栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2018年度

   2019年 1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月 

3月

Dendrobium rindjaniense III 花柄(カヘイ)あたりこれまでの最大輪花数

 現在Den. rindjanienseの開花最盛期であることは前回記載しましたが、一つの花柄あたり23輪が開花しました。通常は8-12輪程度です。中温室栽培で3月末現在、温室内の気温は晴天の昼間で28 - 30 ℃(曇日22℃)、夜間は15℃です。ちなみに胡蝶蘭が多い高温室では昼間32℃、夜間18℃で、また低温室では昼間23℃、夜間13℃です。すでに晴天日は夏季の温度コントロール下における環境と2℃程しか変わらない環境です。

Den. rindjaniense (23 flowers on one peduncle)

現在開花中の胡蝶蘭原種

 現在浜松温室では胡蝶蘭phalaenopsis節の5種が開花中です。撮影はPhal. schillerianaの25日を除いて30日となります。Phal. sanderianaは現在花芽が伸長している段階で、これらに1ヵ月遅れての開花となります。すべて炭化コルク付けの高温室での栽培です。


Phal. amabilis Java

Phal. aphrodite

Phal. philipinensis

Phal. schilleriana

Phal. stuartiana

Phal. sanderiana

Bulbophyllum obovatiflolium

 こちらもCameron Highlandsにて2017年にBulb. spとして入手したバルボフィラムで、中温室栽培ではこれまで開花が見られませんでした。、バルブの先端が伸びて空中に張り出していることから植え替えのため高温室に移動し待機中でしたが、1か月程経ったところで花芽が現れ開花しました。その結果、Bulb. obovatifoliumであることが分かりました。似た名前のovalifoliumではありません。下画像の種がBulb. obovatifoliumで正しいかどうかは昨年10月の歳月記で取り上げました。とりあえず同種と思われる花画像がネットで見られることからこの名前で取り扱うことにしました。ニューギニア生息の高温タイプです。これらの状況からこれまでの中温から高温室での栽培となりました。国内では本サイト以外マーケット情報が見当たりません。

Bulb. obovatifolium

Dendrobium rindjaniense II

 Den. rindjanienseの開花期はorchidspecies.comによれば秋とされていますが、これまで50株を超える本種を栽培した経験からは夏季を除いてほぼ通年で開花が見られます。3月現在の浜松ではDen. rindjanienseの開花最盛期を迎えています。本サイトでは本種を木製バスケット、炭化コルク、ブロックバークおよびミズゴケクリプトモスとスリット入りプラスチック鉢の4種類の支持材や植え込み材で栽培をし、その成長結果を調べていますが、成績が良いのはプロックバーク、炭化コルク、バスケット、ポット植えの順となっています。

 比較的大きな株はブロックパークに植え付けており、今月に入り花柄が11本もある株が現れました。一つの花柄当たり10輪程が開花することから1株で100輪以上となります。それが下写真左で撮影時は5分咲きですが蕾を入れて100輪以上となります。本株は昨年8月末に入手したもので、植え付けからおよぞ半年が経ちます。写真右はブロックバークで、ブロックの下部に伸長した根が活着している様子が見られます。肥料は全く与えていません。根が張る速度は炭化コルクにくらべてプロックバークが最も早いことが観測されました。こうした結果から、現在ミズゴケ・クリプトモスミックスの10株程を、近々発酵バーク・ゼオライトミックスでスリット入りプラスチックポットに植え替えて様態を観測することにしました。栽培環境は中温です。

