栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。 2018年度

   2019年 1月  2月  3月  4月  5月  6月  7月  8月  9月  10月  11月  12月 

7月

Dendrobium ovipostriferum

 今年5月に入荷したボルネオ島低地生息のFormosae節Den. ovipostriferumが複数株で蕾を付けています。本種は当サイトに見られるように1茎当たり5-6㎝サイズの花が2-5輪同時開花し、白いセパル・ペタルにオレンジ色のリップが鮮やかで見応えがあるデンドロビウムです。別名Den. takahashiiとも呼ばれています。種名検索ではしばしばDen. deareiの花画像が誤って表示されることもあります。

 本種にはリップがオレンジ色と黄色の2系統があるようです。下写真の上段と中段にそれらを示します。左が花正面、中央はリップ、右は側面です。上段は10年前に、当時原種を扱っていたインドネシアSimanisから30株ほどを入荷した株の花です。そのロットからは1株のみ前記リンクサイトの画像にある黄色いリップフォームが現れました。中段はマレーシア経由で5月に入荷した株で7月末に開花した花です。5月入荷ロットでの初花は別株で6月に開花し、その月の歳月記にリップ先端がややスリムな花を紹介しました。現在、4株ほどに蕾が見られ1週間程で開花すると思います。

 下段左は花フォームを比較した画像で、左は上段の花、中央が6月歳月記の花、右が中段の花です。それぞれリップを切り離して撮影しています。それらの形状やカラーフォーム比較からペタルの形状が左は卵形で、5月入荷株の中央と右は楕円形であること、また蕊柱とspur基部が左と中央は赤く、右は赤味がなくリップの黄色と合わせてaureaフォームのようです。こうした違いは地域差あるいは個体差によるものかどうか、今後の開花を待って調べる予定です。下段右の株写真は、6月の画像がバーク・ゼオライトミックスのスリット入りポット植えでしたので炭化コルク(35㎝x10㎝x3㎝)植えもあることを示したものです。5月入荷株はこの2つの植え付け方法でそれぞれの株を観察しているところです。現在は入荷から2ヶ月半ですが、バーク・ゼオライトポット植付けの半数に新芽が出ています。本種は10年以上栽培を続けていることからFormosae節としては、Den. tobaenseDen. toppiorumと比べて丈夫な種であり、またSpatulata節と並ぶ2ヶ月間程の長寿命開花種でもあり、大株にして多輪花が得られれば展示会出品には最適なデンドロビウムの一つと思います。

Den. ovipostriferum

猛暑到来

 関東地区の今後の天気予報では、今月31日頃から本格的な猛暑が始まり連日昼間34℃、夜間25℃の予想となっています。気温34℃となると、温室内は70%の寒冷紗下であっても40℃を超えてしまいます。窓を全開し風通しを良くしても外気温以下にはならず室内では35℃以上です。連日このような気温が続くと低温タイプは無論、中温タイプも耐えることができない環境となり、山上げ、エアコンによる空冷あるいは温度センサによる自動散水などが必要で、こうした対応が困難な場合は日の当たらない風通しの良い軒下に置く以外ないと思います。株が少なければエアコンのある家屋内に取り込むのが最善です。しかしもう一つの問題は自動散水を除けば、乾燥によるダメージです。困ったことに外気を利用したり、家屋内では乾燥が一段と進みます。高温と乾燥しがちな環境が8、9月と、特に乾燥を伴う25℃以上の夜間温度が長期に続くと中温タイプは作落ちの危険が高まります。

 本サイトの温室は四方が中空ポリカーボネイト板で建てられており、70%寒冷紗と外気を取り込む換気扇をフル稼働(浜松の外気は30 - 33℃)して昨日(28日)は11時から15時までは38℃でした。そこで温室内に16℃の地下水で散水をして35℃まで下げました。晴れた日は2回、曇日は夕方一回の散水で35℃以下を保つようにしています。それでも.日中の2-3時間は38℃が避けられません。一方、低温室は2台のエアコンがフル稼働し昼間25℃前後、夜間は15℃ですが、夕方葉水するため株本体は気化熱で実質2℃程この温度より低下していると思います。中温エリアはそれより3-4℃高くなります。

 温度38℃は高温タイプのランですら短時間ならば許容できるものの限界温度です。 では現地のラン園ではどうしているのか。5月マニラを訪れ、午後1時半頃にマニラ空港のビルを出たとたん、今年もあまりの熱気で驚きました。迎えのドライバーに聞いたところ42℃で、ケソン市ではさらに2度程高いとのことでした。湿度は80%以上です。フィリピンでは3-5月頃が最も気温が高くなるそうです。慣れていない人は呼吸が苦しく感じる程です。通りに人はほとんど見かけません。一方でネット記載のマニラの年間気温で見ると、この時期の最高・最低温度が34℃と24℃となっており今年の東京の8月初旬予想と変わないような数値で、観測点がどのような場所か分かりませんが実状とはかなり異なる数値です。特にここ数年は温度上昇が一層進んでいるそうです。フィリピン最大のラン園Purificacion Orchids(表示されるGoogle航空Mapを拡大すると4ヘクタールの農園やタガイタイの全貌が見られます)では設立当初はマニラ近郊でしたが、高温と水質問題から20年以上前にタガイタイ標高700m近くに移ったそうです。タガイタイは昼間32℃、夜間は25℃弱です。3-10月は毎日のように午後にはスコールがあり、夕方になると一気に気温が下がります。一方、雨の少ない11月から2月は夜間18℃程になります。

 すなわち放射冷却が期待できる森林の中でもない限り、マニラ周辺ではランの栽培は無理で、精々デンファレ位だそうです。一方、タガイタイ周辺は上記の気候であり、ランを含め観葉植物栽培農園が多く見られます。日本と異なるのはタガイタイでも昼夜の気温差と雨量が多いことから夜間の濃霧の発生が日常で、夜間の湿度は極めて高いことです。それでも晴れた日中には葉面温度を下げるためスプリンクラーを使用してかん水を行っているほどですから、ランの植込材も常に湿った状態になっています。現地ラン園によると問題はこうした環境であっても、例えばミンダナオ島1,200m-1,500mのコケ林生息の中温タイプのランは、維持は出来ても気温が高すぎて開花は難しいとのことです。より高温のマレーシアにおいては言うまでもありません。しばしば訪れるマレーシアラン園も、新種や希少種などの生息域は年々高地に移っており、今後益々国際マーケットでの需要が高まるであろう中温タイプのランを扱うため、キャメロンハイランドの気候に似たゲッチンハイランド標高1,000m(最高峰1,700m)付近に栽培場を建築中です。PNGのランも1-2年後には出荷できると思います。

