもその一つです。支持材はそれぞれ特徴があり、ヘゴ板は長時間の適度な保水力があり最も成長が良いものの、植え替えには根を切断することなく剥がすことは困難で、大半が切断されることで、1年間程は作落ちが起こります。杉皮板からの株の取り外しは、根を痛めることは少なく、杉板の薄皮ごと剥がすことが出来ますが、板にカビが生え易く、見た目に良くありません。ファイパーマットはミズゴケとの組み合わせで高い保水力が得られる反面、ヘゴ板同様に根がマット繊維に絡み、取外し作業は結構厄介で長時間かかります。一方、炭化コルクは、コストや加工性に優れているものの、前記に比べ保水力は弱く夜間湿度が十分(80%以上)得られる環境でない限り、乾燥が進みます。炭化コルで上手く育たない栽培の主な原因は、かん水による濡れた状態と乾燥とが数日間隔で繰り返されることです。常に湿った状態が必要な成長期にこれが日常的に繰り返されると、コルク取付での栽培は困難です。
下写真は炭化コルクに活着したPhal. schillerianaの取り外しから、新たな植え付け作業までを撮影したものです。上段は植え替えをするにあたっての必須準備品です。左はウイルス感染防止用のリン酸三ナトリウム溶液で、鋏を含浸します。、中央はコルクから根を取り外す際に傷つく根に、バリダシンとタチガレエースの混合薬剤を散布するスプレー。右はこれまでの35㎝x12㎝長から今回用いる植え替え用の60㎝x12㎝の炭化コルク(右奥)です。
2段目左がこれまで植え付けされたコルクの表面を覆っていたミズゴケを強いシャワーで洗い流した後の状態。中央は株上部の根の活着状態。右は根の一部が潜っていたコルクの表面を剥がし、根を掘り出した状態。3段目左はコルクを貫通している根の状態を示したコルク断面。中央は株右下の根のコルクに潜っていた数本の根(白と紫色)を取り出した状態。右は全ての根をコルクより取り外した株と、コルクの残骸。全ての根は切断無く取り外されています。4段目左は、取り外した株を新たに60㎝長のコルクに植え付けた状態。中央は、これまでミズゴケやコルクに潜っていた部分(根の白と紫色)は新たな植え付けではミズゴケの下に、コルク表面や空中に出ていた根はミズゴケ上に乗せて1mmのアルミ線で留めた状態。右は同様に処理された他の株です。炭化コルク表面に活着した根は、根とコルクとの間にハサミの先端を差し込み、根の先端から順次基部に向かって剥がすことになります。またコルク内部に潜り込んだ根は、その根周りのコルクを剥がさなければならず、僅かな手振れでも根が折れたり、切れてしまいます。これが難なく出来るようになるには経験を積むしかありません。
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リン酸三ナトリウムとハサミ |
取り外した根の病害防除用薬品 |
60㎝長炭化コルクと3Aクラスミズゴケ |
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ミズゴケ洗い流した後の株の状態 |
左の拡大画像 |
コルク表面を剥がし潜っていた根を取り出した状態 |
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コルクを貫通していた根を側面から見た画像 |
潜っていた数本の根周りを掘り起こした状態 |
コルクの残骸と取り外した株 |
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新しい60㎝長コルクへの取り付け |
根の植込み |
Phal. schillerianaの植え付け後 |
こうした植え替え作業で重要な留意点を整理すると以下となります。
- 植え替えはウイルス感染を防ぐため、鋏は火炎殺菌又はリン酸三ナトリウム規定希釈溶液に10分以上含浸する。よって連続作業には数本の鋏が必要。
- それまでの取付材から外した根の一部は傷ついており、病害防除のためバリダシン、タチガレエースなど薬品散布を行う、この際、ウイルス感染防除のため株毎にスプレー散布とする。
- 根は可能な限り切断しない。古い支持材の再利用はないと考え、根を最優先で取り外す。根を多く切断すると作落ちにより古い葉から落葉が始まる。
- 新しい支持材は、可能な限り根張りの空間面積を広く取る。最下段右写真では株の上部に30㎝を超える根の伸びしろ分があるが、根張り面積を広く取り大株に育成するためと、この広い面積全面にミズゴケを敷くことで根の周辺をより長時間湿らせ、乾燥を防ぐ2つの目的のためである。
Aerides odorataについて