Den. rindjaniense block bark植付け

Cymbidium lancifolium Sumatra

 東京ドームラン展に間に合わせるためマレーシアラン園の2代目に成田まで持ってきてもらったSumatra島生息とされるシンビジュームが開花を始めました。20株ほどの半数が一斉に低温室にて蕾をつけています。2月の本ページに紹介しましたが園主からの画像が要所を得ておらず今一つ花がよく分からなかったのですが、やっとWhiteフォームとされる花をみることができました。下写真が開花した花です。確かにorchidspecies.comの本種の花画像と比較すると白く美しく感じますが。本種はヒマラヤからニューギニアまで生息分布が広範囲で画像検索すると多様な色合いが見られます。Sumatra島固有の地域差のような特徴があるのかどうか、こちらもこれから検証です。現在ミズゴケクリプトモスミックスとスリット入りプラスチック深鉢ですが開花が終わったら発酵バーク・ゼオライトミックスに替える予定です。植え込み材の耐年性と、クール室では高温室と比べて植え込み材の蒸散速度が遅く、シンビジュームのような太い根への過かん水を避けるためです。

Cymbidium lancifolium Sumatra

パプアニューギニアからのBulbophyllum sp

 2017年7月にCameron Highlandsで黒いバルブのパプアニューギニア生息とされるBulbophyllum spを入手しました。種名が不詳であり、Cameron Highlandsでそれまで栽培されていたことからおそらく中 - 低温タイプであろうと当初は低温エリアで栽培していたのですが、1年半程経過しても開花の様子はなく、しかし新芽は出て成長していることから中温室に移動することにしました。本日(27日)水撒きをしていたところ下写真左の小さな赤い花を見つけました。このサイズではそれまで見過ごしていたかも知れません。種名はこれから調べる予定です。株は写真右のように温室内で自然発生したコケに覆われていますが入手してから倍程の大きさになっているため2つに株分けし一つを販売する予定です。


現在開花中の3種

 右はAerides odorata yellow-lip、中央はRenanthera citrina、右はVanda tricolorでいずれも販売品で3月中であれば花あるいは蕾付出荷が可能と思います。

Aerides odorata yellow-lip Renanthera citrina Vanda tricolor

Dendrobium mooreanum

 本種の生息地は、聞きなれない名前の地Vanuatu(バヌアツ)で、ニューギニアとニュージーランドの間を2分する位置、オーストラリアの東に点在する83の島々からなる共和国です。小さな島々からなるとは言え、3,000m級の山もあり、その半分が火山島で、年間平均気温は25℃- 29℃の熱帯雨林気候です。そうした地域から20㎝程の小株をどうやってマレーシアまで運んだかは分かりませんが、本種を入手したのは4年前です。2年程は素焼き鉢にミズゴケで開花も見られましたが、新芽が現れず3年目からじり貧状態となり、葉の無い僅かなバルブだけとなりました。そこでダメもとと炭化コルクに植え替え栽培を続けていたところ新芽が現れるようになり、今月に入り開花も始まりました。どうやら本種はコルクやヘゴ板のような支持材への取り付けが適しているようで、今回改めて余裕のあるサイズの炭化コルクに植え替えしました。またこの機会にと本種のマーケット情報をネット検索しましたが、当サイト以外見つかりません。確かに日本からはかなり離れたバヌアツ島からの本種の運送を考えれば無理もないかと。

 下写真は今月撮影したDen. mooreanumで、右はじり貧状態から九死に一生を得て、今回新たに植え付けた株です。栽培法が分かったので一安心です。

Den. mooreanum

極小の花に大株のデンドロビウム2種

 デンドロビウムの中でDen. rosellumDen. aloifoliumの花サイズはそれぞれ1㎝と4mmです。特にDen. aloifoliumの小ささはゴミと見間違えるほどで一体どんなポリネーターがやってくるのか興味があります。それぞれあまり注目されるデンドロビウムではないのですが、本サイトのDen. aloifoliumはorchidspecies.comの画像が一般フォームとするとalbaとなるのですが果たしてそれがどれほど貴重なことなのかはよく分かりません。今回取り上げたのはほとんどの人が花が小さすぎて興味を持たないことから販売のために株分けなど株がいじられることもなく5年程じっと温室の片隅の木製バスケットで成長を続けていたためか、花サイズに対して株サイズが極端に大きくなり、Den. rosellumに関しては中サイズバスケットに覆い被さるようになり、一方、Den. aloifoiumは小型木製バスケットをはみ出し大きな塊となって株が垂れ下がってしまった景色が面白いためです。