 さて話を戻し、国内では現実問題としてエアコンが無くてはランが上手く栽培出来ない気候になりつつあります。でなければ水撒きと云った労力で解決するしかありません。何とか猛暑期の高温と乾燥対策ができたとして、それで良いかと言えば、もう一つ大きな問題は病害虫防除対策です。この時期もっとも細菌性の病気の発生率が高くなり、また従来から知られた害虫だけでなく、最近問題になっているオオランヒメゾウムシにも注意が必要です。繁殖力が強く、新芽などの成長芽を食べるだけならナメクジと同じで何とか耐えることもできますが、幼虫は茎の中で芯を食べて成長するため単茎性のランにとっては致命的で、デンドロビウムなどもその被害は深刻です。この害虫を記載した薬剤が現在無く、本サイトでは沖縄県農業研究センターの会報に書かれているアセタミプリド水溶剤(モスピラン水溶剤1/3000希釈)あるいはアセフェート水和剤(オルトラン水和剤1/1000希釈)と合成ピレスロイド系殺虫剤(アディオン乳剤1/2,000希釈)との2種混合が有効とのことで7、8月は月2回、これらの混合液を散布します。この混合液で植物への薬害は現在見られません。(注:カッコ内は対応する商品名と規定希釈例です。また同じ殺虫剤でも粉末の水和剤や液体の液剤あるいは乳剤があります。指定された希釈で使用する限り効果や対象害虫に違いはありません。)

Phalaenopsis mariae

 今年5月、葉長35-40㎝のPhal. mariaeの大株20株をフィリピンから持ち帰り、40㎝x12㎝x3㎝の炭化コルクに取り付けました(6月歳月記に画像有り)。これほどの大株が纏って入荷したのは15年間で初めてです。フィリピン現地の本サイト用のストックヤードにはまだ100株ほどが栽培管理されており、これ程あれば1-2本変わったフォームが出ないかと期待しているところです。浜松では現在順化中にも拘わらず株の半数で開花が始まりました。移植後の新根も十分伸びていない中での初花であるため開花数はそれぞれ10輪程と少ないですが、現地での花茎の開花跡を見ると、1年後には1株当たり40-50輪ほどになると思います。本種は白、クリーム、薄オレンジ色をベースに赤い棒状斑点をもつ花をつけ、その輪花数の多さから華やかさがあります。ネットではよくPhal. bastianiiと間違って販売されることがあります。下画像は現在浜松にて開花中の花です。本種は低輝度で高温タイプとなります。本種は葉および花茎共に下垂タイプであるためポット植えは適しません。ヘゴ板やコルク付けとなります。


Dendrobium datinconnieaeDendrobium serena-alexianum ? (punbatuense)II

 前項本題のDen. serena-alexianum.の画像で、上段左および中央の花のリップ基部に3角形をした突起が写っており、これが右および下段のDen. datinconnieaeには見当たらないため、胡蝶蘭原種で実施している花の各部位を切り離しそれらを調べるのが最善と考え、切り出してみました。そうしたところ明確な違いが分かりました。下写真は2種の比較画像で、それぞれ左がDen. datinconnieae、右がDen. serena-alexianumです。写真左は花全体を、中央はリップ、右はリップを外し蕊柱を下方から撮影したものです。大きな違いは、中央写真のリップ基部の突起の有無です。この突起は画像に見られるように厚みがあるものがあれば、薄くリップ面に張り付いた様態 もあり、リップを切り離さないと分からない花(前項上段右写真)もあります。形状のサイズ、変形また色合いとは異なり環境に影響を受けない特異的な形状突起の有無、さらにその有無が種名毎の入荷ロット内では共通した特徴であることから両者は別種と判断しました。但し前項の冒頭で記載した現地マーケット名でのDen. serena-alexianumが、J. Wood & C.Chan氏が2008年に記録した種であることが前提で、異なるのであれば2018年末に入荷した前項上段の種のフォームをもつ種が現時点では見られないことから、これまでに記録がない種の可能性が高まります。(後記:その後の調べでDen. serena-alexianum名で入荷した前項上段の種はDen. serena-alexianumの近縁種とされる2008年の新種Dendrobium punbatuenseの可能性が高くなりました。ただし上段右の株はリップ突起は共通するものの、Den. punbatuenseとはリップ側弁の斑点とSpur形状の相違から別種の可能性は残ります。)

Shape differences between Den. datinconnieae (left) and Den. serena-alexianum ? (Den. punbatuense) (right)

Dendrobium datinconnieaeDendrobium serena-alexianum ? (punbatuense)

 Den. datinconnieaeDen. serena-alexianum.は、いずれもボルネオ島低地丘陵地帯の生息で前者がJ. Wood & C.Chan氏らにより2010年登録申請、後者が2008年登録された新種です。しかしこの両種は多様な、似て非なる花フォームと形状から同種(シノニム)あるいは別種の可能性についての議論があり、ネットでの花画像検索でも両者が入り乱れ纏りがありません。そこで今回、現地マーケットから、それぞれの種名で入荷した株の浜松温室での開花に伴い、その花フォームを比較してみました。写真上段はDen. serena-alexianumとされる3つの花フォームで、中段は上下同じ花のSpur(後方に伸びた突起部)です。また下段左および中央はDen. datinconnieaeの花と右画像はそのSpurとなります。