東南アジアに広く分布するAerides odorataは近縁種Aerides lawenciaeやquinquevulneraなどを含め、変種やフォームが多様で明確な分類がなされているとはとても思えない状況です。下写真はいずれも本サイトにて撮影した花画像です。左写真の花は黄色のリップと、クリーム色のセパル・ペタルの先端が淡い青紫で、J. Cootes氏のPhilippine Native Orchid SpeciesのAerides odorataと同じフォームです。このフォームはorchdspecies.comの青紫色の画像とは異なっています。一方、当サイトでは中央および右画像のリップが金色で、セパル・ペタルは純白の種が現在開花中です。このフォームをアルバとするサイトも見られますが、当サイトの2017年10月の歳月記に掲載しましたアルバは、リップを含めて全て白色です。この総白色種は今日、Aerides magnifica f. albaではないかという見方もあります。いずれにしても中央フォームはマーケット情報からは希少と思います。大株で3花軸あり、花軸当たり蕾を入れ最大42輪です。
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Aerides odorata |
Aerides odorata yellow-lip_wihite sepals/petal |
Dendrobium sororiumとDendrobium purpureogriseum
2018年12月に、ソロモン諸島から入荷したデンドロビウムを、Den. spとして同じ年の歳月記で紹介しました。その時点では種名不詳でしたが翌年に開花し、花形状からこの株はDen. sororiumであると判断し、2019年1月および2月の歳月記に取り上げました。このロットには、大別して葉の表裏両面共に緑色の株と、表面が灰色がかった緑色で裏面が紫色の2つのタイプが含まれ、さらに新芽は当初は紫色を帯びているものの、やがて伸長するに従い緑色になるタイプも見られたり、入荷時には株の多くで葉は楕円形状ですが、1年半の栽培で新たに発生した葉はやや披針形に変化する様態も見られます。
同一種でありながら葉裏の色が異なる種にはAppendicula malindangensisが知られ、高地生息種は緑で低地は紫が多く、花色も高地は青、低地は紫です。またボルネオ島Phal. amabilisは、しばしば濃緑色の葉の基部や裏面が赤紫色が混じりJavaやスラウエシ島などとは異なります。
本種の葉裏の色違いも地域あるい標高差によるものと思っていました。しかし昨年11月、知人より葉裏が紫色のタイプが2019年発行のMalesian Orchid Journal. 23: 79 (2019).に新種、Den. purpureogriseumとして記載されているとの情報を頂きました。Den. sororiumの葉色に紫色は無いようですが、論文にはDen. purpureogriseumとDen. sororiumの同定に葉色は決定要素ではなく、リップ中央弁上の突起(keel)がDen. purpureogriseumは3列あるとされます。また両者共にソロモン諸島ではなく、スラウエシ島生息とされていますが、株や花形状から同一種で間違いはないと思います。昨年発表と云う直近の新種のため、前記論文以外この種の情報がほとんど無く、マーケット情報もありません。本種については歳月記(2018年12月、2019年1月、2月および6月)でDen. sp SolomonとかDen. sororiumとして紹介したものの、ラン展等での販売はしておらず、歳月記で知り購入された方は2名程です。
今月、本種について植付けから1年半経過したため、改めて株の状態を調べてみました。すると葉裏面が紫タイプは両面緑タイプと比べ成長が悪く、両者合わせて20株程の株を抜いて根を調べたところ、緑タイプの株はそれぞれ多数の根があるのに対し、紫タイプは数本と少なく株にも勢いがありません。2018年12月に入手し2019年6月までの冬季から晩春までは、2タイプ共に高温室で元気よく成長しており、2019年の夏期を過ぎた頃から紫タイプが揃って成長が止まったようです。考えられる原因は、Den. sororiumやDen. purpureogriseumの生息域は600m - 1,400mの高温から中温域に及んでおり、入荷した2つのタイプはそれぞれ生息標高差が異なり、紫タイプは高地生息のため、当サイトでの夏期の高温がダメージを与えたものと推測しました。このため今回新たに植え替えし、紫タイプは全て中温室に移動することにしました。下写真は上段左が葉裏紫タイプ、中央が緑タイプ、右は葉色の比較です。下段中央および右は現在(21日)開花中の緑タイプの花を撮影したものです。中央写真のリップ画像で、中央弁基部からもじゃもじゃした先端部までの帯状の黄色部分に、3つの起伏が平行して並んでいるかどうか種分けの判断となります。これから多数の株が開花すると思いますが、それを待って調べる予定です。