Den. rosellum
Den. aloifolium

無葉蘭も開花中

 Chiloschista viridiflavaが現在開花中です。咲き始めからすでに1か月半ほど経っています。どうしてかキロシスタはネットの画像を見る限り、そのほとんどがベアールートの状態で木片やコルクに取付けられたままの状態です。海外栽培あるいは生息環境とは湿度など相当異なる筈であるのに単に小さな木片に乗せているだけの、外部環境に直に影響を受け易い取り付け状態が果たして最善なのかどうか。この方法で趣味家はキロシスタを現状維持ではなく株をより大きく成長させているのかどうかに興味があり2株ほど入手しました。 花が終了してからが栽培技術の本番となりますが少し調べてみようと思っています。

 第一の疑問はネット画像で見られるような限られた木片面積では根は木片の表側だけでなく裏まで蔓延りやがて根同士が重なり合うようになります。こうなると根が光合成するキロシスタ(2㎝程の小さな2-3枚の葉のみ)にとっては木片裏側の受光量は少なく、また表面もやがて限界となります。さらに根が重なり合えば下層の根は枯れ木片接着面側からの水分の摂取も難しくなります。あるいは木片のサイズが小さければ、根が木片から離れ空気中に垂れ下がることになります。そうなれば一見そのままで良いようですが、根を空中に垂らす栽培法ではVandaと同等の空中湿度が必要であり温室なしで十分な湿度を確保するには1日数回の水撒きの重労働の覚悟無くして国内の気候下ではほぼ不可能です。よって栽培を容易にするには、活着する根張り空間をかなり広く取り可能な限りかん水頻度を下げる必要があるように思われます。その辺りからのまず工夫でしょうか。

Chiloschista viridiflava

Dendrobium rindjanienseの花色

 インドネシアLombok島標高1900m - 2,000mの限られた地域に生息する中温タイプのデンドロビウムです。疑似バルブの節間が球体状であることから数珠のようなバルブ形状が特徴です。標高からは低温タイプと思われますが、夜間が15℃ - 18℃に設定できれば昼間は30℃近くであっても問題はなく、むしろ中温環境の方が開花や成長は良いようです。下写真はそれぞれの花色の違いを撮影したものです。

Den. rindjaniense

マーケットではあまり見られない現在開花中の6種

 現在浜松温室ではPhal. amabilisPhal. schilleriana、またDen. anosmum superbum等が花盛りですが、マーケットではあまり見ることのない種も多数開花しています。その中から6種撮影してみました。上段左のDen. treubiiはマラカス諸島生息種で扁平な疑似バルブの先端近くに5㎝程の花を5-6輪つけます。中央のDen. maraiparenseはボルネオ島キナバル山周辺1,200 m - 2,300mの低温から中温タイプで、本サイトでは低温室にての栽培です。開花は夏とされているようですが本サイトでは通年で開花し季節感はありません。右はBulb. incisilabrumで、スラウェシ島900m - 1,200mのコケ林生息の中温タイプです。

 下段左は先月、50株程が纏まって入荷したが何株必要かとサプライヤーに問われ、これまで入手が極めて困難であったため全て持ち帰ったフィリピン標高800m生息のAerides leeanaです。Spurが下方に向いているのが特徴です。本種についてorchidspecies.comでは高輝度マーク(Bright light or Full light)とされていますが、J. cootes氏の著書ではAeridesの中では例外的に低輝度(quite shaded situations)であると説明されており、栽培者の立場からはどちらが正しいのかはっきりしてもらいたいところですが実栽培を通して自分で見つけ出すより致し方ありません。今回入手の株は高温タイプです。中央は昨年12月の本ページで取り上げたPhal. hieroglyphica flavaです。さく果の採り撒きの時期となりました。右は先月紹介したDen. spです。高温環境で次々と花を付けています。これらは現在Phal. hieroglyphica flavaを除き全て販売種です。