 画像から幾つかの興味ある特徴が見えてきます。まず上段Den. serena-alexianumの花のリップはその外縁が上向きで、リップ先端は上方に反っています。一方、下段のDen. datinconnieaeのリップ外縁はそれとは反対に下方に反っています。 またDen. serena-alexianumのグループのSpurは左と中央は細長く似ていますが、右はその先端まで太くやや短かい形状で、一方Den. datinconnieaeは短く細い形状となっています。Calcarifera節は同種同ロット内であってもセパルペタルのラインに視覚的な有無が見られることがあり、上段左と中央は同種と思いますが、右株のSupr形状の相違は違和感があり、リップの斑点と合わせ別種の可能性があります。またDen. datinconnieaeと上段グループとはリップ外縁や斑点様態とSpur形状が異なっていることから別種と思われます。

 両者の疑似バルブ、葉形状および花序形態、また開花期には両種に違いは無く、花サイズはDen. datinconnieaeが2.5㎝、Den. serena-alexianumが3.0㎝とされるものの、それぞれの株毎に比較すると、環境依存の生育範囲と思われる様態も多々見られます。一方、開花から枯れるまでの花色の微妙な変化など他の類似点を合わせ、これらはごく近い近縁種と思われます。
 
Den. serena-alexianum? (Den. punbatuense).
Den. datinconnieae

Dendrobium aurantiflammeumの植え替え

 昨年8月にマレーシアより40株入荷したDen. aurantiflemmeumの植え付けからほぼ1年が経過し、その半数ほどを販売しました。同じボルネオ島固有種で株の形状が似たDen. cinnabarinumは標高900-2,000mの低-中温であるのに対して、本種は標高900-1,400mに生息する中-高温種とされています。過去4年間ほどの入荷株は実質、前者が中温、後者は高温タイプがほとんどです。Den. aurantiflemmeumは林冠に着生し栽培も通風のある場所を好みます。これだけ目立つ種が1998年の比較的近年の発見とは驚きです。林冠と云う人目につかない生息場所が背景にあったのではと思います。

 orchidspecies.com記載の本種解説では花サイズが1.5㎝とありますが、これは誤記ではないかと思います。2015年からこれまで80株ほど栽培してきましたが当サイトで観測される最も小さいサイズが3.5cm、長いサイズで8cmあり、一般的サイズが4-5㎝です。年に2-3回程の開花があり、今月も数株で開花中です。花色はオレンジから赤味の強いタイプがあります。昨年木製バスケットとブロックバークの2種類で植付けしました。バスケット・ミズゴケ植えが最も安定し、新芽もよく発生しており、根が常に湿っている状態が長時間続く状態が本種には好ましいようです。一方、夜間の高湿度化が得られればヘゴやコルク付けも成長は良好です。今回植え付けから1年後のブロックバークでの成長をチェックするため6株程それぞれの古いミズゴケを洗い流し根の状況を調べました。1年ですでに根は活着しているためブロックバークはそのままで再び根を新しいミズゴケで厚めに覆いました。下写真上段はその株の一部で、左から古いミズゴケを取り除いた状態、植え替え後、および全体画像です。下段は早春からの新芽をブロックバークおよびバスケットから3株選んで撮影したものです。

Den. aurantiflemmeum

Vanda furvaVanda mindanaoensisについて

 下写真の上段は現在開花中の、ミンダナオ島生息種としてフィリピンから2015年にVanda furva 名(Lindley 1833年)で入荷した株です。2013年浜松に居を構えて以来、新たに入荷したデンドロビウム、バルボフィラム、Vanda など、開花する機会を捉えてはネットや情報誌を参照し、花とタグ名の確認をしています。そうした中、この花について幾つかの疑問が出てきました。入荷後は毎年開花し花フォームはJ. Cootes氏Philippine Native Orchid Species 267ページに記載のVanda furva と一致します。著書には本種はミンダナオ島およびPalawan生息とされ、またOrchidaceaeのサイトにも同様の画像が掲載され、この画像は知人のW. Suarez氏が2010年8月に撮影したもので、本サイトも直接彼から2015年にVanda furva名で写真を頂きました。またSwiss Orchid Foundationのサイトに掲載の画像もこれらと同一です。こうしたサイトの画像の出所は2010年頃に撮影のJ. Cootes、W. Suarez氏からのものと思われます。

 ところがorchidspecies.comのVanda furvaページでは上記とは異なる花画像が表示されており、この画像はFaris Photo (2007年)からの引用です。またOrchidRootsにもVanda furvaの画像があり、花形状はFaris Photoと同じです。但し orchidspecies.comでは花画像は別種の可能性があるとの注釈が見られます。よってここまでの判断としてはVanda furvaの花画像は前記のJ. Cootes、W. Suarez氏の画像、すなわち下写真の花で、Faris Photoの画像は別種とも考えられます。

 一方で近年、Vanda mindanaoensis (M. Motes他)名が2015年に新種として登録されました。その花画像はOrchidRootsに掲載され、またorchidspecies.comにもVanda mindanaoensisのページがあります。そのページのシノニム(同じ種であるが名前が異なる)項は空白となっており、すなわちVanda mindanaoensisは現時点において唯一の種とされます。しかし困ったことに、このVanda mindanaoensisは本サイトが所有する下写真、言い換えれば2010年以前からVanda furvaとするJ. Cootes、W. Suarez氏と花形状が酷似し、同種と思われます。

 さらにorchidspecies.comでVanda lindenii (Rchb.f. 1886年)を検索すると、ここにもJ. Cootes、W. Suarez氏のVanda furvaとされるフォームに酷似する画像が表示され、さらにシノニムにVanda mindanaoensisが記載されています。一方にはシノニムがあり、シノニムとされた一方(Vanda mindanaoensis)には相手方(Vanda lindenii)が無いという問題は登録された相互の時代の違いによる止むを得ない事象です。しかし種名が記録あるいは登録された時期が早い方にシノニムが無いのは分かりますが、後年の登録にシノニム記載が無いのは不可解です。またVanda mindanaoensisおよびVanda lindeniiのサイトそれぞれにはリップ側面からの画像が掲載され、これらは同一形状で本サイト下写真上段右の画像とも同形です。これらの花形状による情報の結果としてVanda furva、Vanda lindenii、Vanda mindanaoensisの3種名の画像は微細なリップフォームの違いがあるものの同一種と思われます。Vanda lindeniiは葉幅が他種と異なるとされていますが、Vandaの葉形状は生息域や栽培環境で変化し、葉幅のみで別種とするのには疑問があり、精々亜種が妥当と考えますがこれは別課題とします。