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Den. purpureogriseumとDen. sororium ? |
Bulbophyllum translucidumの植え替え
本種は2016年7月に発表されたフィリピン低地生息の新種のバルボフィラムです。当サイトでは、同年9月にBulb. leytenseとして50株程入荷し、2017年5月の開花によりそれら全てがBulb. translucidumのミスラベルと分かりました。バブルや花形状が全く異なる本種を、なぜサプライヤーがBulb. leytenseと名付けたのか不明ですが、共通するのはレイテ島生息種であることです。
栽培は容易な種ですが、3-5㎝程のリゾームで直線的に伸長するため小さな支持材では、株は1-2年ではみ出してしまいます。本種は当初20-30㎝長の主に杉皮板に取り付けていましたが、1年程前から支持材を超えるようになり、今回これらを株サイズにより45㎝x8cm及び60㎝x8cmの炭化コルクに植え替えることにしました。下写真は上段が本種の花画像で、下段左は植え替え前の状態、右は炭化コルクへの植え替え後の一部の株の写真です。株が長く柔らかで、また2-3本枝分かれした形状であるため、ミズゴケを厚めに敷いた細長い炭化コルクに取り付けるとなると、一株の植え替え時間に30分以上を要し、40株程あると3日掛かりです。写真に見られように新しい支持材には3割程、伸びしろ分を取っていますが、これも2年もすれば超えてしまうと思います。60㎝以上の支持材は無理で、その際は株を2分割し、株分けをすることになります。
Den. tobaenseとDen. toppiorum subsp. taitayorumの開花
両種は共にスマトラ島生息種で、当サイトでは中温室において隣り合わせで栽培をしています。Den. tobaenseは今年の初花となります。夏期が開花最盛期です。Den. tobaenseの栽培で新たに気が付いたことがあります。20株ほど栽培していますが、昨年暮れから今年春にかけての冬季に、盛んにそれぞれの株で根が伸長していたことです。通常栽培において冬期はかん水を少なくするとされますが、当サイトでは生息地スマトラ島トバ湖周辺には雨の少ない乾期があっても、冬季はないとの考えで中温室の温度は夜間平均最低温度を15℃程とし、常に根周りは湿らせています。開花期が終わってしばらくして、すなわち国内では冬季になりますが、数株だけならば兎も角、株の大半で根が盛んに伸長し始め、9月に発生した新芽も成長を続けており、果たして本種はこれまで言われてきたような、国内の冬季の温度が低下する時期に合わせて、かん水量を控え生理機能を低下させる栽培が正しいことか疑問になりました。
一方、Den. toppiorumも20株ほど栽培をしており通年でいずれかの株で開花が見られ、途絶えることがありません。Den. tobaenseと同様に植込み材、すなわち根周りを、濡れた状態と乾燥状態とを2-3日間隔で繰り返す栽培は失敗することが分かっており、季節に関わらず夜間最低平均温度を15℃以上とする限り、根は常に湿っている状態を保つようにしています。これまでの1年間の栽培で新たに気が付いたことは、本種は炭化コルク付けで、3段の高さの異なるバーに吊るしており、天井にはLED照明があり、よって輝度はそれぞれの段で異なります。LEDに接近した眩しいほどの明るい位置にある株が成長が良く、その差は歴然であることが分かりました。下写真はいずれも14日の撮影です。
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Den. tobaense Sumatra |
Den. toppiorum subsp, taitayorum Sumatra |
4月中旬における当サイト温室の早朝の温度と湿度
4月に入ると多くのランにとって最も盛んな成長期となります。芽や根は生き生きと伸長し、新芽や新根も現れます。逆にこの時期に成長の勢いが今一つの状態にあるとすれば、その環境(温度、湿度、通風、かん水など)に何らかの問題があることになります。