Den. treubii Den. maraiparense Bulb. incisilabrum
Aerides leeana Phal. hieroglyphica flava Dendrobium sp (endertii-like)

現在開花中のParaphalaenopsis3種

 現在浜松温室にて、Paraphal. denevei、Parapahl. labukensis、Parapahl. serpentilinguaの3種が同時に開花しています。Paraphalaenopsisは4種類が知られており全種がボルネオ島の固有種で標高1,000m以下の高温タイプのため栽培は容易です。問題は下垂する細長い筒状の葉の長さで、Paraphal. labukensisは2m程の長さに伸長するため、それなりの栽培空間が必要になることです。一時期、本種は成長が遅く数㎝伸長するのに数年を要すると言われましたが、本サイトにてそれは誤りであることを栽培実績を基に指摘したことがあります。

 下写真左がParaphal. denevei、中央がParaphal. labukensis、右がParaphal. serpentilingueです。これらの中で希少性の高い種はParaphal. deneveiでシンガポールAsiaticgreenの価格表では350USDとなっており、39,000円相当と高価です。これに対し、Paraphal. labukensisは60㎝の本種としてはSサイズで30USD、Paraphal. serpentilingueは45USDです。当サイトではParaphal. deneveiの下写真のBS株で12,000円です。Paraphal. deneveiはBS株でも葉長は40㎝止まりで、同属の中ではもっとも小型です。現在10株ほど在庫があり、5月までにさらに10株を追加する予定です。

Paraphal. denevei Paraphal. labukensis Paraphal. serpentilingue

現在開花中の3点

 現在浜松温室にて開花中の原種3点です。下写真左はPhal. mariaeで淡い黄緑色をベースに太い濃赤色の斑点があり別種のようなフォームです。中央は日没直前の頃に撮影したとりわけ赤色が一際濃いDen. aurantiflammeumです。右は一つの花茎当たりの同時輪花数の多いDen. hymenophyllum greenです。それぞれにいずれもこれまでの一般株には見られないフォーム、花色あるいは輪花数に特徴があります。左のPhal. mariaeは実生を得るまでの種親とする予定ですが、他の2種は販売品です。

Phal. mariae Den. aurantiflammeum Den. hymenophyllum green

Bulbophyllum (Epicranthes) sp II

 ミンダナオ島からEpicranthes (= Bulbophyllum) jimcootesiiとspの2種を2月に入手したことを前項で取り上げました。ところがこのsp株を植付ける前過程で葉裏に花が開花していることに気付かず 強いシャワーにて株の汚れを洗浄してしまったたためドーサルセパルとペタルが水圧で吹き飛び、ラテラルセパルだけが残っていることに気が付きました。下写真右がそのラテラルセパルの画像です。そこでこのセパルに似たEpicranthesがあるか調べたのですがネット画像からは該当する種が見当たりません。前項の記載ではcharishampeliaeあるいはaquinoiのいずれかとの現地サプライヤーの情報を紹介しましたが、それらのいずれともフォームが異なるようです。orchidspecies.comにはEpicranthesすなわちBulbophyllum属Epicranthes節にはフィリピン生息情報が無く、一方J. Cootes氏のPhilippine Native Orchid Speciesには1品種のみの記載で、本種がミンダナオ島生息種であることは間違いないものの該当する情報が少なく現在のところは種名不詳です。種名は次の開花待ちとなりそうです。


Dendrobium (Euphlebium) sp

 2017年11月の本サイトにて掲載したフィリピンから入荷したDendrobium (Euphlebium) balzerianumの中から、その種とは異なるフォームの花が開花しました。株(葉およびバルブ)の形態はEuphlebium balzerianumと変わりません。下写真で上段左が今回開花のspで、右がこれまでDendrobium spurinumあるいはEuphlebium decoratum-likeとしていた種、中段左はEuphlebium balzerianum、右がEuphlebium bicolenseです。下段左は今回開花したspの花画像、右はリップ中央弁を比較したもので左がsp、右がEuphlebium balzerianumです。