 整理すると見えてくるのはFaris PhotoとOrchidRootsが掲載するVanda furvaと、J. Cootes氏、OrchidaceaeおよびSwiss Orchid Foundationが掲載するVanda furvaの画像の相違をもたらした背景にはM. Motes氏の論文がJ. Cootes、W. Suarez氏のVanda furva画像を否定し、Vanda helvolaのようなリップ形状をもつ種をVanda furvaとしたことです。さらにこの論文の新種とされるVanda mindanaoensisは、前記したようにW. Suarez, J. Cootes氏が名付けたミンダナオ島のVanda furvaそのものです。であれば時系列的にはVanda mindanaoensisとされる種の発見者はW. Suarez, J. Cootes氏であり、彼らはそれを新種とは考えず既知のVanda furvaとし、その後M. Motes氏がそれを誤り??とし、ミンダナオ島のVanda furvaとされた種に、新種名を与えたことになります。つまり実態としてVanda mindanoensisはM. Motes氏論文にあるNew Species(新種)ではなく、種自体は2015年以前から異なる名前で知られ、その旧名からのNew Naming(改名)です。

 花が咲き種名を確認しようとすると、地域差や変種と思われる僅かな違いで別種とされていたり、上記のような種名問題にもしばしば直面します。人が花や株形状の視覚上の判断で分類する限りこうした問題は避けられません。無論、正しい種名確認は、発見・登録当初のスケッチ図を見ることですがVanda furvaのように1830年代、すなわち日本では江戸時代で天保の大飢饉があった頃の資料がネット検索で得られても、モノクロスケッチ図の画像品質は悪く詳細が判断できないことがあります。半ばジョークですが名前の置き換え問題ならば、1833年の古いVanda furva名よりは、ミンダナオ島生息の2015年の新種(名)という表現の方が商売上”聞こえが良い”ことと、新種名の申請が受け入れられている以上、過去の情報を調べての結果が前提であろうことからW. Suarez、J. Cootes氏がミンダナオ島で見つけた種をVanda furvaとしたのは一時的な名称と解釈し、本サイトが所有する下写真については、Vanda mindanaoensisとしておきます。

 さて下写真で、下段左の株は2015年入荷から5年近く栽培し、1.2mに成長した上段の花をつけた株の全体画像です。写真中央の株は、またこれも複雑な話ですが、現在支援をしているフィリピンラン園2代目から、ミンダナオ島生息のリップが赤いVanda spとして2014年に購入した15株で、入荷して2年間程開花が無かったため未発売で、温室の最も目の付かない片隅に置かれ忘れかけていた株です。株形状が下画像と似ており今回の問題で光が当たり植え替えのためトレーに纏めました。もしかすると、写真上段のリップは白色をベースに赤いラインですが、前記Vanda mindanaoensisをシノニムとするVanda lindeniiの花画像にあるリップは、赤色をベースに白いラインの違いがあり、2代目のリップが赤いという表現はVanda lindeniiのリップのような色合いかも知れません。 枯れた花茎が数本に残っており花を見過ごしてきたためどんな花が咲くか楽しみです。右はW. Suarez氏から頂いたOrchidaceaeと同じVanda furva名の画像です。ちなみにVanda mindanaoensisはネットでの国内マーケット(価格)情報はなく、Vanda furva (改め新名Vanda mindanaoensis)も当サイトのみです。


Phalaenopsis lindenii

 フィリピン固有種のPhal. lindeniiは胡蝶蘭原種の中で人気の高い種の一つで、ルソン島中央部、標高1,000mから1,500mの降雨量の多い地域に生息しています。本サイトの入荷株は東部Aurora周辺産です。ルソン島中部の乾期は11-1月でこの時期の前記標高域では日中以外15℃近くにもなります。こうした環境から栽培は中温が適しています。現地のラン園では高温環境でも問題は無いと言いますが、これまでマニラ周辺のそうしたラン園で株は何とか生きてはいるものの開花株を見たことがありません。Den. valmayoraeVanda javieraeの如くにです。

 本種を入手した趣味家の中で株は取り立てて弱っていないものの花が咲かない、あるいは咲いても1-2輪と言った状況であるとすれば、おそらくPhal. violacea、,Phal. schillerianaまたPhal. amabilisなどの高温環境に適した種と同居させ栽培しているのでないかと思います。殆んどの中温タイプ種で花が咲かない原因の多くは夜間温度が高すぎることです。一方でクールタイプではないので15℃を大きく下回ることも避けなければなりません。下写真は現在開花中のPhal. lindeniiで、リップの濃いフクシャ 色およびセパル・ペタルに目立つラインが入ったフォームは稀であることから撮影しました。

Phal. lindenii

現在開花中の原種

 下写真は現在温室にて開花中の花の一部です。

Bulb. aeolium Sumatra Bulb. basisetum Bulb. maquilingense
Bulb. jacobsonii Bulb. sp Northen Luzon Den. daimandauii
Den. nudum Den. klabatense Den. toppiorum taitayorum Northen Sumatra
Den. carinatum Den. rindjaniense Vanda roeblingiana

再三のドラキュラ Dracula severa

 浜松では現在Dracula severaが開花中です。orchidspecies.comの花画像は今一つなので本種を撮影しました。、線状突起を除くドーサルセパルからラテラルセパルの高さは8㎝、突起を含めると縦方向の長さが31㎝となる大型のドラキュラで、全体が毛羽立った迫力はかなりなものです。標高2,000mもの寒い高山で何を好んでこんな猿顔になってしまったのかその必然性が何度見ても不思議でなりません。

Dracula severa

Vanda merrillii クラスター株

 生息地が近年、コメやトウモロコシのプランテーションによって失われ希少種になりつつあるフィリピン固有種Vanda merrilliiの大株を3方向から撮影したものです。写真はサプライヤーから送られたものです。1.5m程の長い茎を含め10茎からなるクラスター野生栽培株で、全ての茎が直すぐに伸びたこれほど姿の良い株を見るのは初めてです。おそらくは野生株を生息地と似た気候下で、且つ周りに障害物の無い環境にて10年近く育てた株と思います。マーケットに見られるような50㎝程の1本茎からこのレベルのクラスター株に国内で育て上げるには10数年は必要で、その間の病害虫防除も含めた栽培条件も考えると至難と思います。写真の株はすでに販売予約済みとなりました。

Vanda merrillii

ヤフオクへの当サイト画像の無断転載

 ヤフオク https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/t659472476に、当サイトのPhal. stuartianaのページ掲載の画像が無断使用(2019年7月17日現在)されています。このヤフオク出品は当サイトとは一切関りはありませんのでお知らせします。 

ドラキュラ、本当に猿の顔に似ている?