本サイトでは通年で、かん水は夕方で、この時期からは晴天日には、ほぼ毎日行います。下写真は本日(16日)午前7時に3つの温室に設置した温湿計を撮影したものです。左はVandaやデンドロビウムなど、中央は胡蝶蘭、左はクール系の野生栽培株を育成する、それぞれの温室の計器です。高温タイプのランを栽培する左および中央の計器はそれぞれ温度は18 - 20℃、湿度は90%前後で、特に胡蝶蘭原種温室の湿度は90%を超え、振り切れています。一方、クール温室の温度は7時時点では凡そ16℃、1日の最低値は12℃、最高値は23度となっています。高温室では前日夕刻の散水により、翌朝まで葉上には幾分水滴が残っている状態となるよう、90%前後の極めて高い湿度を保ちます。この湿度は晴天日は午前9時ごろから温室内温度が上昇するに従って、低下が始まり、昼間は50%近くになります。室温が30℃まで上昇すると換気扇が外気を取り込むため特にこの時期は、湿度は一気に30%以下に低下します。曇りや雨天日は、室内温度が28℃程度に抑えられるため湿度は昼間で60%程度となります。このように本サイトでは夕方から夜間の高湿度化を重視する反面、昼間は晴天日も湿度は60%程度が理想であるものの、温度・輝度を中心に考え湿度は外気任せです。野生栽培株の夜間の高湿度環境は、株の成長を助長する必須条件と考えています。
Bulbophyllum pustulatumの開花
ボルネオ島低地生息の本種が開花を始めました。早朝開花で、午前9時ごろには花を閉じてしまう性質のため展示会には不向きで、栽培家だけが楽しめる花です。写真では2輪が開花し、3輪が閉じていますが、閉じている蕾は明日からの開花です。撮影は朝7時です。ところで花が閉じる時間は分かりましたが、それでは開花は何時なのか調べていませんでした。orchidspecies.comには明け方から3時間の開花との記載があります。今回の開花で、果たして薄暗いうちからか、あるいは太陽光が注いでからなのか調べてみる予定です。また明るい時間帯での開花時間がこれ程短いのであれば、独特の匂いでポリネーターを誘っているに違いないのではと今朝調べたところ、やはりハッキリと匂いがありました。薬臭い匂いで例えれば何に近い匂いか再確認します。orchidspecies.comにはこの匂いや、開花期についての記載がありませんが、当サイトでは昨年の開花が6月でしたので、浜松では春から初夏が開花期のようです。
本種はバルボフィラムの1種に過ぎませんが、特に好奇心が湧くのは、orchidspecies.comの記載にある明け方(dawn)からの開花であれば、さて夜明け数時間前にLEDで周辺を明るくした場合どうなるか、もし開花するとしたら、それでもそこから3時間の開花後に閉じるのか?、一定時間の暗さを経た後の、輝度の変化が開花のトリガーであれば、夜間照明で明るくしたままでは翌朝は開花しないのか?もし輝度の変化が開花要因なのであれば、展示会で開館まで段ボール等で覆って暗くし、開館後に外せばそこから間もなくして開花が始まり出品ができます。
否、太陽を基準とした生物の体内時計の働きによるものなのか、など興味は尽きません。高度に進化したランならではの謎を持つ面白いバルボフィラムです。このバルボフィラムの俗称「The Blistered Bulbophyllum」も謎です。
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Bulb. pustulatum |
Bulbophyllum ancepsの開花
ボルネオ島低地生息のバルボフィラムで、扁平なバルブ形状が特徴です。花は1.5 - 2㎝程のサイズで、下写真に見られるように一つの花茎に2-4輪程開花します。最近のマーケット情報は当サイト以外ほとんど見られません。
Trichoglottis atropurpurea flavaの植え替え
Trgl. atropurpureaはよく知られたフィリピン固有種で人気もあり、マーケットでは3000円前後で販売されています。一方、当サイトでは2014年現地において、その変種であるTrgl. atropurpurea flavaを入手しました。この変種は、おそらく世界で当サイトおよび当サイトの顧客2名程のみが所有するものと思われます。価格は現在株サイズにより、5万円 - 10万円としています。 入手から6年が経過し、それまでに2回の植え替えを行いました。今回も前回同様に炭化コルクへの取り付けです。株は下写真中央に見られるように多数の根が支持材に活着し60㎝を超えるサイズとなる株が2株と、40㎝-50㎝サイズが3株あり、それら全株に新たな茎が見られます。中央写真は根を覆っていた古いミズゴケをシャワーで洗い流した状態です。株サイズが大きいため、新たなコルクは今後の伸びしろ分を考え、90㎝x60㎝サイズの炭化コルク板から90㎝x8cmを切り出し、これに取り付けました。取り付け後の様態が右写真です。