(後記:本種について情報を頂き、種名がDendorobium (Euphlebium) elineaeであることが分かりました。2009年に発見され2017年のorchideenJouanalで掲載されました。生息地はルソン島北西部Ilocos Norteの標高500m前後とのことです。なぜ本種がレイテ島生息のEuphlebium balzerianumに混在していたかは不明です。)

Euphlebium sp Euphlebium spurinum
Euphlebium balzerianum Euphlebium bicolense
Euphlebium spの花正面画像 Euphlebium sp (left) Euphlebium balzerianum (right)

Cleisocentronの種別について

 ボルネオ島生息のCleisocenronは5種が知られていますが、青色の花を付ける種は以下の4種となります。
  1. Clctn. abasii (葉幅:10-15mm、標高:1,200 - 1,500m)
  2. Clctn. gokusingii (葉幅:5-8mm、標高:1,800m)
  3. Clctn. merrillianum (葉幅:3mm、1,100m 以上)
  4. Clctn. sp wide-leaf (葉幅:15-20mm、標高:gokusingiiと同じ?) 
 これらはいずれも高地コケ林の生息種であり、中温から低温(夜間平均温度15℃以下)での栽培が必要となり、低地生息種の胡蝶蘭やデンドロビウムと同じ環境での栽培は困難で、国内の夏季を乗り越えるには冷房あるいは山上げが必要になります。栽培における成長はClctn merrillianumが早く、より低温環境での生息種であるClctn. gokusingiiは年間伸長3㎝程が観測されています。上記の1-3種は何れも葉形状で種を同定できますが、1と4は視覚的には困難で、唯一の方法は花茎の長さとなります。下写真はそれぞれの花茎を比較した画像です。上段はそれぞれ葉形状を、下段は花茎の開花跡を示したものです。Clctn, abasiiは10-20㎝程の花茎に対し、他種はいずれも1.5㎝程の短い花茎となります。

Clctn. abasii Clctn. gokusingii Clctn. merrillianum Clctn. sp wide-leaf

Dendrobium serratilabium

  本種はフィリピン固有種でルソン、レイテ、ミンダナオ島の標高500mから1,200mに生息するCalcarifera節のデンドロビウムです。入手は容易で希少種ではありませんが在庫が無いことに気付き、6年ぶりに昨年12月に10株ほど入荷しました。しかし半数以上がDen. victoriae-reginaeのミスラベルでした。どうやら高地(コケ林)ではそれぞれが生息域を共有しているようで疑似バルブ形状からは区別は困難です。下垂タイプで自然界ではかなり低輝度な場所に生息するとのことです。そうしたことから今年2月のフィリピン訪問では本種であることを確認しての持ち帰りとなりました。本種名のserrateはノコギリ状を意味しリップ中央弁の縁形状が由来となります。茎3本株で2,500円からを予定しています。

Dendrobium serratilabium

Arachnis breviscapa

  3年ほど前にボルネオ島Sabah生息のArachnis brevicapaを入手しました。その時点で株は茎から切断され根の無い40㎝程の株で果たして再生可能か疑問を持ちつつもバルボフィラムを栽培している温室の片隅の薄暗い場所に、プラスチック深鉢にクリプトモス入れ、ここに茎を差し込んで放置していました。葉が落ちることもなくしばらく現状維持が続き、凡そ1年後から徐々に伸び始め3年近く経過した段階で1mを超える株になりました。今回改めて植え直し本来必要とされる輝度の高い場所での栽培を始めることとしました。