 前題の画像を見て猿顔には見えない、無理やり当てつけているだけでは?と思う人に答えてくれるのではないかと3点選んでみました。下段右はとぼけたというか泣きべそをかいたアニメキャラクターの顔の様で面白いので加えました。

Dracula gigas sp Dracula amaliae
Dracula venefica Dracula chimaera

今月前半に開花したドラキュラ

 現在、当初計画から2年遅れで70種程のDracula属を販売する準備を進めています。サプライヤーからのタグ(ラベル)に書かれた種名とこれまで5年間に撮影した花画像およびネット画像とを参照・確認しながらページ作りなどの作業が主体です。そこで気付いたことは、ネット検索では一つの種名に複数の異なる花画像が頻繁に見られ、どれが正しい種名花なのか、これほど混乱している状況を他の属種では知りません。猿顔を意識して花画像を見てしまいがちで、その結果顔かたちの微妙な違いが気になって別種と感じてしまうのかも知れませんが、サプライヤーのラベルがいい加減なのかネット上の画像が当てづっぽなのか、そうした中での同定に時間を取られています。

 下画像は浜松温室にて撮影した今月に開花した、また現在開花中のドラキュラです。見れば見る程、猿顔イメージが先行し、これらが蘭であることを忘れてしまいます。種名は取り敢えずサプライヤーのラベル名のままとしました。

Dracula dalessandroi Dracula gongora Dracula janetiae
Dracula marsupialis Dracula minax Dracula villegasii

Flickingeria fimbriata (Dendrobium plicatile)

 昨夜(12日)、Palawan生息種としてEuphlebium sp名で入荷した株に蕾を見つけ、1日花であるEuphlebiumともなればのんびりは出来ないと今朝早く温室に向かいました。花を見たところFlickingeria fimbriata、現在名のDendrobium plicatileでした。本種は中国、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンと広範囲に分布しています。にも拘わらず、1日花故に人気が無いのかネットで調べてみると国内でのマーケット情報がありません。Flickingeriaと言えばリップ先端に髭がある面白い形状のFlikingerria scopaを思い浮かべます。また2017年3月の歳月記にキャメロンハイランドの露店で入手したFlickingeria fimbriataとリップが似た形状ではあるものの黄色で、セパル・ペタルの色やフォームが異なるFlickingeria spを取り上げました。こうした短命花は微香であるものの良い香りがします。人にはあまり興味を持たれない1日花とはいえ、長い歴史とそうなるべき事情もあったのだろうと思いつつ写真に収めました。

Dendrobium plicatile

Dendrobium flos-wanuaの開花

 現在Den. flos-wanuaが開花中です。Den. dianaeも蕾をつけ始めました。サンシャインと東京ドームラン展にこれまでの市場価格に比べ格安の2,500円で出品したのですが、2010-2011年のボルネオ島Kalimantanの新種にも拘わらず両者とも出戻りです。開花株か、あるいは少なくとも花写真が無いと余り知られていないことから売れないのかも知れません。本種はペタルの基部左右それぞれに赤いラインが4本入るのですが、このラインには濃淡があり、ラインがほとんど発色しないフォームもあります。このラインの濃淡が個体差なのか環境に影響され変化するものかは現時点では不明です。特徴は下写真左に見られるように全体が薄黄色のベース色に、リップ基部の突起を囲む淡いゴールデンロッド色の輪模様です。下写真は現在の開花状況です。茎も長くなってきたので炭化コルクに4A品質のミズゴケで植え付け、秋から500円アップの再販です。

Dendrobium flos-wanua

Dendrobium rindjanienseの栽培

 桜の咲くころから現在まで、Den. rindjanienseの新芽(昨年秋から今年に新しく発生したバルブ)の成長が活発です。下写真の上段3株と下段左および中央の2株は昨年8月に入荷した株で、上段中央と右の2株に見られる10葉以上が付いた長い茎は入荷時点で若芽が出ていたものです。長さは2倍以上に伸長し、その他は浜松にて順化後および今年発生した新芽です。6月から現在までは特に雨天が多く、温室内は比較的多湿であり若芽(茎)の成長が活発です。なおDen. rindjanienseは比較的高輝度を好みます。低輝度と高輝度下で比較すると新しい茎の成長はかなり異なることが分かりました。写真下段右は5月中旬に入荷し炭化コルク付けのDen. tobaenseの新芽です。

 8月入荷ロットのDen. rindjanienseはサンシャインおよび東京ドームにて多くの方が購入されました。同様な状況と思いますが、もし下写真のような若芽の発生が無く、また購入時から新芽の成長が余り活発でない場合は栽培環境が適していない可能性があります。本種はLombok島標高2,000m程に生息の中温タイプのため夜間平均温度は可能な限り20℃以下(昼間の温度は30℃を越えても良い)が好ましく、この条件を満たしていないか、コルク付けの場合、根が乾燥気味であるか、あるいは輝度が低すぎないかをチェックする必要があります。特に環境の良し悪しは新芽の発生や伸長が重要な指標となり、昨年から東京ドームラン展までに購入した株であれば、これまでに開花を含め、新芽の発生があって然るべきです。

 これまで3年間で50株以上の本種の栽培を通して見えてきた成長が芳しくない一つの可能性は、根の完全乾燥を伴う環境です。ミズゴケに触れてみて全く水分が感じられない根の周りの乾燥状態が、かん水から次のかん水の合間にサイクリックに繰り返されるとダメージを受けます。夜間の湿度が常に80%以上と高ければそれでも問題はないのですが、ほとんどのデンドロビウムや胡蝶蘭等の原種の成長はこの夜間の高湿度化が課題です。本種は15℃以下の低温環境でない限り、常に根が濡れているというよりは湿っている状態が好ましく、これが容易に出来るのはコルクやヘゴ板付けで、幾ら大量の水を与えても数時間は濡れていますがやがて取付材や植え込み材のもつ保水力で湿った状態が長く続きます。