新たに植え替える際、これまでの支持材から株を取り外すのは根を傷める可能性があり、今回は写真中央の古いコルクごと新しいコルク上に重ね置きにすることにしました。その際、古いコルクと新しいコルクの間に薄くミズゴケをサンドイッチ状に挟んで一体化し、その後右写真のように、株が取り付けられた面側を新しいミズゴケで覆いました。60㎝の古いコルクと90㎝コルクを重ね生じる30㎝長の段差は、30㎝x8㎝のコルクを足し全長を6㎝厚に平面化しています。古いミズゴケの洗い流し、株の洗浄、コルクの切り出し、根周りのミズゴケの取付などで3株の植え替えだけで1日を要する重労働となりました。
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Trgl. atropurpurea var flava |
続 Dendrobium aurantiflammeum
しばしば本種を取り上げていますが、今回は大きな花が開花したため、これを測定しました。下写真左がそれで本種は花のspur(花の後ろの突き出た部分:距)は5mm程なのでセパル長は約8㎝強となります。この株は写真右に見られるように現在新芽が4本、成長していることから2-3年後には先月取り上げたような多輪花となれば相当見応えがあるのではと期待しています。
ちなみに本サイトの写真にしばしば見られる木製バスケットは、マーケットで一般に販売されているチーク材がもつ薄茶色とは異なり、木片の多くが白い色をしています。これはリサイクルによるものです。当サイトでは大・中・小サイズのチークバスケットを、現在それぞれ数百個使用しており、これを2-3年間使用後の植え替え時毎に廃棄するには資材コストも増えるため再利用をしています。植え込み材の再利用は厳禁ですが、バスケットでも一度使用したものを植え替え時に他株の植え替えに用いれば、疫病やウイルスなどの感染可能性があり、水洗い程度では使用できません。このため当サイトでは、7%次亜塩素酸ナトリウム溶液を、水約1リットル当たり30ミリリットルで薄めた、よってかなり高濃度の溶液に、数時間浸けて殺菌します。その後、これを水洗いした後に2-3日間、日干してから再利用しています。この処理で木製バスケットの場合、3回程度使用でき、1回の植込み期間が2-3年として7-8年間利用できることになります。プラスチックポットも同様に次亜塩素酸処理で再利用することがあります。では素焼き鉢はリサイクルができるかですが、素焼きは多孔質性による通気性や透水性が特徴です。これが2-3年の使用で肥料カスやカビ等で一度目詰まりした細孔は、薬品や水洗い程度で容易に洗い流すことはできないため、焼き直し以外の再利用は困難です。当サイトのバスケット木片の白さは、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液への含浸による漂白作用によるものです。
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Den. aurantiflammeum Sepal length: 8cm |
Bubophyllum sp Mini-red flower
昨年春、ニューギニア生息とされるバルボフィラムをマレーシア経由で10株程入手しました。バルブはBulb. nasicaやBulb. longicaudatumに似ているものの花画像が無く、種名不詳種として販売を止めていました。ようやく1年間の栽培で12日に花が咲きました。株サイズ相応の小さな花ですが、確かに全体は赤く、現地のラン園でミニレッドと呼んでいたことに納得です。初めて見る花で、高温タイプです。
Dendrobium batakense
本種はDen. socialeとはシノニム(異名同種)の関係です。マーケットではDen. socialeはマレーシア生息種に、一方Den batakenseはインドネシア(スマトラ島)生息種にしばしばで用いられる種名のようです。これら種名でネット検索するとorchidspecies.comでは名称統一されたのかDen. metriumにリンクされ、さらにそのページには多数のシノニムが記載されています。その中で一つの疑問はシノニムの中にDen. modestum Ridl. 1898の記載があり、なぜDen. batakenseとは異種と明らかなフィリピン固有種であるDen. modestumがシノニムとされるのか不明です。