 本種はボルネオ島、スラウェシ島、フィリピンに生息し、古くから知られた種で極めて多数の名前(シノニム)を持ち、Arachnis celebica, Arachnis longicaulis、Arachnis lyonii、 Dimorphorchis breviscapa、Stauropsis breviscapa、Vandopsis celebicaなどと呼ばれています。高温タイプで高輝度を好む種で、その点では3年間薄暗い場所で、病気や虫食いもなく良く成長したものだと思います。下写真は60㎝ x 9cmの炭化コルクに薄くミズゴケを敷き、過かん水を避けるため、その上に新たに発生した根と茎の下部を置き盆栽用アルミ線で留めたものです。長い間ベンチの片隅に転がっていたため伸長方向がまちまちですが強靭な立ち性のため支持棒は不要です。本種の花画像は写真下の名前をクリックすると見られます。

Arachnis brevicapa

Epicranthes sp

  Mindanao島Bukidnon生息のEpicranthesについて先月の歳月記に2種類入荷したことを取り上げました。一つはEpicranthes jimcootesiiと他はEpicranthes spでEpicranthes charishampeliaeあるいはaquinoiのいずれかとの現地情報で、こちらは開花まで種名不詳となります。Epicranthes jimcootesiicharishampeliaeは昨年、Epicranthes aquioは2016年のorchideenJournalにそれぞれ発表された、いずれも標高1,300m近傍のコケ林に生息する中温タイプで直近の新種となります。今回取り付けがほぼ完了したため再度画像を掲載しました。それぞれの花画像は写真下の種名をクリックすると見られます。

Epicranthes jimcootesii Epicranthes charishampeliaeあるいはaquinoi

Phalaenopsis bastianii

  Phal. bastianiiが纏まって入荷したのは5年ぶりです。セパル・ペタルは黄白色をベースに濃赤色の太い棒状斑点がやや同心円状に並び、ステンドグラスのような半透明感と艶をもつのが特徴です。特に大株では花茎当たり5-6輪が同時開花し良く目立ち、胡蝶蘭原種の中では最も美しい種の一つです。しばしばネットではPhal. mariaeとして本種の画像が間違えて紹介されることがあります。本種を含めこうした原種の大株は入手難ではあるものの、大株になると原種ならではの存在感を一層発揮します。写真右は今回35㎝ x 10cmの炭化コルクに植え付けした20株程のPhal. bastianiiの一部です。

Phal. bastianii

Dendrobium setigerum

  フィリピンルソン島やミンドロ島などに生息するDen. macrophyllumに酷似したデンドロビウムで2000年登録の新種です。ドーサルおよびラテラルセパルの背面にある細毛が特徴です。Den. macrophyllumはJavaからソロモン諸島まで生息域が広く、標高も海抜0mから1,700mに及び、また香りがあるのに対し本種はフィリピン固有種で海抜500m以下とされ香りは無いとされます。下写真右は今回植え付けの株です。マーケット情報がほとんど無く本サイトでは3,500円の予定です。

Den. setigerum

Dendrobium batakense

  本種はシノニム(同種名)としてDen. metriumDen. socialeとも呼ばれ標高1,100m - 1,400mの中温からクールタイプのデンドロビウムです。入手した株はスマトラ島の生息で左写真に示すように白色の1.5㎝程の花を1-3輪同時開花し、リップに赤い網目模様が入るのが特徴です。下写真右は植付けが終わったばかりの20株ほどの株で、高温下におけるマレーシアでの保管を心配したのですが入荷した全ての株は非常に良い状態でした。スリット入り深鉢にミズゴケクリプトモスミックスの植え付けで中温栽培です。左画像は2年ほど前に別株で浜松にて撮影した花です。

 国内マーケット情報を検索すると流通は余りなく、希少種か否かは不明ですが1件で4,000円が見られ、またeBayでは長短それぞれ1本、合わせて僅か2本の茎で3,500円と高額です。本サイトでは下写真右の5-6本の長茎が植え付けられた1ポットを3,000円の予定です。

Den. batakense Sumatra

 

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