 空気が乾燥気味で、湿り気が続くよりは乾燥する方が早い環境では 垂直支持材のミズゴケを多めにした植え付けを行い保水力を高める対策があります。しかし朝にかん水をし、夕方には根の周りのミズゴケ表面がほとんど水分の無いサラッとした状態て、夜間の湿度は60%程度が精々といった環境では、まず垂直取り付け材は適しません。むしろこうした環境ではポット植え以外手段は無いように思います。一方、ポット植えは垂直取り付け材以上に、根腐れを如何に防ぐか、かん水量に対する気遣いが求められます。夕方にかん水をし、早朝には水滴が幾分か葉上に残っており、昼間にはそうした水滴は消えている。この繰り返しが早春から梅雨期、また晩夏から晩秋までの期間の最も成長に有効な環境で、もし前日のかん水の水滴が昼頃まで残るようであれば、その夕方のかん水は不要といった目安が一つの対応です。 Formosae節も、特に中温タイプの多くの種に関して早春から梅雨明けまでに新芽の発生が見られない場合は、同じ問題が背景にあることが多く、手でミズゴケを軽く抑えたとき手に水分が付く状態ではなく、湿り気を感じる程度の状態を如何に長く保つことが出来るか、新しい植え込み材での植え替え、夜間湿度など環境改善が必要です。


Euphlebium(Dendrobium) elineae

 フィリピン北西部Norteで2009年発見、2017年新種として登録された本種が現在開花しています。4か月間隔での開花です。他の近縁種Dendrobium balzerianumbicolenseも3ヶ月おきに浜松温室で開花しているところを見ると、これらの種は年に3-4回開花するようです。精々2日花ですのでこの頻度での開花がないと存在感がありません。こうした短日花の品種は場所がそれなりに離れて多少環境(温度・湿度)が異なるにもかかわらず互いに合図でもしたかのように全株が一斉に開花する種と、近くにいても数日ずらしながらそれぞれの株が順次開花する種があり、浜松温室では本種が一斉に、Den. balzerianumは数日ずらして開花します。この種はこれで短日花とは言えそうした特性もあって栽培が楽しい種です。

Euphlebium(Dendrobium) elineae

Dendrobium serena-alexianum (後述:Dendrobium punbatuense)

 昨年12月にマレーシアから持ち帰った2008年登録のボルネオ島Sabahの新種Den. serena-alexianumが5株ほどで一斉に開花しました。本種については昨年12月の歳月記に現地にて筆者が撮影した花画像を掲載しました。今回浜松の開花で驚いたのは、同一ロットであるにもかかわらず、その撮影した花フォームを含め4つのそれぞれ異なるフォームが現れたことです。それそれの株(疑似バルブ、葉)とセパルペタルおよびリップの形状は共通しているものの、セパルペタルに走る細いラインやリップ側弁の斑点が有ったり無かったりと色合いや斑点が異なります。下がそれらの画像です。

 同一ロット内でこれほど花のフォームが異なる種は殆んどありません。上段および中段がそれぞれ今回開花したフォームです。下段は左が上段左、右が中段左の花の全体画像となります。本種は同じ生息域のDen. datinconnieaeと酷似しており、シノニムの関係との説があります。一方でorchidspecies.comのようにこれを疑問視する意見もあります。Den. datinconnieaeではこれまで上段左のセパルペタルおよびリップにラインが入るフォームは観測されておらず、一方、Den. serena-alexianumのリップ先端はDen. datinconnieaeのような裂け目は見られません。その点では異種と考えられますが、今回の開花の中にラインの無いセパルペタルやリップ側弁が本サイトのデンドロビウム・サムネイルsp11のスマトラ島からの同じCalcarifera節のリップ側弁内側基部に褐色の斑点が入るフォームが現れると果たして本種は野生種であるのかどうかDNAによる種判定が必要とも思います。そう言えば同一ロットから複数のフォームが現れるDen. dianaeもSabahとKalimanntanの違いはあるものの同じボルネオ島生息種で同じサプライヤーであったように思います。


Phalaenopsis fimbriata

 Phal. fimbriataはインドネシアおよびボルネオ島Sarawakの、低地から標高1,300mの生息とされます。これまで本種は高温種とされてきましたが、近年高温環境での栽培が難しくなっています。晩秋から冬にかけての入荷株の植付けでは、晩春まで順調に新根や芽が伸びるのですが、夏を迎えるとやがて成長が止まりその後病気がちあるいはじり貧状態となり1年以上経った頃には株数が半減してしまいます。この原因と考えられるのは、おそらく近年の生息地におけるプランテーション開発により低地生息種はほとんど見られなくなり、現在はそのほとんどが高地産の入荷に替わっているのではないかと推測しています。最近入荷の本種は栽培温度で言えばDen. tobaenseと同じ中温環境が適し、夏季は山上げあるいは夜間平均温度として20℃以下が好ましいように思われます。生息域については現地ラン園にてですら正しい情報を得ることが難しく、しばしば従来知見(先入観)で対応されてしまい当てにはなりません。

 下写真の株は高温室にて1年以上栽培した結果、販売が出来なくなった作落ち株を1年程前に中温室に移動したことで回復した現在開花中の花です。このように胡蝶蘭だけでなくデンドロビウムやバルボフィラムも最近は同じような問題を抱えており、新たに入荷する株はまず生息標高情報をorchidspecies.com等でチェックし、その範囲が広い場合は低、中、高温の2つ以上に数株づつ分けて栽培し、新しい芽や根の動きを2-3ヶ月間観察し、適温と思われる温室に移すことが多くなりました。こうした作業も含む「順化」の重要性が一層高まっています。