こうした種名問題はさておき、入荷後Den. batakenseを中温室にて栽培を始めましたが、高温下のマレーシアラン園に数ヶ月置かれ問題は無かったため、高温室に移動しました。その結果、昨年夏期から高芽が頻繁に見られ、昨年末に株をポットから取り外し根を見たところ、多くの根が枯れていることが分かりました。この種にとり高温室は不適でした。そこで高芽を外し、一部を木製バスケットに寄せ植えし、大きな芽は炭化コルクに植付け、それぞれ中温室にての栽培に切り替えました。下写真は今月に入り、元株の一部に開花が見られた花です。右は大型バスケットに植え付けた高芽の一部です。
Coelogyne usitana
フィリピンミンダナオ島Bukidnon生息の本種は2001年発見された比較的新しいセロジネです。これまでの栽培では木製バスケット植えで、2週間間隔で1輪づつ次々と半年近く咲き続けたことがあります。通常は4-5輪程で花茎は枯れます。当サイトでは、花茎は長く下垂するため現在は20株ある8割程を炭化コルクに植え付けていますが、バスケットあるいはポットの斜め吊りの方が栽培は容易で成長も良く、これは根が乾燥を嫌うためと考えられます。但し、十分な気相も必要で、プラスチックポット植えの場合は、長時間のぐしょ濡れ状態を避けるため、好ましい植込み材はミズゴケ・クリプトモスミックスあるいは大粒バーグとなります。本種のリップは株毎に茶色から黒に近い栗色まで様々で、比較的黒い色が好まれるようです。通常黒い色は10株に1株程度しか出ませんが、今回は4株開花中で、珍しく2株が下写真中央と右のような濃い栗色のリップが開花しました。本種は標高800m生息の高温タイプです。
Vanda merrillii とv. rotorii
当サイトの「その他原種」のサムネールにVanda merrilliiが無く、その変種であるVanda merrillii var. rotoriiのみが掲載されていたことに気付き、両種が開花中であったため今朝(12日)撮影しました。Vanda merrilliiは近年のプランテーションで自然界での絶滅が危惧されおり、今日マーケットで見られるエビ茶色の変種var. rotoriiはほとんどが実生株とされています。当サイトが所有するこれら2種は、いずれも現地趣味家から得た野生栽培株で、株高約2mのクラスター株も数株あります。下写真は左がVanda merrillii、右がvar. rotoriiです。好みから云えば左のカラフルなフォームとなります。
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Vanda merrillii |
Vanda merrillii var. rotorii |
Phalaenopsis philippinensis
本種は先月も取り上げましたが、9日現在、1株に19輪の開花があり、なかなかこれだけの輪花数は珍しいため写真に収めました。
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Phal. philippinensis |
聞きなれないデンドロビウムそのII Dendrobium versteengii
Papua Newguinea生息のデンドロビウムで、2017年マレーシア・キャメロンハイランドで入手しました。小さな花ですが下写真に見られるように美形です。しかし株形状は多くのデンドロビウムとは異なり、また花は葉元から花柄を伸ばし開花します。これは本種がCadetia属から属名統合でデンドロビウム属にしたことが他属でもしばしば見られるように同属種間でありながら大きな違和感をもつ背景です。特に本種はシノニムに凡そ11種の名前があり、ある意味名称に翻弄された気の毒な種です。orchidspecies.comでの本種検索名はCadetia collinaです。
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Den. versteengii, Cadetia collina, Den. collinum, Den. obliquum, Cadetia quinquenervia, Den. toadjanum, etc. |
Dendrobium atjehense
近年再発見されたスマトラ島Ache州のデンドロビウムで中温タイプです。木製バスケットと炭化コルクの2種類で植え付けをしており、今回の開花は炭化コルクです。疑似バルブ(茎)は40㎝ほどになり、若い茎では下写真右に見られるように中央部が膨らんでいますがやがて伸長するに従いスリムになります。