Phal. fimbriata

現在開花中の4種

 上段左はDen. cinnabarinum_ v. angustitepalumです。Den. aurantiflammeum同様にバスケットにミズゴケ植えでの栽培です。上段右は昨年登録の新種Den. deleoniiです。ミンダナオ島Bukidnon'sの雲霧林(コケ林)生息種で環境は高輝度とされ、ローカルマーケットでは古くから売られていたそうです。写真には現地にて交配したタネが見られますが浜松にて実生化を予定しています。下段左はカンボジアからのDen. wattiiです。左右スパンは7.5㎝の大きな花で良く目立ちます。1か月近く開花します。こちらも高輝度を好むようです。右は1月のサンシャインラン展で当サイトの前に出店していた中国のラン園から最終日に入手したHolcoglossum kimballianumです。こちらは花の形が整っており左右スパンが5㎝となります。いずれもこれら4点は標高1,000m以上の生息種であり、当サイトでは中温室にてそれぞれが明るい場所あるいはLED蛍光灯直下での栽培となっています。Den. cinnabarinumを除いて他の3種は炭化コルク付けです。

Den. cinnabarinum_angustitepalum Den. deleonii
Den. wattii Holcoglossum kimballianum

種名Coel. hirtellaで入荷したCoel. sp

 Coel. hirtella名で1昨年8月末にボルネオ島生息種として入荷したセロジネが今年6月に開花し先月の本ページの「現在開花中の花」にCoel. hirtellaとして取り上げました。2株目が現在開花中です。そうしたところ、いつもアドバイスを頂いている常連さんから写真のセロジネについてCoel. hirtellaとの相違点についてご指摘を頂きました。下写真はその株と花です。そこでCoel. hirtellaとの違いを整理してみました。

 これまでorchidspecies.comに見られるようにCoel. hirtellaは黄色ベースのリップ中央弁に基部から先端に向かって2-4本の滑らかな棒状突起がある一方、入荷種(以下spという)は上段右写真が示すように中央弁は茶色をベースに縮れた様な凹凸突起であり、またリップ側弁の模様もCoel. hirtellaは波状のラインであるのに対し、spは一部が網目状となっています。またセパルペタルはCoel. hirtellaの白色に対し、spは薄緑色です。こうした花フォームの違いに加え、バルブはCoel. hirtellaはやや卵形に近い円錐形に対しspは細長い円錐形です。

 Coel. hirtellaはtomentosae節であり、その中にspと似た花フォームを探してみると、リップ上の突起が縮れた形状の種にCoel. tomentosaがあり、この種には個体差として薄緑色も見られます。しかしもっとも大きな違いはspの花茎は直立であるのに対してCoel. tomentosaは下垂型であることと、花茎はsp種のように新葉(バルブ先端)から花茎が発生しておらずバルブ元です。バルブもspのような細長い円筒形ではありません。一方、Coel. asperataはリップフォーム形状や、新葉の中心(バルブ先端)から花茎が出る点で似ているものの、花茎は直立ではなく多くは弓なりで、バルブは扁平卵形でsp程、細長くありません。Ceol. chloroptheraは側弁フォームが異なります。またCoel. lentiginosaは花茎はバルブ元から出ていることと、ボルネオ島生息種ではありません。仮に花茎の発生個所や直立性またリップ形状などのAND条件が満たされた株が上記のいずれかの種あるいは節から見つかればspは既存種の地域差あるいは変種となるかも知れませんが現時点ではそうした情報はありません。

 そこで再びsp株の入手時の状況を調べてみたのですが、2017年7月にマレーシアのサプライヤーから本種の画像メールが当サイトに送られおり、そのメールにはCoelgyne newと書かれていました。おそらく出荷書類上の対応から種名を定めなくてはならず、生息地が同じで似た種としてのCoel. hirtellaの可能性もありとして、その名がアサインされたものと推測します。多数のセロジネを栽培しているアドバイザーからは現時点では新種の可能性が高いのではとのご意見です。栽培はクリプトモスミズゴケミックスで中温室です。次回マレーシア訪問でその後の状況を聞き、希少性が高いようであれば実生化を図りその一部を戻すことも必要かと考えているところです。


蟻の巣玉Hydnophytum formicarumの花

 蟻の巣玉を3年前から毎回ラン展に3種ほど、それぞれ2-3株と僅かですが出品しています。その中でミンダナオ島のマングローブ帯の木に着生するHydnophytum formicarumは、ネット検索すると手のひらに乗る程の小さなサイズで10,000円もする高価な種です。当サイトが出品しているのは塊根の直径が25㎝程の巨大な株です。価格は、本種を良く知る人からのアドバイスを受け30,000円としました。この高価格で昨年に続き今年も売れ切れです。当サイトにとってラン展出品の中でこの価格に匹敵できるランはクラスター株を除いてありません。ランを販売する当サイトにとってラン以外の属種は本道ではない(よく知らない)こともあり、並の株サイズには興味がなく、蟻の巣玉や蟻シダについてフィリピンラン園にはこれ以上大きなサイズはないと思う程の株を集めるようにと難しい注文を出しており、浜松に集まる本属はいずれもバスケットボール並みのサイズとなっています。

 浜松の栽培では当然蟻は住みついていませんが、ラン同様のタイミングで同じ液肥を葉と塊根に与えているだけで元気です。その株が多数の枝に小さな赤い実を年中付けているのですが、不思議なことに本種を取り扱い始めて3年間、花を見たことがありませんでした。温室に来られるラン趣味家の方々から赤い実を見てどんな花が咲くのかとよく質問されるのですが、逆に花が咲かないのになぜ実が付くのでしょうねと答えていました。ところが数か月前に本種を温室内のランの植付け作業場所近くに移動したことで目につくこともあり、今月に入り初めてその花を見ることが出来ました。その大きな塊根に似合わず2mm程の何とも白い小さな花が枝の節々に点々と開花していました。おそらく蟻の巣玉愛好家は良くご存知とは思いますが栽培したことのない人はまず花を見たことはないであろうと、下にその画像を載せてみました。ネットで本種の花画像を探したのですが数百の画像の中で1点のみでした。その花の細部はCanonEOS60mmマクロレンズの最接写でどうにか撮れるほどの小ささです。


Hydnophytum formicarum

成長の度合いで花サイズあるいは花数の大きく異なる種2点

 下写真は現在開花中の左がDen. papilioで、右は昨年12月に入荷したスラウェシ島生息のDen. endertiiに似た種名不詳のデンドロビウムです。Den. papilioは同一ロット、つまり生息エリアは同じですが、栽培環境の違いによる成長で花サイズが大きく異なる様態を示しました。一方右は1株での同時開花の様態を示す画像です。3茎それぞれに1-2本の花軸が発生し、花軸毎に総状花序で5-6輪の花をつけるため全体で25輪程となります。入荷後の初花は株当たり花軸は一つで開花は2輪1組のみでした。この種はスパチュラータ節に見られるように1か月以上開花を続けます。

 このendertii-likeデンドロビウムも今年5月の蘭友会サンシャインラン展に出品しました。Den. endertiiはボルネオ島固有種とされ、ネットからは国内マーケット情報は本サイト以外見当たらず、本種も希少種の一つと思われ3,000-3,500円で販売したものの購入者はいませんでした。また偶然にマレーシアのスタンレー氏がタイのJoe&Mamブースにて開花中の株を含め本種をDen. spとして出品していましたがそちらでも販売した様子は見られませんでした。スラウエシ島生息に間違いなければ新種かあるいは同島にもDen. endertiiが生息するという新発見となります。どうも海外勢も本サイトも貴重な新種やマーケット初登場種の売り込み方が今一つで、来年はそうした種の差別化を明確にし、ラン展に訪れた方に分かり易くする対策が必要と痛感しています。

Den. papilio Den. sp from Sulawesi

Bulbophyllum sp from Papua NewGuinea

 昨年8月に入手した下写真のBulb. spが開花しました。左右のセパル間のスパンは5㎝です。今年1月のAJOSサンシャインラン展に、一見セパルにラインが無いBulb. zebrinumの様であったためBulb. zebrinum-likeとラベルに書いて2,500円で出品しましたが果たして購入者がいたかどうか定かではありません。中部地方の蘭愛好会の数名の方が本サイトの温室に来られた際、購入されました。Bulb. zebrinumquadrangulateなどを含むPolymeres節をネットで調べた限りでは、該当する画像が見当たりません。いずれかのジャーナル等にすでに種名が発表されているかも知れませんが新種の可能性が高いと思います。本サイトでの栽培は高温室で低輝度、また下写真に見られるようにブロックバークに取り付けています。

(後記)夜遅く温室で本種を見たところ花が終わる状態に似て、全てのセパルは閉じてしな垂れていました。ところが翌朝再度見たところ下写真のようにピンとして元気です。どうやら雲霧林(コケ林)生息種のようです。よって根が乾燥を嫌う性質と考えられ乾燥気味な環境ではプラスチックポットにミズゴケで植えつけるか、コルクやヘゴ板の場合は根だけでなくその周りも多めのミズゴケで覆って、常時根を湿らせておく栽培が良いと思います。

Bulb. sp Papua NewGunia

カラーフォームの異なる2種

 現在、Den. reypimentelliDen. victoria-reginaeが開花しており、その中からそれぞれの種で3つの異なるフォームを撮影してみました。Den. reypimenteliiはミンダナオ島で近年発見された新種で昨年10月にも取り上げましたが、今月は下写真上段中央に見られるようなグリーン色の強いフォームが現れました。通常本種は開花直後は緑味のある色合いですが中央の株は開花後も変化することなくこの色を保っています。また下段は同じくミンダナオ島からのDen. victoria-reginaeです。こちらも先月から開花期を迎えており、青色の濃淡が株によって様々です。この濃淡は栽培環境によって若干変化が見られます。いずれも下垂する40-50㎝程の疑似バルブをもち、標高1,300m程の生息種で中温室にての栽培です。

Den. reypimentelli
Den. victoria-reginae

Bulbophyllum sanguineomaculatum (Bulb. maculosum)

 昨年12月にマレーシアから持ち帰ったBulb. spがあり、サプライヤーによると、全てのセパル・ペタルにドットのあるBulb. membranifoliumに似た種であるとの説明でした。Bulb. membranifoliumは黄色をベースにドーサルセパルやペタルには点から棒状までの斑点があり、ラテラルセパルにはラインが入ったり、無地が一般フォームです。そのspが今月に入り開花しました。確かにセパル・ペタル全体に斑点が入る派手なフォームでしたが正しい種名はBulb. sanguineomaculatum、シノニムとしてBulb. maculosumでした。

 そこでなぜこれをBulb. membranifoliumに似た、としたのかネットでBulb. membranifoliumを画像検索したところpinterestのサイトBulb. membranifolium名でセパル・ペタル全てにドットが入った種の画像が僅かながらありました。しかし、この画像は蕊柱やリップまたラテラルセパルの形状からBulb. membranifoliumではなく、Bulb. maculosumと判断されます。またorchidspecies.comによるとBulb. maculosumはしばしばBulb. membranifoliumとして引用(誤解)されており、両者は形状的に異なることが記載されています。さらに国内の楽天市場サイトでは、Bulb (cirrphopetalum) . maculosum名で、それとは全く異なるBulb. auratumのような形状のバルボフィラムが販売されていました。

 次にBulb. sanguineomaculatum名で市場価格を検索したところネット上には見当たりません。Bulb. maculosum名ではどうかとこちらも調べたのですが本サイトを除き、また前記した楽天市場での本種名は別種として、該当するものは見当たりません。黄色をベースに赤褐色の斑点をもつ派手なフォームを見ると、人気があっても不思議ではなく、それでは本種は入手難な種なのかと、昨年末からビニールポットに入れられたままの本種をようやく炭化コルク付けに植え替えすることにしました。下写真は今回開花の花画像で、スラウェシ島生息株とのことです。

Bulb. sanguineomaculatum (Bulb. maculosum)

開花中の胡蝶蘭原種3点

 7月現在開花中の胡蝶蘭です。Phal. maculataは高温・低輝度、Phal. violaceaは高温中輝度です。高温タイプの胡蝶蘭原種の最低温度は18℃で、国内の冬季4か月程を15℃以下に置くと作落ちあるいはやがて枯れ始めます。Phal. lindeniiは高温でも良いとされますが、高温では花付が悪く現状維持までで、中温が好ましい環境となります。

Phal. maculata Phal. violacea Sumatra Phal. lindenii


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