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Den. atjehense |
Bulbophyllum sp yellowの比較画像
本日(9日)たまたま当サイトで仮名Bulb. nasica yellowと、2019年5月歳月記掲載のBulb. sp yellowが同時開花していたため両者を並べて撮影しました。右がBulb. nasica yellowで、左2輪が後者のBulb. sp yellowです。いずれもニューギニア生息種です。サイズはやや後者が大きいようです。
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Bulb. sp yellow Newguinea |
Dendrobium daimandauiiの植え替え
前記記載に次いで本種もあまり聞きなれないと思いますが、2011年登録のボルネオ島低地生息の新種です。2015年8月マレーシアにて入手し、これまで数株を販売しました。価格は3,500円であったかと思います。前回の植付けから3年程経過したため、今回新たに植え替えを行いました。本種は半立ち性で新しい芽は上方に伸長していくのですが、40㎝を超える長さになると一部の茎はやがて垂れていくことがあるためポット植えは適さず、吊り下げの木製バスケットに植え付けています。写真は本種の花と、今回植え替えを行ったDen. daimandauiiで手前の3つの木製バスケットに分けました。バスケットの左奥が8本、中央が10本の疑似バルブ(茎)からなる株で、手前右の小形バスケットの株はまだ小さいですが、6本のほとんどは新芽で、左株の分け株です。
国内マーケットを見ると、当サイト以外にヤフオクに1点本種が掲載されていました。ところがこのオークションの花画像は当サイトが所有する画像の無断転写です。どうもヤフオクでは当サイトの画像の無断コピーがしばしば見られるため、それらをリストしており近々公表する予定です。本サイトの写真や文章のcopyrigh(著作権や版権)はトップページ下のCophyrightのリンク先に定めています。
Bulbophyllum bandischii
この聞きなれないバルボフィラムはニューギニア低地生息種で、ネットでのマーケット情報は当サイト以外、国内には無く、海外においてもフラスコ苗は見られるものの、野生栽培株の取り扱いは見当たりません。問題は本種の価格です。当サイトでは2016年マレーシアから入手し、昨年サンシャインや東京ドームラン展では、4-5バルブサイズ株を3,000円で販売したのですが、記憶では購入者はいなかったように思います。一方、海外で本種はuncommon species(希少種)とされており、最近、インドネシアラン園Foresta Orchidの卸価格リストでは、1バルブ当たりで$25、凡そ2,700円です。よって野生株4バルブでは1万円を超えます。また一見、形状の似たBulb. unitubumが4-5バルブサイズ株で$10であることから、Bulb. bandischiiはその10倍以上高額となります。このような現状から本種は入手難と思われ、また当サイトでは現在、在庫が3株しかないため販売を控え、今後は当サイトで増殖した分け株を販売する予定です。
下写真は上段左が本種で、右がBulb. unitubum参考画像です。また写真下段はBulb. bandischiiの前回植付けから2年経過したため、植え替え(正しくはミズゴケの交換)をするため、コルク表面のミズゴケを洗い流した後の根の活着状態を示すもので、右は新しいミズゴケに交換した後の画像です。炭化コルクへの取り付けで、こうしたミズゴケ交換行う場合は、株を留めていた1mmアルミ線をまず取り外し、比較的強いシャワーで古いミズゴケを洗い流し、その後、根にバリダシンとタチガレエースの混合液をスプレーし、数時間自然乾燥させた後、新しいミズゴケで根を覆って、再び1mmアルミ線で固定します。このような根周りの薬品消毒は、古いミズゴケを洗い流す際に根の一部が傷ついたりして、ミズゴケ交換後の細菌性病気の防除(バリダシン)と発根(タチガレエース)促進を図るため、さらにウイルス感染防除のため薬品を溶かしたバケツ等に纏めて浸すのではなく、一株毎にスプレー散布をします。
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Bulb. bandischii |
Bulb. unitubum |
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Bulb. bandischii ミズゴケ交換(左:古いミズゴケを洗い流した後。右:新たにミズゴケで根周りを覆った画像) |
Bulbophyllum callichroma
ニューギニア生息のBulb. callichromaが開花しています。マーケットでは、なぜそれほど高額なのか分かりませんが、バルボフィラムの中では最も高価な種の一つです。当初の3年間ほどは、その生息域情報から10株程をクール温室にて栽培していましたが、一向に開花が見られず、販売し開花した常連さんから輝度が原因ではと伺い、2年前に冬期に3ヶ月程、中温室の輝度の高い場所に移し栽培をしたところ、その春に開花しました。orhidspcies.comの本種情報では標高600mから2,200mの生息とあることから、クール温室栽培とした訳ですが、上記の栽培を通して、中温室でも新芽が発生し株が伸長する様子が見らたことから、2年前に全ての株を通年で中温室に移動しました。現在は11株在庫しており、良く成長し枯れた株はありません。
クール温室でも成長はしますが、温室全体を低温にするためには、冷房費の節約から太陽光をかなり遮る必要があり、こうした環境での輝度はLEDによるものの、自然光タイプのLEDでは輝度不足となっていたことになります。また前記の生息地の標高の中でニューギニアの600mと云えば高温域で、本種は高温からコールドタイプまで存在することにもなり、どうやら入荷したロットは比較的低地の生息であったと考えられます。
下写真左は3日撮影で、またほとんどの人は見たことが無いと思われるため、右写真にドーサルセパルを切り取り、リップを示したものです。半透明で小さな薄黄色の左右2枚の花被片はペタルです。本種を栽培している方で、中々開花が見られなければ、まず輝度不足を疑うことも一つです。但し、これまで低温の場所で栽培してきたものを、高輝度下の高温場所に長く置けば枯れる恐れがあり、本種は昼間は30℃程でも良いものの、通年を通して夜間平均温度を20℃以下にすることが必要であることは変わりません。
現在開花中のAerides leeana
Aerides leeanaが開花しています。花色は株それぞれで濃淡が若干異なります。
Phalaenopsis lueddemannianaの変容
下画像は数日前にフィリピンサプライヤーから送られたPhal. lueddemannianaとされる写真で、凡そ1年半前にルソン島最北端Cagayan地区からPhal. pulchraと伴に入荷した種とのことです。不思議なフォームで、これまで知られたルソン島南部Sorsogonやミンダナオ島生息のPhal. lueddemannianaとは大きく異なり、Phal. hieroglyphicaにも似た様態も見られます。大別してそれぞれ3つのグループがあり、上段左および中央は同じ第1のグループで、リップ中央弁先端は鉾形で尖っています。一方、上段右および中段左と中央は第2グループで、リップ中央弁先端は楕円形です。さらに中段右、下段左および中央のリップ先端は前者の中間にあり、特にその色フォームが他地域のPhal. kueddemannianaには見られない青味の強い色合いの第3グループです。下段右はPhal. bastianiiに似た斑点模様である一方で、リップ先端はPhal. hieroglyphicaのもつ鉾型となっています。 これは1株のみです。なおこれまで知られたPhal. lueddemanniana、hieroglyphicaおよびpulchraの画像も参考用として掲載しました。これら画像を比較すると、9種の花はいずれも参考画像とは似て非なるフォームです。興味があるのはこれら9種は全て人工的な交配により作出されたのではなく、野生種であることです。
当サイトでは下段中央の最も青味の強い株はすでに昨年5月に入手しています。現地では謎の多いこれらの株を栽培中で、新型コロナウイルス問題が収まれば再訪問して持ち帰り、カルス形状など比較調査してみようかと考えているところです。
下画像は参考用です。
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Phal. lueddemanniana |
Phal. hieroglyphica |
Phal. pulchra |
蘭友会サンシャインラン展の延期
31日、蘭友会から池袋サンシャインシティにて5月末開催予定のラン展延期の通知を頂きました。新型コロナウイルスの影響を受けてとのことです。次回は1年後となるそうです。当サイトにとっても現在、マレーシアやフィリピンへの海外渡航制限により、しばらくは新規入荷が困難な状況です。一日も早くコロナウイルス問題が解決されることを願っています。